第5話

 亜人サキュバス、アザレアを、保護した。そして、アルバートが臨時の後見人である。この事について亜人保護管理局タンタネス支部、実戦部隊内での反応は上々であった。手掛かりと呼べるような情報が禄に集まらない状況が続けば、嫌気がさすのは誰だって同じだろう。そこに、光が差した。前に進めることは、良いことではあるのだ。反発は、そう起きない。

 アザレアの格好は、本部でクレハとニシキが整えた。二人にしてみれば、アルバートの処置は雑、の一言に尽きるらしい。二人の手により、アザレアの長かった前髪は左目の方に集められ、薄くなったとはいえまだ残る傷跡を覆い隠すように整えられた。化粧なり何なりの女のことは、アルバートには何も分からない。そう考えれば、有難い話ではあった。

「成る程ね。事情は、把握したわ」

 クレハがアザレアに関する事情聴取を終え、アルバートの書いた関連する提出書を読み終え口を開ける。その言葉には、比較的明るい感情が籠もっていた。本心を見せないこの女狐にしては、非常に珍しいことである。口角をわざとらしく上げている笑みは何時も通りだが、それでも、感情に直結した言葉というものは素直で可愛げあるものだ。常に、そうしていればいい。その言葉は、黙って飲み込む。口にしないだけの分別は、まだアルバートにもある。

「この子の持っている情報は、改めて精査する必要がありそうね。徹底的に、洗いざらい。その価値は、十分にあるわ、ええ。流石はアルバートね」

 上から下まで、余すことなく。値踏みするような視線を、アザレアに対してクレハが向ける。アルバートに対する言葉に棘が含まれるのは何時ものことだが、アザレアを見る眼光は何処か異様だ。獲物を吟味する瞳に近いか。

「そんな戦場で見せるような顔つきで、褒められても、な」

「そうかしら。良い笑顔になっていたのならごめんなさい。眼福とでも思っておいてね」

 揺れる耳が、なんとも胡散臭い。情報が嬉しいのは本音だとしても、まだまだ腹に隠しているものはあるということか。やはり、油断のならない上官だ。

「あの、お茶をお持ちしました、ので」

 仕事中にも関わらず、クレハに視線を飛ばされ、思わずアザレアは固まってしまっていた。盆を持ち、カップを配り歩いていく。紛うことなき、給仕の仕事である。

「あら、ごめんなさいね。うん、でも。その格好、悪くないじゃない」

「そう、でしょうか。このような衣装は初めてなので、勝手が分からず」

「大丈夫、似合っているわよ。アルバートも、そう思うでしょ」

 クレハの言う通り、悪くない、というよりも似合いすぎていた。ひらりと舞うのは黒いロングスカートであり、露出などどこにもないメイド服である。色気とはほど遠い衣装であるにも関わらず、男を惑わす色気が全く隠れていない。

「これなら、と思ってみたのだけどな」

 黒いスカートに浮かぶ臀部のラインが自然に揺れる。恐らく、アザレア本人は何の意識もしていないはずだ。極自然に、無意識の内に扇情的な動きを取る、取ってしまう。サキュバスとしての性と言うより他にない。

 事情と事態を分かっていて、これなのだ。何も知らなければ、いかがわしい奉仕だと思いかねない危うささえ孕んでいる。サキュバスは、やはり危険な亜人だ。

「その、お味の方は、大丈夫、でしょうか」

 味に関しては、普通だった。良くも悪くもない。正直なところ、アルバートが自分で淹れてもあまり味に差はないだろう。早い話が、特に向いているわけでもない、ということだ。だが、サキュバスがメイドに向いているという話も聞いたことはないので、当然と言えば当然なのかもしれない。それに、元々期待をしていたわけでもないのだ。

「あの、アルバート、様」

「大丈夫だ、悪くはない」

 不安げな憂いを帯びた表情が、安堵の笑みに変わる。そのどちらも、正直に言って艶めかしいのだから、やはりどうにも質が悪い。

「そうそう、結構美味しいよ、アザレアちゃん。うん、とても初めてのメイド稼業とは思えないなぁ」

「そ、そうですか。ありがとうございます、ゲイリー様」

 すかさずに声を掛けるのは、軟派男としての矜持だろうか。或いは、エルフらしさの表れなのか。持ち上げすぎにも思えるゲイリーの態度であるが、それに対して、甘やかすな、とまで言う気にはなれない。空気の作り方が上手いのだ。

「いや、まあ、良いんですけどね。あのサキュバスから情報収集する。それは全然構わないんですけどね、クレハ様にアルバート様」

 穏やかになりかける職場で、声を荒げたのは、ニシキだ。いつも通りの辛気くさいメイド服の着こなしのまま、仁王立ちに、不機嫌な態度を隠そうともしない。もっとも、アルバートはニシキの機嫌が良さそうな表情を見た記憶はないのだが。

「あら、何かしらニシキ」

「別に、何もありませんよ、クレハ様。ええ、なんでサキュバスにメイドなんかやらせているのでしょうか、なんて少しも思ってはいませんので」

 わざとらしい言い方だが、ある意味素直ではある。アザレアの教育を押しつけた、その事を根に持っているのかもしれない。

「ほう、ラミアのメイドが、それを言うのか」

「ええ、僭越ながら。もしこれがアルバート様の発案なら、そうですね。変態の素養があると思います。非常に良い趣味かと」

 蛇の冷たい視線を、これでもかと言わんばかりにニシキが活用してくる。何故アザレアにはメイドをやらせるのか、正気でやっているのか。軽口の類いを装ってはいるが、彼女はそれを本気で言っている。つまらない冗談を、冗談として口にする亜人ではないのだ。

「良いじゃないですかニシキさん。アザレアちゃんのメイド姿、本当に似合っているんだし」

「エルフの伊達男には言っていませんが、何か」

「あはは、手厳しい」

 ゲイリーが冗談で流そうとするが、ニシキはそれを許さない。決して彼女にも冗談が通じないわけではないのだが、今は些かタイミングが悪いか。それだけ、ニシキも本気ということでもある。

「私は、ありだと思うのよね。それじゃあ、駄目かしら」

 クレハがカップの中身を口にしつつ、何処かのんびりと言葉を発する。その口調は、何時も通り軽々しい。彼女にとっては、アザレアもニシキも、まるでどうでも良い、そんな印象さえ与えかねない。当の本人であるアザレアが何も言えずに狼狽える中だというのに、気楽なことである。ただ、ニシキを説得できるのは、主人であるクレハだけだ。

「クレハ様、そうは言いますが。いえ、この際です、はっきり言います。サキュバスに普通の給仕は、とてもではないですが向いておりません」

「まあ、でしょうね」

「更に申し上げれば、アルバート様、血を飲ませるのも大概かと」

 ニシキの言葉は、正論だ。嘘偽りはなく、アザレアのことを思っての言葉ですらある。だからこそ、クレハもアルバートも、その言葉を無視することが出来なかった。

「あの、ニシキ様、私は大丈夫ですので」

「いいえ、大丈夫ではないから言っています。良いですか、サキュバスは淫族であり、吸血種ではありません。性交をせず、血を飲ませてお茶を濁す。いつまでもそれで良いわけがないでしょう。動けてはいても、動けているだけですよ、それは」

「さて、血だけを飲ませている、とお前にも言っていたかな」

「いいえ。ですが、考えれば分かります。娼婦として扱わずに、わざわざ給仕をさせるくらいですから。これだけやって家では抱いているなどと言われれば、逆に引きますね。ええ、ドン引きです」

 やはり、アルバートに言い返す言葉はない。事実でしかないからだ。

「ですので、メイドなどさせず、娼婦として扱い下さい。その方が、彼女にとっても無理がありませんから。幸い、アルバート様は独身ですので。気になさる女性も居ないでしょうし」

 一瞬だけ、ニシキの視線が動く。アザレアを、クレハを見やり、そしてすぐにアルバートを射貫く眼光に戻る。感情的にも、魔術的にも、直視したくない眼光だ。アルバートも自然と視線が下がる。ラミアは、蛇眼を持ち、それは邪眼で、魔眼だ。

「まあ、良いじゃない。飼い主はアルバートなのだし。アザレアちゃんのことは、貴方の好きにすれば」

 この話はここまで。そんな態度を、クレハが隠そうともしない。黙らせようと思えば、クレハはニシキを何時でも黙らせることができる。その力関係を十分に発揮する、圧の掛け方だ。それでいて、話の決着をアルバートに投げつけている。

「好きにも何も、始めからそのつもりだ。ニシキ、悪いがこれからも面倒を見てくれ」

 給仕の仕事をさせる。その指導をニシキに頼む。その考えを変えるつもりは毛頭ない。娼婦として扱うのが楽だと分かっていても、頭で分かっているだけだ。はいそうですかと抱けるものでもない。

「さあさあ、この話はこれでお終いよ。私はアザレアちゃんにもう少しお話を聞くから、続きをやりたいなら二人で勝手にやってね」

 白々しい口調で声を上げたクレハが、そのままアザレアの腕を掴んで奥へと連れていく。強引だが、強引であるからこそ、誰も何も言うことができない。それに、事情聴取が必要だというのも事実ではある。

「クレハ様の言うとおり、まあ、どうでも良いのですけれども。どうせ、傷つくのは私ではないので」

「やはり、反対か」

「当然ですね。社会参加を履き違えられても、まあ同じ亜人という括りで困りますから」

「そこまで言うか」

「言いますよ。生態を無視しすぎですから。言葉は悪いですが、彼女はメイドなんかするよりも、性奴隷の方が楽に生きていけますよ」

「それは」

「この社会は、勝利者である人間たちの価値観によって作られている社会ですので。まあそんなこと、言っても仕方のないことですが」

 アルバートにしても、決してアザレアのことを考えていないわけではない。ただ、もしもそれが独り善がりで傲慢なものだと言われてしまえば、言い返せないもの事実だ。

「そもそも、普通に彼女が保護されていた場合、矯正施設で何がされるか。それを知らないとは、聞きたくないですね」

「知らん」

「サキュバスであれば、性奴隷として躾られ、最終的には国営の娼館に派遣され、管理される。ええ、それがこの国の、人間達の定めた適材適所です」

 ニシキの言うことは、本当だ。嘘ではない。ただ、アザレアの前で、それを考えないようにしていただけだ。

「まあ、彼女たちの生態からして、仕方とないことですよ。精気を吸わねば生きてはいけない以上、国が施設で管理をする。ついでに金も稼がせる、合理的ですよ。楽な生き方だと、そう思っているサキュバスも少なくないでしょうし」

「ニシキ、お前は何が言いたい」

「別に、ただ事実を。まあ、なんです。先ほどから言っていますけど、良いのですよ、別にどうでも。クレハ様の言うとおり、彼女の飼い主はアルバート様ですから。私も、クレハ様のメイドですし、やれと言われれば彼女に給仕の仕事を教えます。ええ、仕事ですので」

「お前な」

「それでは、掃除もありますので」

 好き放題に言うだけ言って、ニシキも控えの方へと下がる。溜息が一つ、部屋に響く。他の誰でもない、アルバート自身の深い溜息だ。

「いやあ、災難でしたね」

 ゲイリーの言葉は驚くほど軽い。だが、良くも悪くもそれがゲイリーだった。その軽さに救われることもあれば、鬱陶しさを感じることもある。今は、そのどちらとも言えない。微妙なところだ。

「お前は、どう思う」

「別に良いんじゃないんですか、アザレアちゃんのメイド服、似合っていましたから」

「ふざけているのか、ゲイリー」

「いやまあ、というか、決めるのは僕じゃないですしね。クレハ司令も言ってますけど、先輩と、アザレアちゃんが決めることですから」

 腹立たしくとも、アルバートには言い返すことができなかった。結局のところ、ゲイリーの言うこともニシキのそれと同じ事だ。最終的に、アルバート自身が決断を下さなければならないことでしかないのである。それが嫌なら、今からでも施設に放り込むしかない。そして、その逃げるような選択肢を、アルバートが選べるわけもないのだ。

「一先ず、この事はいい」

 頭を振り、思考を切り替える。まだ仕事中なのであり、先に、片付けるべき問題がある。アザレアのこと、自分のことは後だ。

「娼館の場所、ですね」

 先ほどまでの馬鹿話は綺麗に忘れ、仕事の話に自然と入る。軽い態度であっても、ゲイリーは切り替えの出来る男だ。間違くなく、戦場向きの性格である。

「アザレアから、新しい事実を引き出す必要がある。この街で拾われている以上、やはりこの街に件の店は存在するはずだ」

「とはいえ、タンタネスも広いですからね。風俗街だけでも、中々どうして。先輩と二人掛かりでも遊び尽くすのには時間がかかりますよ。捜査しながらとなると余計に」

「まあな。かと言って街中でアザレアを大っぴらに連れ回すわけにもいかんだろう」

 アザレアは、闇娼館とおぼしき店からから逃げ出した亜人である。探されている、と考える方が普通だろう。既に手遅れかも知れないが、下手に見つかれば警戒はさらに厳重になる。こうなると、彼女が神殿に見つかり監禁されていたことはむしろ幸運だったとさえ言えるだろう。情報の秘匿性は、ある意味では高かったのだ。

「とことでアザレアちゃんを捕まえていた神官、そこに追加で話を聞くのはどうでしょう」

「あまり、意味はないだろうな。迷っていたら捕まったと、アザレアは言っている」

 クライヴが、アザレアを拾った状況について嘘を言っているか。色々と想定することはできるが、微妙なところだろう。正直なところ本当に偶然だとしても、おかしな部分はあまりないのだ。

 クライヴがアザレアを拾う過程で、何者かの手が介入していたとしても、わざわざ過激派の宗教団体に預けるメリットがほとんどない。アザレアの存在を秘密裏に処理したいのならば分からなくはないが、その場合クライヴとの接触は避けているだろう。

 直感ではあるが、アザレアが地上で彷徨う以前、逃げてきた秘密通路とやらの具体的な場所すらを、恐らくクライヴは知らないはずだ。もしも仮に知っていたとすれば、既にアルバートには話しているだろう。これこそ、クライヴにとってアルバートに隠す理由が何もないのだ。あの過激な神官にとって、亜人の居る娼館など唾棄すべき存在に他ならない。潰せるのならば、喜んで潰せる方向に話を持って行くはずだ。

 アザレアを捕獲していた神官、この線でも捜査は行き詰っている。

「やる気が起きん。気分転換をしてくる」

 面倒事が多すぎて、気分が落ちていた。真面目に考え事をするにしても、もう少し思考をクリアにしておきたい。不機嫌な思考で仕事をしても、得てして碌な結果を生みはしないものだ。

「また、何時もの時計塔、ですか」

「ああ、そうだ。クレハには適当に言っていてくれ」

 嫌なことがあれば、時計塔の展望室に向かい気を晴らす。アルバートのルーチンとなっていた。その事を、この職場の人間は皆知っている。楽しくはないが、説明する手間は省けることは有難い話だ。

「行ってくる。後は任せた」

「はぁ。まあ、良いですけどね。どうせ、することも行き詰まっていますから」

「悪いな」

 私服の外套を着込み、手早く、そそくさと部屋を出る。クレハやニシキが部屋に居ない、今が好機だ。居れば、グチグチと何を言われるのか分かったものではない。気晴らしの為の、休息である。行くときも、不要な不快感は味わいたくはなかった。

 外に出て、息を吸う。それだけでも、気分転換にはなる。やはり、亜人保護管理局の建物はどうにも暗い。居るだけで、気が滅入る。何が、誰が悪いというわけではない。色々と重なり、結果的にそうなってしまっているのだ。

 アルバートが時計塔へと向かうルートは、何時も同じだ。最早ルーチン化しており、その道を辿る工程すらも気分転換の一部となっていた。

「そのパンを一つ、いや、二つくれ」

 いつもの行きつけの店で、軽食として同じ物を毎回買う。肉を挟んだシンプルなパンを一人前。買う物を決めていれば悩む時間も必要なく合理的、これもルーチンになっている行動だ。ただ今日は、何時もと違う行動をした。アザレアの分も買っておこう、そう思ったのだ。

「あら、いつもより注文が多いんですね」

「ん、ああ」

「何かありましたか」

「まあ、な」

「そうですか。いつもありがとうございます。これ、オマケです」

 店主の女性に、覚えられていた。必ず毎日行っていたわけではないが、それなりの頻度で通ってはいたのだ。それでいて毎回毎回同じ物を頼んでいれば、覚えられもするだろう。

 曖昧な返事を返し、パンを受け取る。あまり、楽しい気分ではなかった。この店には、暫く足を向けることができないだろう。声を掛けられ、認識されたからだ。

 店主に、何か文句を言うつもりはない。言えるわけもないだろう。ただ何となく、アルバートが勝手に行き難くなっただけだ。店主に、落ち度はない。むしろ、常連客だと認識されている、そう喜べば良いだけの話だ。

 自分が市井の、民草の中に溶け込んでいる。その事実を受け入れ辛くなったのは、いつ頃からだっただろうか。誰かに、何かを言われたわけでもない。自分自身が、己を許せないのだ。戦場に生き、数多の血で、己が心身を、魂を、洗い続けた。そのなれの果てが、これだ。こんなモノが、街に溶け込む。それを、アルバートが許せるわけがない。

 人の営みを、社会を、愛し守りたい癖に。自分がその輪に入ることは好まない、歪んだ生き方。そんな人間が、社会のためだと亜人を狩る。自分も、社会も、歪みは相当なものだ。

 溜息をついて、視線を眼下に広がる街へと移す。考えなくて良いことを、普段は思考の外に追いやっていることを、考えてしまう。ある意味では、リラックス出来ている証拠なのだろう。それでも、大切な憩いの場であり、時間だ。詮無いことを考えるくらいならば、何も考えずに風の感触を顔に浴びている方が余程良い。

「美味いんだが、な」

 先程買ったパンを口に入れ、ゆっくりと咀嚼する。やはり、気に入っている物を食べるのは、気分が良い。思考を切り替え、街を見る。平和だ。理不尽な暴力や、命の危険が皆無とはいわないが、少なくとも、一般市民が突然の殺戮に巻き込まれるような危険はない。間違いなく、平穏に時が流れている。

「この中に、違法な亜人娼館ある、か。堪らんな、これは」

 平穏な街の何処かに、闇の権化ともいえる娼館がある。何とも混沌とした、狂った状況だろうか。そして、それを狩る側の亜人保護管理局も、狂わせている側の存在なのだ。

 ぼんやりと眺める空気を、心地良い金属音が引き裂いていく。時計台の、鐘がなる。時間だった。

「戻るか」

 小さく息を吐き、体を伸ばす。戻るのは億劫だが、遅れるわけには、いかないだろう。何か問題が解決したわけではないが、頭と心の中身は空にできた。考えることは好きではない以上、雑事に頭を使う余裕はアルバートにはないのだ。

 重たい足取りで、街を歩く。戻れば、また面倒事と向き合わねばならない。仕事が嫌なわけではないが、面倒事はただただ嫌いだった。

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