冒険者になろう

第18話

 タクト、ジェミー、メグ。俺以外は名前を変えて冒険者になったし、俺とメグことちびっこは髪の色まで変わった。一目で俺達だとバレる事はないだろう。ジェミーことジェンマ先生は外見は変わっていないけど、先生みたいな欧米風のルックスはこっちの世界じゃ珍しくもないらしいので、取り敢えずはそのままだ。


「それでお前ら、パーティ名はどうするんだ?」


 この人はカーブレ冒険者ギルドのギルドマスターでビューエル。ちょっと手合わせしてもらったんだけど、手も足も出なかったし、強すぎてどれだけ強いのかも分からんかった。

 銀髪のイケメンエルフで魔法の腕も凄いっぽいんだけど、エルフのイメージをわざとぶっ壊そうとしてるんじゃねえかってくらい、言動は粗野……いや、はっきり言って品がない。

 俺的には接しやすくてありがたいけどな。


 で、このビューエルさんは、どうも俺達を召喚した黒幕のアプリリー猊下とかいうヤツが嫌いらしいし、やり口も気に食わんとか。それで、ポイ捨てされた俺達を半ば保護するするような形で迎え入れてくれた。


「ん。タクトが決める」

「は!?」

「うん、拓斗君でいいんじゃない?」

「ええ!?」

 

 二人とも割とどうでもいいらしい。


「ボク達が助かったのはタクトのおかげだから、タクトが決めた事に従う」

「そうよねえ……あたしが一番年上だけど、一番役に立ってないもの」

「ぐぬぬぬ……じゃあ、『ナノ』でどうだ」


 何の捻りもない。俺の身体を護っているのか改造しているか分からん謎の物質、ナノマシンからいただいたものだ。


「おー、それで決まり」

「あ、うん、いいんじゃないかしら?」


 くっ、こいつら、どこまでも無関心かよ!


「よし、じゃあお前ら三人、『ナノ』ってパーティで登録しとく。それから、全員護身術程度で構わねえからなんか身に付けとけ」

「ん。冒険者は少なからず危険が伴う。ギルマスの意見に賛成」


 ビューエルさんにちび……メグが同意するけど、身に付けろって簡単に言われてもなあ。

 俺達3人は、ビューエルさんに縋るような視線をぶつけた。


「まあ、そんなアテもねえだろうな。そんな訳でベルーガ、アイツに話を付けといてくれるか。確か今はフリーだろ?」

「ええ、分かりました。では、こちらの書類をお預かりしますね」


 へえ、この人はベルーガさんっていうのか。インテリジェンスな美人秘書さんだ。出来る女の雰囲気がプンプンしてるぜ。

 で、ベルーガさんが俺達が記入した書類を持って退室していった。


「ギルドから指導してくれる冒険者をお前らのパーティにブッ込む。超おススメのヤツだから武術やら何やら、色々聞いて早く成長してくれ。期限はお前らが一人前になるまでだ」


 それは有難い。スポーク村までの事で身に染みたからな。この世界は命が軽い。自分の身は自分で守らなくちゃいけないんだ。俺達だけじゃ、きっとすぐに死んじまうだろうな。


***


 無事に冒険者となった俺達は、マンモスボアの売却金額を受け取ったんだが、これがかなりの金額で少々ビビっている。なんでも、全く傷が無い状態で4体もいるのは今まで前例がないって事で、前代未聞の高値で査定されたとか。

 

「聞いた感じでは、こっちの物価を考えるに、贅沢しなければ3人で2年は暮らせる」

「そんなにか。でも冒険者として投資はしなくちゃいけねえから、実質的にはそんなに甘くねえんだろ?」

「ん、装備や寝泊まりするところなんかで結構減ると思われる」

「取り敢えず、服とか日用品を準備しちゃいましょう? これじゃ流石にねえ」


 そうだな。あの村で分捕ったものを着てたから、色々とお粗末だ。ああ、俺達を案内してくれたヤツなら、ちょっと小遣い持たせて帰らせたよ。優しいだろ?


「ん、武器なんかは指導してくれる冒険者とかに協力してもらった方がいい」


 ん、ちび……メグのいう通りだな。こいつ、実質まだ中学生のくせに、俺達の中じゃ一番頼り甲斐があるんじゃねえか?


「それじゃあ行きましょうか!」


 ジェンマ先生……ジェミーは明るく振舞っているけど、空元気なのは一目瞭然だ。痛々しい。自分の生徒達が心配なのは無理もないけどな。でもまあ、乗り越えてもらうしかねえんだよなあ。

 メグだって、日本に家族だっているだろうし。お気軽なのは俺だけか。



 それでも何だかんだと町の中心部は、俺達にとっては珍しいものが沢山売っていて、それなりに気分転換にはなった。カッコだけとは言え帯剣している俺達に絡んでくるヤツもおらず、まあまあ平和に買い物を楽しむ事が出来た。ただ、元々美人でワガママボディのジェミーと、髪色が変わったらグッとイメージが変わって美少女になったメグに纏わりつく男共の視線はあったけどな。そしてそんな二人を連れて歩く俺には怨嗟の視線。


「とりあえずはこんなものでいいかしらね?」


 着替えや食器、鞄とかの日用品にちょっとした食料なんかを買い揃え、俺達は冒険者ギルドが斡旋してきた宿屋へと向かう。

 一泊二食付き。バス、トイレは共同。メグによれば日本円換算で約3000円くらいだそうだ。ちなみにこっちの貨幣だと銀貨3枚。これで貨幣価値は察してね?

 取り敢えず自分達の拠点を構えるほどの所持金は無いので、ギルドが斡旋してきた宿を定宿にしてしばらくは活動するつもりだ。

 少しでも節約するために3人で一部屋って案も出たんだが、流石にそれは俺が色々とマズいので遠慮させてもらった。


「金の翼亭。ここね」


 木造二階建て。正面玄関っぽい観音扉の上に、【金の翼亭】という頑丈な看板が打ち付けられている。その観音扉を開いて中に入るとホールがあり、正面突き当りにカウンターがある。カウンターにいるのは壮年の紳士だ。黒服をきっちりと着こなしているあたり、それなりのホテルのホテルマンの雰囲気だ。


「冒険者ギルドの紹介で来ました。冒険者パーティ『ナノ』です。シングル一部屋とツインを一部屋おねg――」

「いや、ツインを二部屋だ!」


 部屋の手配の最中に割り込んで来た人物。

 背中に長剣を背負い、レザーアーマーに身を固めた戦士がそこにいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る