第32話『名前を呼んで』
〇作者より
リメイク所の都合で第33話を削除しています(正確には第17・18話の間へ繰り上げ)
リメイクが進みましたら話数を合わせます、申し訳ありません。
――
「王子、クラス会しようよー!」
「クラス会?」
月も変わったある日の授業の合間、クラスメイトたちと談笑をしているとみくさんが突然大声で主張した。
「アタシたちも結構仲良くなってきたじゃん?」
「そうだね、俺このクラス好きだよ」
――え、王子私たちの事好きだって!?
――私たちも王子が大好きだよぉ……。
――こんなに男の子と喋る機会なんて今後絶対ないもの……。
――私E組で本当によかった……。
それぞれが思い思いの言葉を紡ぐ、俺は自分を慕ってくれる人は一概に好きだよ。
だからどうかこれからもちやほやして頂けるようよろしくお願いします。
このモテライフを失いたくない。
毎日なんてことない話をしているだけなのだけど、それこそが好評らしく。
みんなで今日は誰が俺と話すのか順番を決めているらしい。
千尋に教えてもらうまで全く知らなかった。
俺としては毎日が違う人とのお喋りになるわけだから話題もあまり飽きないし、こっちがむしろ楽しませてもらっていると思う。
そういう感じでみんなの仲も大分深まったと思うのだがクラス会かぁ。
おもしろそうではある。
「クラス会ってなにするの?」
「んー、みんなでどこか行って遊んだりとかかなぁ?」
クラス全員でかぁ、そうなると大分場所が限られてくるかな?
気軽に全員で楽しめるもの……。
「ボウリングとか?」
「いいね、ボウリング!」
俺が提案するとみくさんがそれに同意しとんとん拍子で話が進んでいった。
そういうわけで週末に俺たちはクラスで遊びに行くことになったのである。
――
「いぇーい! ストライク!」
「おぉー、すごいなぁ」
「すっごーいみくちゃん!」
こうしてやってきたクラス会当日。
運良く誰も欠けることなく全員参加が出来ている。
よく全員参加出来たなぁ、予定とか大丈夫だったのかな?
――裏で彼女たちがクラス会とはいえ、男子と遊びに行くことよりも優先する用事があるわけないということを俺は全く考えていなかった。
そんな能天気な俺は置いておいて目の前では仙道さんがストライクを取ったようだ。
彼女見るからに運動神経良さそうだし、ボウリングも得意なんだろうか。
「ちっひー! 頑張ってね!」
「う、うん……」
みくさんと入れ替わるようにレーンの前に立ったのは千尋。
だ、だいじょうぶかな……?
なんかこうドジっ娘じゃないけど、投げ終わったら後ろにひっくり返りそうな予感がするんだけど。
余計な心配をする俺だったが、予想と反してボールを放った彼女の球は真ん中に一直線で進み……。
「おぉーっ!」
「ちっひー、やるねぇ!」
「千尋ちゃんすごーい!」
ピンは全部倒れて見事ストライク、まさかあの感じからストライクを取るとは。
「王子ビビったっしょ?」
「千尋ちゃんて結構運動神経良いんですよ」
「失礼だけど予想外だったよ……」
小さくガッツポーズをして戻ってきた千尋を出迎える。
前二人とハイタッチをし俺のところまで来る、もちろん俺も右手を挙げてお出迎え、パンッとハイタッチで心地良いたてると彼女は嬉しそうに俺の隣へと座った。
「二人にも言ったんだけど予想外だったよ、もしかしたら千尋転んじゃうんじゃないかって変な心配してたよ」
「ひ、ひどいよ一ノ瀬くん」
彼女は苦笑いしつつも仕方ないなとホッと息を吐いた。
「そういえばさ」
「うん?」
ふと気になったことを彼女へ告げる。
「千尋はいつ俺の事を名前で呼んでくれるの?」
「え、えぇっ!?」
千尋はとても驚いた様子で若干後ずさった。
いやそんな驚かれるのは俺もびっくりだよ。
「そんなに驚かなくても……」
「だ、だって男の子を名前で呼ぶなんて……っ」
うーん、こうなってしまうか。
やはり男という存在ってことで色々と遠慮されるようだ。
「まぁ、無理にとは言わないけどさ。ただみんな『王子』って愛称を付けて呼んでくれるから千尋も苗字じゃなくて下の名前でどうかなって思ってね」
「じゃ、じゃあ王子様……」
「それだけは止めてくれる?」
王子呼びは未だに恥ずかしくて一向に慣れる気はしない。
正直子の呼び方は止めてほしいんだけどってクラスメイトに伝えたんだけど何故か止めてくれないんだよな。
利用するようで悪いけど俺男ですよ?
しかし想いもむなしくクラスメイトは王子呼びを変えることはなかった。
絶対に譲れない事だったりするのだろうか、いったい何故彼女たちがそこまで王子呼びを気に入ってるのかは皆目見当もつかないのであった。
そういうわけで千尋が唯一『一ノ瀬くん」と呼んでくれるのは俺の癒しでもあるのだ。
結構仲良くなったしそろそろ名前呼びでもいいかなと軽い気持ちで提案したが、この世界の常識ではそう簡単にはいかないようだ。
まぁ無理強いするつもりもない、彼女を困らせるつもりもないし。
視線を前へ向けると紗耶香さんが投げ終えちょうどピンが全部倒れたところだった。
おいおい、紗耶香さんもストライクって三人してボウリング上手くないかい?
「ふふ、やりました!」
「凄いねみんな、ボウリング上手でびっくりだよ」
「みんな王子様に良い所見せようと気合入ってますから」
他のレーンへ目を向けると次々とストライクやスペアをとっているようで。
え、何でみんなそんな上手いの……。
いくらなんでもびっくりだよ。
俺がボウリングって言いだした時誰一人として難色を示さなかったけどみんな得意だからなの?
いやいやそれってどんな確率なんですか……。
嘆きつつも俺の番が回ってきたようだ。
「王子ファイトー!」
「王子様頑張ってー!」
みんな手を止めて俺に注目する。
や、やめてくれ……、いつもなら嬉しいけど今日に限ってプレッシャーでしかない。
別に俺はボウリングが苦手なわけじゃない。
スコアだって調子良ければ150以上は取れる時もあるし。
誤算なのは彼女たちがこんなにもボウリングが上手いとは思わなかった。
ここまで誰一人としてガターを出してないし。
……今フラグが立ったような気がしないでもない。
ひとまず気を取り直し深呼吸だ深呼吸。
「ふぅー……」
落ち着いてきた、いけるぞ。
狙いは真っすぐ真ん中だぁー!
腕を振り球を転がす。
球の軌道はブレずに一直線へと転がった。
……しかし。
「あちゃぁ、端に一本残っちゃったね」
「スペア行けるよ王子様!」
端っこにちょこんと一本残ってしまった。
――おい、あいつ空気読んで倒れろよ、何踏ん張って残ってるんだよ!
無機物に対して文句を心の中で言い続けるも結果は変わらない。
まぁスペアさえとれば面目保てるから……。
内心で必死に強がりながら二投目を放る。
しかし狙いを付けすぎたのか球は角度が付きすぎて……。
「あ……」
球はガターへ転落してしまった。
「どんまい王子!」
「次があるよ!」
結果は9本。
別にオールミスじゃないし、よくある点数ですよ。
ただみんなストライクかスペア出してるからさ……。
別に俺は男女差別とかするつもりもないけどさ。
やっぱり男が女の子よりボウリング下手なのって何か格好付かないじゃないか。
中には凄く上手い子もいたけど、このメンバーは全員がその上手い子に当てはまるんだよ。
何が言いたいかというと、この中で一番ボウリングが下手な人間は俺だと決まったという事だった。
――もう帰ろうよ。
とまぁ、心の中で文句を垂れつつもこれは遊びである。
相変わらず彼女たちはストライクをバンバンとっていくのを見て、仕方ないと思いつつ俺はみんなとボウリングを楽しんだのだった――。
――
「はぁー、今日は楽しかった」
「……うん、そうだね」
駅までの帰り道、俺と千尋は並んで歩いている。
今日のクラス会、ボウリングの結果はみくさんの圧勝で幕を閉じた。
あの子常にストライク取ってるような気がしたんだけど、プロ目指したらいいんじゃないかな。
対しての俺は最高が150だった。
いやこれ全然良い方なんだよ。
調べたけどこの世界の男子の平均100いかないくらいだから俺すごく上手い方なんだよ。
クラスメイト達も『王子様凄く上手だったよ』『王子様の魅力がまた増えたね!』って言ってくれたし本心だと思うんだ。
ただ彼女たちと比べたら最下位なわけでね。
ちっぽけな俺のプライドがポキン折れてしまった。
とはいえだ、楽しかったのは事実だ。
また行きたいと思う。
最後にみんなで記念写真撮った時も全員良い笑顔だったし。
またこういう催しをやれたらなって思うよ。
提案してくれたみくさんには感謝だ。
しかしボウリング場から帰る際だ。
何故か不自然にみんな『アタシたち用があるから!』って別方向に行ってしまった。
俺と千尋だけ残して。
……これはそういうことなんだろう。
以前に千尋が俺へと告げた『夢中にさせてみせる』
この時の彼女をみんな否定することなく支持した。
つまりみんな気を使ったというわけだな。
千尋もなんとなく理解しているのか下を向いたままである。
緊張しているだろうか話しかけても若干上の空だ。
もうすぐで駅に着く。
電車では彼女と反対方向なので一緒に帰れるのはここまでだ。
――結局あんまり喋れなかったな。
無理もないとは思う、驕るわけではないが今の俺は前世でいうクラスのマドンナ的な存在。
俺だっていきなりそんな相手と二人きりにさせられたら上手く話せる自信はない。
あんまり気にしないでほしいと彼女に伝えよう。
そう思って口を開こうとしたが先に彼女が口を開いた。
「一ノ瀬くん……いや、その、あの……」
何か伝えたいことがあるのだろうか、顔を赤くしてて上手く話せない彼女に対して俺は黙って言葉を待っていた。
「……っ、恵斗くん!」
「……名前」
顔を真っ赤にしながら目を瞑っている千尋。
そっか、ボウリングの最中に俺が言った事ずっと考えててくれたんだな。
「ありがと千尋、名前で呼んでくれて嬉しいよ」
「そ、そんな事……っ」
「いーや、言っておくけど本当に俺嬉しいんだからね」
名前で呼んでくれるのは嬉しい、特に相手が親しい友人ならば。
あの日決意を語ってくれた千尋に俺は少しながら惹かれているのかもしれない。
だから彼女には他の人と同じじゃなくて名前で呼んでほしかったんだ。
「これからもよろしくね千尋」
「……うん、恵斗くん」
まだ少しだけど、彼女との距離が縮まった。
そんな気がした一日だった――。
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