第3話 賢者ドラーガ・ノート
「荷物持ち……?」
私は自分の耳を疑った。
大陸一と名高いSランク冒険者パーティーの拠点で一番の大物臭を放ちながら上座に鎮座していた男性。悠々と構えているその佇まいはいかにも『只者ではない』って感じだったんだけど……その人からの突然の荷物持ち発言。私が握手したまま固まっていると、プッ、と噴き出す声が聞こえた。
「アーッハハハハハ! 冗談! 冗談だって!! 真面目か!! ハハハハ……」
大声で笑いだしたのはドラーガ・ノートさん、と名乗った本人だった。そりゃそうだよね。これだけ大物臭を醸しておいて『荷物持ち』なんて窓際族みたいなクラスの人なんかいるわけがない。っていうか
「ハ……ハハ……」
新人の洗礼というものだろうか、リアクションしづらいネタを振られて私は苦笑いで返した。初めて会う人なのによく分からない内輪ネタを振られても正直困ってしまう。
……のだが、どうやら違ったようで、私の半笑いでも場は全く和んでいなかったのだった。
「チッ」
アルグスさんが舌打ちをする。
「穀潰しがッ……」
アンセさんはそう呟いて椅子の背もたれに寄りかかってつまらなそうな表情で天を仰ぐ。
「うふふ、ドラーガさん本当に荷物持ちじゃないですか」
唯一クオスさんだけは当たりがソフトだけど、それでも言ってることは厳しい。
勇者様はそのまま忌々しそうな表情でドラーガさんの方から視線を逸らしている。空気は冷えっ冷えである。
此は如何なることか
おかしい。何かがおかしい。
話の流れからまず間違いなく、いやこのメッツァトルの本拠地の建物の中にいることからしても、間違いなくこのドラーガ・ノートさんもメッツァトルの主力メンバーであるはずなのに。なのになぜこんな扱いなんだろう。確かに、少し空気読めないかな~? って感じるところはあったけども、でもいくら何でもこの塩対応は酷いんじゃないだろうか。
なんだかこのパーティーでやっていける自信がなくなってしまう。噂のメッツァトルがこんな空気のギスギスしたパーティーだったなんて。
私がおろおろしているとその気持ちを察したのか、アルグスさんがこちらを気遣って話しかけてきた。
「ああ、ごめん。普段はこんなじゃないんだよ。ただ……」
勇者様の表情が、暗く、いや黒くなったように感じた。
「ただ、こいつはちょっと特殊だから……まあ、キミもその内わかるよ……それより、自己紹介してもらえるかな。キミのことが知りたいんだ」
勇者様にそう言われて私は思わず顔を紅潮させてしまう。そうだった。パーティー加入の面接に来たっていうのに、肝心の自分が自己紹介をしていなかった。なんたる失態か。
「す、すいません! 私の名前はマッピです。北の方の、レーウェの村から来ました。
その瞬間、小屋の中で「おお!」と歓喜の声が上がった。
「やった! 待望のヒーラーだ! これで、もっとダンジョンの奥の階層まで行けるぞ!!」
勇者様がガッツポーズをとりながらそう言う……んだけど、『待望の』……? 違和感を感じた私はその質問を率直にぶつけてみることにした。
「え? メッツァトルって今までヒーラー無しでやってきたんですか? 確かにヒーラーはそれだけで生計立てられるから冒険者ギルドに所属してる人は少ないですけど、大陸一の実力と名高いメッツァトルにヒーラーがいなかったなんて……」
「いや……まあ……」
アルグスさんは妙に歯切れの悪い回答だった。
「なんだよ水臭いな! 回復魔法なら俺が使えるだろうが! この『賢者』ドラーガ・ノート様がなぁ!!」
その言葉に私は思わずバッと首を思いっきり振って彼の方を見てしまった。急な動きだったので少しドラーガさんがビクッとする。
「けっ、賢者!?」
大きくなってしまった自分の声に気付いて私は慌てて口を手でふさぐようなしぐさをする。でも仕方ないよ。それくらい驚いたんだから。この人が賢者だって!?
「お、おう、そうだ。悪い悪い、さっきの自己紹介の時ちゃんと言ってなかったな。俺の
『賢者』……まさか実在したなんて。戦士職の最高峰が勇者であるように、魔法職の最高峰に燦然と君臨する伝説のクラス、賢者。
攻撃魔法を得意とする魔術師やウィッチ、聖属性や回復魔法を得意とするヒーラーやクレリック。そして属性を問わず魔法を使えるけれど、戦闘職というよりはどちらかというと研究者の側面が強いウォーロックやスペルマスター。
そして、全ての魔法を駆使し、最前線で戦い、それだけでなく相反する二つの属性を『同時』に扱うことができるという伝説のクラス。それが賢者。
さっ、さすがは大陸一と名高いSランクパーティーのメッツァトル。伝説ともいえるほどのレアなクラス『勇者』と『賢者』が揃っているなんて……
あれ? でも、だとしたらさっきから場を支配しているこの不穏な空気は一体なんなの?
この人って、パーティーでどういう立ち位置なの?
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