辛口キャラメル
カラ缶
第1話
辛口キャラメル
俺はブラック企業で働く32歳の社畜だ。この会社では毎日残業が当たり前、家に帰る時間なんて当然のように深夜をまわる。なので、家ではエナドリをローリングストック法によって常に1ダースを維持している。そして明日は約1ヶ月ぶりの休みだ。「やっと休めるよ。ったく、あのクソ上司、俺達社員をこき使いやがって」そして俺は帰るなりすぐにベッドに倒れ込んでそのまま寝てしまった。
翌日起きるなり俺はすぐにスーパーへと向かった。食い物がなかったからだ。「ああ。腹が減った。さっさとなんか買って帰ろう」そしてスーパーに入ると、「辛いものフェア」という物をやっていた。「マジか! 嬉しいわぁ」そう、俺は大の辛いもの好きなのである。数ヶ月前、俺はカレー屋で通常の何倍もの辛さのカレーに挑戦した事がある。好きなだけで、得意な訳じゃないのでその時は口の中がとても辛かった。
そんな事を思い出しながら売り場の辛いものを見ていると、お馴染みのカレーや麻婆豆腐などがあるが、一つだけ目を疑う物が売られている。「か、辛口キャラメルだって?」おいおい、キャラメルって甘いものじゃねぇのかよ。
まあでも、辛いものなら何でもいいや。俺はその辛口キャラメルとカレーパンを持ってレジに持って行った。
俺はそそくさと家に帰り、カレーパンを噛みちぎりながら辛口キャラメルをじっと見た。
「世の中には変わったお菓子もあるもんだなぁ。カレーパン食い終わったら食ってみるか」俺はカレーパンを口に放り込み、箱の中で一つ一つ小袋に入っているキャラメルを一つ取り出して口に入れて飲み込んだ。
「おぉ。辛ぇ。いや〜この辛さがしみるんだよなぁ〜」そう言いながらネットニュースを見ていると、だらしなくて汚らしい芸人が話題になっていた。それを見た俺は、「きたねーんだよ。ったく、ただ馬鹿っぽい事してそれで笑い取れると思ってんのか。所詮楽だと思って芸人になったんだろ」という事を1分ほど言った。
「うぉっ!」俺は我に返った。なんか毒舌なコメントを発していたような……。普段の俺なら「ハハッ、こんな事してるよこいつ。最近はこんな芸風のやつもいるんだな」みたいな感じなんだけどなぁ……。もしかしてあのキャラメルのせいなのか? そうだ、「辛口キャラメル」
というのはただ辛いだけじゃなく、自分が辛口なコメントを発するようになってしまうのか。だからあんな事を言っていたのか。効果は約1分らしい。まだちょっとよく分からないけど。
ったく、困った機能がついてるキャラメルだなぁ……。いや、これを上手く使えば……。
「うしし。へへっ、あのクソ上司、見てろよ」
翌日、早めに会社へ出勤した俺は上司が来るまで隠れて待機していた。
「おっ、クソ上司やっと来たなぁ、よし、このキャラメルを食ってと……、うしし」俺はヤツの前に立った。「やぁ、おはよう」「おはようございますぅ」上から目線でヤツを見る。
「な、なんだ鈴木くん」「あのぉ、須藤さん、いい加減俺らをこき使うのやめた方がいいっすよ。これ以上やるようなら労基にも訴えますし、会社の中のあなたのイメージが下がる一方っすよ? だいだい、あんたは仕事はしない、部下の女性社員にセクハラ、暴言といった人間してクソな要素が勢揃いなんですよ?」と、俺は言葉のマシンガンを上司に打ってやった。
「く、くそ、うるさいぞ! 黙れ!」
「よしよし、これもキャラメルのお陰だぜ。ほら見た事か、あのクソ上司!」
スッキリして上機嫌な感じで自分の席に向かった俺は同僚の酒井に話しかけられた。
「おい鈴木、なんかさっき大声で上司に文句言ってた人がいたけど……。」「あぁ、あれ俺だよ」マジか! と酒井が驚く。
「それはな、この辛口キャラメルってやつのお陰なんだよ。こいつのお陰であのクソ上司に言いたい事全部言ってやったよ」「へ〜俺にも一個くれよ」と酒井が言うので俺はキャラメルを一つやった。
「おおっ! 辛い! でもこれで僕もあの上司に色々いってやれる!」「おう、頑張れよ」と俺は試験を受ける子どもを見送るような口調で酒井の背中を押した。
そしてそのキャラメルを食った酒井はいつもとは違う雰囲気を醸し出していた。「あの、須藤さん」「ど、どうしたんだ酒井君」そして酒井は言った。
「この際だから言わせてもらいますけど、僕はあなたが仕事を全くしてないのを知ってるんですよ。あと、経理の吉井さんから聞きましたけど須藤さん、あなた、会社のお金でキャバクラに行ってるそうですね。この情報が表に出たらどうなるか……。さあさあ、どうしますか?」「な、なんなんだ、鈴木も酒井もうるさいぞ! 黙れ!」そして上司は分が悪くなったのかどこかへ一目散に逃げて行った。
「いやぁ〜酒井、どうだ? スッキリしたか?」「ったく、あのクソ上司マジでキモいんだよさっさと解雇されりゃいいのに。」あれ? おかしいな? もう1分経ってるはずだから元の温厚な酒井に戻るはずなのに。そうやって愚痴を言っている酒井の前歯には、キャラメルがへばりついていた。
辛口キャラメル カラ缶 @karakan0618
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