【 退院の日 】


 朝から、何だか病室内はあわただしい。

 退院にあたり、久しぶりにシャワーを浴びることが許された。


 今までの汚れも病気も、このシャワーのお湯で全部洗い流してやる。

 そんな気分だ。


 サッパリした私の肌と髪は、まるでゆで卵のように、ツルンと生き返ったよう。


 看護師さんがシャワーから戻った私を見て、笑いながらこう言った。


「未来ちゃん、赤ちゃんのような肌に生まれ変わったみたいね。うらやましいぞ♪」


「うふふっ、ありがとうございます……」


 私は火照った頬に両手を添えながら、看護士さんにお礼をした。


「でも、入院したばかりの頃は、この子大丈夫かなって、思ってたんだよ。本当のことを言うと。それほど、良くなかったみたいだから。でも、本当に良かった。治って退院できるなんて、私も嬉しい……」


 そんな看護士さんが笑いながら、涙を拭う姿を見て、私も思わず涙が溢れた。


 そして、それは限界を超えて、ポロポロ、ポロポロと綺麗にしたばかりの私の火照った頬を零れ落ちて行った。



 ――この日、病院から出て久しぶりに見た空は、とても澄んだように青かったのを覚えている。


 普段の騒音がこんなにも心地いいんだと、空に向かって深呼吸をしながら、母の横で、そう思った……。



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