第17話『理奈への決意、佐良千尋の決意』
朝、駅でまれちゃんを待つ。
なんとなく今日は着替えの手伝いをしなくても彼女はこの時間にやってくると予感がしていた。
「おはよう~けいくん」
「おはようまれちゃん」
いつものハグをしてお互いの挨拶を終える、この日課は何時如何なる時も欠かせないものだ。
「りなちゃんとしっかり話せた?」
「うん、ちゃんと日曜日にデートの約束を取り付けたよ」
「ふふっ、そっか」
昨日のまれちゃんへと伝えた俺の行動は『理奈をデートに誘う』こと。
その提案に彼女はそれならば大丈夫だとお墨付きをくれたのだ。
昨日の理奈との電話でのやり取りを振り返る。
『もしもし理奈か?』
『けーと……?』
『ごめん急に、今大丈夫か?』
『うん……大丈夫』
『そっかよかった、まずは今日の事謝らせてくれ、理奈を傷つけたのをしっかりと理解してる。本当にすまなかった』
『い、いいんだよ、だってあたしはけーとのただの友』
『そこでだ理奈! 今週の日曜日に俺に時間をもらえるか?』
『え、日曜日……? う、うん……その日は練習休みだから大丈夫』
『日曜日に俺とデートをしよう』
『で、ででででっでーとっ!?』
『あぁ、俺と理奈の二人きりでだ』
『な、なんであたしなんかと……』
『理奈に大事な話があるんだ』
『だ、大事な話……? そ、それって……っ』
『その先は日曜日のデートで言わせてくれ、とにかく日曜日楽しみにしてるから』
『……うんっ、わかった。楽しみにしてるよけーと』
『あぁ、それじゃあおやすみ理奈』
『えへへっ、おやすみけーと』
理奈をデートに誘うのは初めてだからかなり緊張した。
今まで休日に遊んだことってのはあるけど、大体はまれちゃんも一緒だったり、一緒に野球をしたりでまるで普通の友達と遊ぶような感覚だったから今まで彼女を『女の子』として扱い休日を過ごしたことはない。
だからこそこうしてちゃんと『デート』として彼女を誘うのは会話中ずっと余裕ぶってたけど実は手に汗を掻いて心臓もバクバクうるさくて実は凄く緊張していたのだった。
そして会話の中であった理奈への大事な話。
これはもちろん彼女へ……いや、今言うべきことじゃないな。
俺は頭の中で浮かんだことを振り払いつつ、理奈がこの場に居ないことを彼女へ尋ねる。
「ところで理奈は?」
「ふふっ、急遽部活の朝練って言ってたよ、帰りも部活だから一緒に帰れないって」
朝練なんて嘘だろうというのは俺もまれちゃんもわかっている。
俺も理奈も互いの顔を今は見辛いしな
とにかく理奈に関しては日曜日に集中しよう、その前にしっかりとデートプラン考えないとだ。
そうして今日も学校生活が始まる――。
「おはようみんな」
「おはよう王子様!」
「今日もかっこいい、前髪がバッチリだね!」
「そうかな? よく見てくれてるんだね、ありがとう」
「王子様! 名前覚えてくれたのって本当ですか!?」
「まだ名字だけだけどね、いずれはフルネームで覚えるつもりだよ。君は竹田さんだったよね」
「王子様ー! 私は前田粧裕ですー!」
「前田粧裕さんね、オッケーちゃんと覚えたよ」
教室に入ると席に着く前からクラスメイトに囲まれる。
あぁ、やっぱこれだよ俺の理想の生活は。
中学の時には達成できてたけど、やはり高校でもこうなってくれると嬉しい。
これが俺の夢だったモテモテ学校生活だ……っ。
え、理奈の事はどうしたって?
ちゃんと考えてるから、どこに行ってどこをを周ろうかって頭の中いっぱいだから。
ただ、モテたいのも事実だから……。
まれちゃん公認だし、理奈もこれに関しては認めてくれてるはずだから……。
誰に向けて言ってるのかわからない言い訳は置いておいて、実は昨日から気になっていることがある。
それは呼び名が『王子様』で定着してしまったこと。
言い出したのはみくさんと紗耶香さんだったか……。
これが何故かクラスメイト全員に定着してしまった。
正直の所この呼び名は好きではない。
王子様ってなんだよ、俺はそこまで大層な人間じゃないし、いつまでもモテたい欲を捨てられなかった元三十路手前の独身男だぞ。
はっきり言って恥ずかしいよ。
ただ女の子が気に入ってることを止めさせたいかって言われればそうではない。
彼女たちが自分に関することで楽しそうにしてるのは俺も嬉しいんだ。
まぁ定着してしまったものはしょうがない、受け入れようと思っている。
ただ、王子様呼びはいいんだけど俺の名前ちゃんと覚えてるよね……?
俺はちゃんとみんなの名前覚えるつもりだからね?
俺の名前は王子様じゃなくて一ノ瀬恵斗だからね?
そこのところお願いしますね?
そんな俺の想いはさておき、クラスメイト達と談笑していると佐良さんたち三人組がやってきた。
「王子おっはよー!」
「王子様おはようございます」
「一ノ瀬くん……、おはようっ」
「三人共おはよう!」
特にみくさんは一番元気がいい、紗耶香さんはお淑やかな面が出ていて、このクラスで唯一王子様呼びしない佐良さんは一番好感が持てる。
「ねぇねぇ佐良さん」
「え、な、なに?」
俺を囲んでいた一人の女子が輪を抜け佐良さんへ声を掛ける。
「王子様とはどこまで進んだの?」
「えぇっ!?」
「げほっ、げほっ!」
いきなりぶっこんできた。
そうだよなぁ、普通気になるよなぁ。
結局昨日クラスメイトにははぐらかせたのかわからない空気で終わったんだもんなぁ。
「昨日あれから四人でどこか行ってきたと思ったら少し仲良くなって帰ってきたし、何か進展あったのかなって」
「仙道さんと砂村さんも居たんだよね、どうだったの?」
「あ、あははー」
「ほほほー」
二人ともごまかすの下手か?
もうちょっと何かないの!?
「王子様どうなの?」
「え、あー、そのぉ、どうなんだろうね!」
『王子(様)もうちょっと何かないの(ですか)!?』と言ってる二人の心の声がよく聞こえる。
ごめん、俺もごまかすのは下手だった。
ど、どうしようかなー。
理奈とのこともあるのにこれじゃあなぁ。
これ以上誤魔化せそうにないしはっきり嘘だって言うべきか。
この話題長引けば長引くほどドツボにハマる気がするし。
昨日みたいな事態にもなりかねん。
――人はアレを自業自得と言う。
俺がどう結論を出すべきか困っていると思わぬところから助け船が。
「わ、わたしを助けてくれたんです!!」
目を瞑りながら手をぎゅっと握って叫んだ彼女はクラスの視線を一気に集めた。
注目を集めたのは佐良さん。
助け船を出してくれたのは彼女のようだった。
……視線を一気に集めて『ひぃっ』って怖気付きそうになったけれど。
「え、えと、実はホントの所わたしが一ノ瀬くんに迷惑かけちゃって、それだったのに一ノ瀬君は昨日あんな事言って恥ずかしい思いをしながらわたしのこと庇ってくれたんです」
「そ、そうなの王子様?」
「じゃあ私たちにもチャンスが!?」
「え、えぇ!?」
チャ、チャンス?
その言葉の意味はもちろん分かるけどそれにはどう答えるべきか……。
「一ノ瀬くん!!」
「は、はい」
クラスメイト達に詰められ困っていると、これまた佐良さんが大きな声を出した。
「き、昨日は言いそびれちゃったんだけどあなたに伝えたいことがあります!」
「な、なんでしょう?」
「わ、わたしと……わたしとその……っ」
一瞬言い淀んだ彼女だったが、意を決したように再び口を開いた。
「わ、わたしとお友達になってください!!」
「……と、友達?」
「そ、それでいつか……いつの日かあなたのことを」
「本気でわたしに惚れさせてみせます! そ、そしたらその時は……その時こそあなたから、嘘じゃなくて、本当の告白を聞かせてくださいっ」
クラス中が静まり返る。
息の詰まるような静けさはとても長いように感じて。
想いを伝えた真っ赤になりながらもきちんと俺に向き合っている。
なんだか凄く。
物凄く佐良さんが輝いて見えた。
目立つことするのそんなに好きじゃないだろうに、それなのに俺に正直な想いを伝えてくれた。
ならば俺もちゃんと答えないとな。
「わかったよ佐良さん、いや千尋」
「あっ……」
「君と俺は今日から友達だ。今は何も答えが出せないけど、君が俺を夢中にさせてくれる日を楽しみにしてる。……俺って惚れたらとことん君の事を好きになるから、その時は覚悟してくれよ?」
「……うんっ! 見ててね一ノ瀬くん、わたしがんばるからっ、絶対あなたをわたしに夢中にさせるからっ!!」
その時の佐良さんの笑顔は誰よりも輝いていて、そんな彼女を非難するようなクラスメイトは存在せず。
みんな『佐良さん頑張って!』『くぅ~、悔しいけど私佐良さんの応援するよ!』と彼女に賛辞の声を上げた。
成り行きを見守っていた千尋の親友二人は安心したように笑って見守っていてやがて『ちっひーやるね!』『千尋ちゃん、よかったぁ』と彼女を抱きしめるのだった。
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