シーベッド・サーバールーム
サーバーは背の高い木のようにラックに積まれている。機体のひとつひとつがうなるような排気音を垂れ流し、まるで牛がうなっているかのような音をあげている。
その部屋が誰に用意されたのかを知る者はない。
その部屋のものが何をしているのかを知る者はない。
夜中にあげられる熱風の作用でときどき波がさざめいた。
ファンがカラカラ鳴ってみせれば、そこら中になにかがいると思わせた。
タコの影が現れて、サーバーのひとつに触れると熱かったのか急いで離した。そして驚いた表紙に墨を吐き出しながら壁一面いっぱいに泳ぎ回った。煙幕が張られ、墨があたりに触れると静電気のようなはじけた音が鳴る。
クラゲがゆらぐ。
イワシがヒレをそよがせる。
アメフラシがそこらを這いまわった。
墨から姿を現わしたいきもの達は、時間が経つとシャボンのようにはじけて消えた。
しかし、タコだけは姿を消すことなく存在し続け、ラックだらけの部屋を泳ぎ回っている。
アンコウだけが姿を見せて、部屋が薄水色に照らされる。沸き立つ波は形をともない、ファンの音が海を思わせる。その日から、その部屋は薄水色をするようになった。
何度も生物の代謝が行われ、いよいよペンギンが姿を現わすようになった頃、部屋の天井にまで進出することが許された。部屋は水中を思わせ、いよいよ誰の目にもとまらぬままに新しい生態系が自身の形を環境に合わせて適応させはじめる。
誰もその部屋が何をしているかは知らなかった。
表札のないその部屋を誰も訪れようとはしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます