6.甘い丸みを帯びた三角形
購買、それは戦場である。いや、だった。
「…………西園寺。一応聞くが、その格好どうしたんだ?」
「デジャブ!!!」
本日2回目の台詞を聞いて俺は叫んだ。
「購買に行ったんじゃなかったのか?」
「……行ったよ。行ったらこれだよ」
朝に新しいワイシャツとカーディガンに着替えたばかりだというのに、カーディガンとワイシャツはよれよれ、ワイシャツの第1、第2ボタンは取れかけ、おまけに体中が痛い。
ここ松ノ葉高校は公立の中でも珍しく学食と購買が併設している学校である。普段弁当を持たされる俺は、どちらかと言うと興味のあった購買を初めて体験しようと意気込み、黒澤に弁当の用意をしなくていいと頼んでおいたのだが、このザマである。
購買ってあんなに人が群がるものなのか。恐ろしいな。俺買える気がしねぇよ。何でかって?そりゃ、人に押しのけられ、その勢いで転んで、多くの生徒に踏まれたからである。痛い、俺床じゃないです、誰かマジで助けて状態だった。まさか不幸体質のせいでここまで悲惨なことになるとは思わなかった。
朝の事情も知っている剣持は察したらしく、俺の購買での戦果を告げる。
「で、収穫はなしだったと」
「よくお分かりで……」
購買で時間を取られたせいで昼休みは残り10分ほどになってしまった。学食に行こうとも思ったが、購買の二の舞になったら昼休みが終わってしまう。
はぁ、超お腹減ってるけど今日は昼メシ諦めっか。授業始まるまで寝て空腹を忘れよう。腹の音?気のせい気のせい。
そうして身だしなみを整えながら席について机に伏せていると、剣持に名前を呼ばれた。顔を上げると心底嫌そうな顔をした剣持がいた。
「いや、呼んどいて何その顔」
「……その大きな腹の音をどうにかしろ。授業中もそんな音を聞かされたら集中できない」
彼女は少し怒りながら俺の机に丸みを帯びた三角形を置いてすぐに前を向いてしまう。
「え、食っていいの?」
「いらないなら返せ」
「ごめんなさいくださいお願いします」
渡されたおにぎりに巻いてあるラップを取って、ぱくっと一口食べる。それとほぼ同時に剣持が「あ」と口を開いた。
「そういえば、それ中身、チョコレートだぞ」
「……………………………………それ先に言えよ」
口の中に米と海苔とはミスマッチな甘みが広がる。中を見ると、予想以上に割った板チョコがぎっしり詰まっている。どんだけ入れてんだお前。
「あっま……」
「お、美味しくなかったか? 私はいつも部活前に食べてるんだが」
これいつも食ってんの? マジ?
驚愕した上に、これ普通に出されたら罰ゲームだぞ、とも思ったが、彼女の優しさでおにぎりをもらっておいてそんなことは言えない。しかもちょっと慌てた顔してるし、困らせるのは本意じゃない。俺はおにぎりを持っているのとは逆の手で剣持の頭を撫でて傷つけないような言葉をかける。
「いや、大丈夫食えるよ。ありがとな」
「……無理して食べなくてもいいからな?」
「へいへい、分かったよ」
心配なのか、その後剣持は俺が食べ終わるまでチラチラと俺の方を気にしながら本を読んでいた。いや、食いづら……。
剣持に見られつつも、無事に昼休みの間にチョコおにぎりを完食した。
でもごめん先生。授業、俺は多分胸焼けと戦ってるので当てないでください。
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