第37話 ゾフィの手紙
「親愛なるメグへ
メグ、元気にしていますか。こちらへ来て三ヶ月、毎日目まぐるしくてすっかりお手紙を出すのが遅れてしまいました。わたしはというと、最初の頃は体調を崩したりしたけれど、ごはんもおいしいし、今はすごく健康になりました。大公家の皆さんには本当に良くしてもらっています。(かわいいワンコやロバもいるのよ!)
そちらも夏至祭が終わった頃でしょうか。こちらでは夏至祭の前後に、収穫祭があります。この収穫祭が終わると、本格的に麦や果実の収穫が始まるそうです。麦畑やブドウ畑は、本当に豊かで素晴らしい眺めです。お祭りの間中は、どこに行っても飲めや歌えやの大騒ぎなんですって。
大公家の皆さんも、
騎士様の模擬試合や麦刈り競争なんかの
麦刈り競争はとても面白かったの。優勝した人はご褒美がもらえるのだけど、負けた男の人はお婆さんの格好をさせられて、男の人たちと踊らされて、最後は川に放り込まれるんですって!ひどいわよね。
羊飼いのおじいさんが内緒で教えてくれたのだけど、何年か前に公太子殿下を女装させたらさぞかしきれいだろうと
今わたしは、週に二回ほど、街に出て治療院で働いています。治療院は職人街の一角にあって、患者さんが結構来るので毎日それなりに忙しいのです。齢の近い同僚が二人いて、彼らともとても仲良くなれました。ときどき姫様自らいらして、治療をされていることもあるの。ここで働く提案をして下さったのも姫様で、お給金ももらえるのよ。楽しく充実した日々を過ごしているので、心配しないでね。
先日お祭りの時に、街に出てお買い物をしました。すごく賑やかで、どれもこれも今まで見たことがないようなものでした。その時見つけたかわいいイヤリングを送るね。もうすぐメグの誕生日だから。石じゃなくてガラスで出来ているそうで、わたしのお給金でも買えるものだから遠慮しないで使ってね。
あとは、最近は刺繍も自由に出来るようになったから、ハンカチも送ります。一枚余分に入れておくので、マルクが使うと言ってくれたらあげてください。
それでは、体を大事に、お仕事頑張ってください。また会える日を楽しみにしています。
ゾフィより」
「・・・あいつ、無理やり働かされてるんじゃないよな?」
「どこをどう読んだらそうなるのよ。毎日楽しそうじゃない・・・恋愛要素はなさそうだけど」
ここに戻ってきた時、ゾフィは見る影もなく痩せていた。砦の町にいた頃は、よく笑う、元気でお転婆な女の子だったのに。あいつが笑うとオレも・・みんなもつられて明るくなったっけ。
それなのに暗い顔ばかりするようになって・・・王都で辛い目に会ってたんだろう。そう言うことはみんな飲み込んで我慢するヤツだけど。
メグを見ると、赤いガラス玉を日にかざして、キレイ、とため息を吐いている。
「あいつ、また帰ってくるのかな・・・?」
「どうだろうね。でもあっちにいた方が安全なんじゃない?あたしたちじゃ、守って上げられないし」
「・・・」
「大体さあ、あんた、子供の頃わざと、麦わら頭、とか、ソバカス女、とか言ってたでしょう?」
「・・・うっ」
「そのせいであの子、自分の見た目に自信が無くなっちゃったんだからね。そうしたら自分のことを見てくれるとでも思ったわけ?バッカじゃないの」
「・・・うぐっ」
「誰かにひょいっとさらわれてったって知らないんだからね。好きなら
「・・・う、うるせー!」
「・・・また走って行っちゃった。あ、ハンカチ」
イチゴの花と実がかわいらしく配置された白いハンカチと、ツバメと柳の枝が刺された薄青いハンカチを見比べる。まあ、明日にでも慰めてあげるか、と再び袋に大切にしまうと、工房へと帰って行った。
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