[書籍化]隣に住んでる聖女様は俺がキャラデザを担当した大人気VTuberでした
乃中カノン
第1章
プロローグ 身バレ前夜
「だ・か・ら! 俺はロリコンじゃない!!」
深夜十二時ながらおよそ十万人が見守る配信中、そんな叫びにも近いツッコミが響き渡った。
《草》《草》《うるせぇw》《ww》《草》《ママ必死で草》《連れていきなさい》《草》《え? ロリコンでしょ?》
この配信は、チャンネル登録者七十万人を誇る超人気VTuber
二人のユニット名は『うかんきつ』。
ママ、落ち着いてください、と荒ぶる金髪の青年を宥めるのが京氷菓。銀髪ロングのお淑やかそうな美少女で、今日の衣装はラフで可愛らしい部屋着姿だった。
VTuber界きっての大手事務所「ぷろぐれす」に所属する氷菓は、歌やゲームが上手く抜群のコメント力による司会進行など、なんでもできる万能型の配信者として人気を博していた。
また事務所の清楚筆頭であり、リスナーからは「うかまる」や「うかちゃん」、「あいす」等とも呼ばれているのが特徴だ。
一方『でこぽん』と書かれた白のTシャツに黒のキャップを合わせたへんてこな姿をしている金髪の少年が、かんきつだ。
カラフルだったり淡い色づかいを使い分けるのが特徴で、Twitterのフォロワー数は優に五十万人を超えている。
十年ほど前からSNSアカウントが存在していてそれなりに知られた存在だったが、商業デビューは約三年ほど前と、比較的若いクリエイターだ。
その正体は
庵は氷菓のキャラデザを請負いVのママとなり、二人の名前から『うかんきつ』というコラボ名でよく配信をしている。
またVのママとは、VTuberのキャラデザを担当した絵師のことで、生みの親ということから基本的に絵師の性別に限らず付けられる総称的なものだ。
「ママ、児ポル関係に気をつけて下さいってコメントがありますけど大丈夫ですか?」
「児ポなんて持ってるわけないって。飛天○剣流・書類送検されちゃうだろ」
「それ、怒られますよ!?」
《www》《ママ、やめなさいw》《草》《草》《あぶねぇ発言しとる》《草》《じどうに関心で草》《やばいですよ!?》
何故か今日の配信ではロリコン呼ばわりされていたが、庵は慣れた様子でリアクションを取る。
求められるコメントやリアクションを理解し、阿吽の呼吸でエンタメへと昇華させるのだ。
そして時折、見せるママと娘の尊いやり取りがリスナー達を沸かせたりと、V界でも屈指の人気配信の一つとなっている要因だった。
「さて、終わりが近づいてきました。ママは何か宣伝とかありますか?」
配信開始から約二時間が過ぎた頃、終わりの時間がやってくる。配信は出演者の宣伝やお知らせで締めるのが定番で、例に漏れず氷菓から宣伝の有無を振られる。
「ミニイラストブックの予約が始まってるんですけど、安めなので是非」
「ママは最近ずっと頑張っていたみたいなので、買ってあげて下さい。私も予約しました!」
「俺はいい娘を持ったなぁ」
「ママのファンでもありますから」
「俺も氷菓が推しだぞ!」
「ママ……!」
《てぇてぇ》《てぇてぇなぁ》《は? てぇてぇ》《うかんきつしか勝たん》《てぇてぇ》《これが親娘か》《うかんきつてぇてぇ》《てぇてぇ》《ありがとうこれで成仏できる》
二人が親娘ムーブをすると、ただでさえ早く流れていたコメント欄が加速していき、一気にコメント欄が盛り上がる。
多くのてぇてぇコメントで埋め尽くされ、成仏し始めるリスナーまでいる始末。
「という事で皆さん。保存、鑑賞、実用、布教用×二個は買いましょう」
「やめなさい! 折角いい感じだったのに。はい、終わるよ! 終わり終わり。みんな一個でいいからね! じゃ、おつうかー」
ロールプレイングも程々に氷菓がボケると、庵が強制的に締めて配信はロゴだけの画面に切り替わった。氷菓のチャンネルなので、切り替えのタイミングは彼女に委ねられている。
タイミングやテンポなど上手く見極められるのも既に二年近い付き合いがあるからだろうか。お互いに息の合う二人は、ファンたちからベスト親娘と呼ばれるだけはあった。
《おつうかー!》《草》《乙うか》《草》《おつうか〜》《w》《十個予約した!》《おつうか》《草》
「ママ、私のセリフ取らないで下さい!」
「おつうか〜おつうか〜」
「くっ!」
《草》《Cパート助かる》《草》《Cパート助かる》《おつうか》《ママ煽ってて草》《おつうか!》《Cパート助かる》
配信画面が切り替わっても二人の声だけが流れ、最後までコメント欄の盛り上がりと共に二人の配信は終わりを迎えた。
「先生、配信お疲れ様でした」
「お疲れ様です。このまま打ち合わせでもする?」
配信中とはまた違った綺麗な声色が、画面の向こうから聞こえてくる。
コラボ配信だと配信後は互いに労ったり、次の配信についてはなしたりするのが普通で、裏ではまだ通話が続いていた。
「今日は遅いですし、朝から学校もありますから後日でもいいですか?」
「あ、俺も学校だ。じゃあ、土曜の朝十時くらいで」
「分かりました。お疲れ様でした」
次の配信に向けて打ち合わせの約束を取り付ければ、その日のコラボは完全に終了する。
「……あ、グッズのサンプルが事務所から届いてましたよ」
通話を切る直前に彼女が一言漏らす。
「そういや、なんか事務所から荷物が来てたな」
「多分それです。今日の午後にでも開封しようと思います。楽しみですね」
「開封したらSNSにアップしようかな」
「いいですね。私もそうします」
グッズは庵が書き下ろした新規イラストなどが使われており、届くのを楽しみにしていたものだ。
通話を切ろうと思っていたのだが、グッズの事で話が盛り上がって約十分は延長してしまっただろうか。かんきつのファンと豪語するだけあって、彼女の熱量は凄かった。
その後、一言二言交わし、お互いに「お疲れ様でした」と労い合えば今度こそ本当に通話が切れる。
チャットソフトを終了させた庵は、ぽすんとチェアにもたれかかって息を吐いた。
「明日から学校か……もうひと頑張りしたら寝よ」
あくびと背伸びを一つ。やる気を捻り出すように、ぐぅーっと身体を伸ばす。
グッズのサンプルの確認も早くしたいし、今日はもう少しだけ頑張ろう、と呑気に部屋の隅に放置されている荷物に目をやりつつ彼は作業に取り掛かる。
この時、庵は届いた荷物のせいで身バレをするなんて思いもしなかった。
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本作は小説家になろうにも掲載しておりますが、更新が早いのはそちらになりますので、気になる方はそちらへもどうぞ。
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