シーベッド・サーバールーム

サーバーは背の高い木のようにラックに積まれている。機体のひとつひとつがうなるような排気音を垂れ流し、まるで牛がうなっているかのような音をあげている。


その部屋が誰に用意されたのかを知る者はない。

その部屋のものが何をしているのかを知る者はない。


夜中にあげられる熱風の作用でときどき波がさざめいた。

ファンがカラカラ鳴ってみせれば、そこら中になにかがいると思わせた。


タコの影が現れて、サーバーのひとつに触れると熱かったのか急いで離した。そして驚いた表紙に墨を吐き出しながら壁一面いっぱいに泳ぎ回った。煙幕が張られ、墨があたりに触れると静電気のようなはじけた音が鳴る。


クラゲがゆらぐ。

イワシがヒレをそよがせる。

アメフラシがそこらを這いまわった。


墨から姿を現わしたいきもの達は、時間が経つとシャボンのようにはじけて消えた。

しかし、タコだけは姿を消すことなく存在し続け、ラックだらけの部屋を泳ぎ回っている。


アンコウだけが姿を見せて、部屋が薄水色に照らされる。沸き立つ波は形をともない、ファンの音が海を思わせる。その日から、その部屋は薄水色をするようになった。


何度も生物の代謝が行われ、いよいよペンギンが姿を現わすようになった頃、部屋の天井にまで進出することが許された。部屋は水中を思わせ、いよいよ誰の目にもとまらぬままに新しい生態系が自身の形を環境に合わせて適応させはじめる。



誰もその部屋が何をしているかは知らなかった。

表札のないその部屋を誰も訪れようとはしなかった。

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