運動会なんてだいっきらい!

朝凪 凜

第1話

 今日は出来ることなら休みたかった。私が一番苦手な……年に――4回くらいある行事の一つ。運動神経が鈍い人がみんな嫌がるイベント、運動会だ。

 私は普段からずっと教室にいるし、散歩をするなら本を読んでいた方がよっぽど有意義だと思っている。

 運動なんてしなくたって生きていけるけど、文字の読み書きが出来なかったら生きていくことも大変なのになんで勉学より運動を優先するのか理解出来ないのだ。

 そんなことを一ヶ月くらいずっと思いながら今日を迎えた。

 全員参加しないとならないし、当日代わりに走ってくれるような友達も居ない。惨めだ。

 そんなことを考えていたら開会式が終わっていた。立ったままではなく座って話を聞くことが出来るのだけは評価しても良い。炎天下の中立っていたらあっという間に倒れるから、先人の犠牲が今の私を救った。


  *  *  *


 午前中から応援やらなんやら進んで、50メートル走。

 うちの中学は4クラスあるのでチームも4つだ。一位になると何点か入るようだけど、私はいつも通り4位にしかならないからいいのだ。


 自分の番が来て、よーい、どん。

 私は結構背が低い方だけど、それよりも低い子がぐんぐんと差を離していく。

 私と同じような運動が苦手な子も居たけれど、私のちょっと前に居た。

 でも一人だけ後ろの方じゃなかったからそんなに目立たないままゴール出来た。

 ありがとう、同類ともよ。


 そうこうして、午前中が終わり、お昼になるとクラスの人たちは散り散りになり家族でお弁当を食べている。

 かくいう私もその一人。

「運動会をするなら文化大会をするべきだと思う」

 お弁当の卵焼きを突きながら母親に愚痴る。

「何言ってるの。文化祭があるじゃない」

 やれやれという感じでお茶を入れながら返事をしてくる。

「文化祭は名前だけで結局お店出したりお化け屋敷とか体を動かすじゃない。

 そーゆーんじゃなくて、文化人らしい知識の競い合いみたいなのがいいの」

「中間テストとか期末テストとかあるじゃない」

 またかと言わんばかりに正論を返してくる。

「あれは……進学のためのテストだし。順位が張り出されたりするわけでもないし、違うもん」

「まあ、運動会は運動部の子が活躍するから、日向と日陰みたいなものよね。たまには日の光でも浴びたらいいじゃない。グチグチと苔みたいなこと言ってないで」

「苔って……」

「ほらさっきの400メートルリレーで最後に走った子速かったじゃない。あんな風に爽やかになって欲しいわよね~」

 お昼前にクラス対抗400メートルリレーがあって、アンカーだったのがサッカー部部長の男の子だった。顔が良くて運動が出来て、おまけに地毛が茶色だからチャラチャラした感じに見えるから私は好きじゃ無い。クラス内外で人気はあるけれど。


  *  *  *  


 そして午後になって、応援合戦。ダンスと続いて、しばらくは何もしないでゆっくり出来た。外でゆっくり出来るところなんて無いけれど。

 後半になってくると障害物競走とか、準備や片付けに手間のかかる競技が固まっている。

 次に私が出る競技が借り物競走だ。何故それにしたかって? そんなに走らなくて済むからだ。適当にお題が書かれた紙を持ってくれば終わりだから走る必要はないのだ。


 一クラス5人の20人が同時にスタートするから校庭を広く使うため、準備に時間がかかっていた。

 そして準備が整って、スタート。

 25メートル先のお題を取って、書かれている第二のお題を探す。

『朝礼台の下の紙』

 何でそんなところに、って思ったけど仕方ない。周りを見回すと他の人たちも結構バラバラで校庭全体に広がっていった。

 そして第二のお題。

『赤いTシャツ』

「赤っ! そんなの――居ないじゃない」

 周りを見回してみても父兄含めても赤いTシャツを着ている人はいない。そんな派手なものを着てどうすると言いたいのだけれど。困った。頑張りたくは無いけれど、一番最後に目立ってゴールはしたくない。

 誰かに聞こうに人見知りな自分が見知らぬ他人に声を掛けられるわけがない。

 うーん、と悩んでいたら昇降口から人が出てきた。

「何悩んでるの? あ! これ借り物競走? えーっと、『赤いTシャツ』? これ俺が面白そうだから書いたやつだ! 赤いTシャツなんてなかなかいないからな」

 目が合うやいなやマシンガンのようにまくし立ててきたのはサッカー部のイケメンだった。たしか中山君。

「あ、そうか。赤いTシャツ居ないから困ってるのか。まあそりゃあそうだよな。あ! そうだ! ちょっと待ってて。丁度良いのがある!」

 そう言って私が何か言う前に校舎の中に戻っていった。

 まあ、私が何か言うなんてことは無いのだけれど、良いのがあるって言って戻っていったってことは多分Tシャツを取りに行ったって事なんだろうけど、待ってていいのかどうしたものか。他に方法も無いし……。


 と待ってから5分。他の人たちは次々とゴールしていき、残り何人いるか居ないかというところになってしまい、

「さあ、残り3人です。なかなか借り物が見つからない様子。みんなもゴールを手伝いましょう」

 なんていうアナウンスがあってから、しばらく。時間としては30秒程度だろうけれど、1時間にも思える長さを耐え、昇降口からまた人が戻ってきた。

「ほいお待たせ。部活対抗リレーで着たやつなんだけど、いやー、使ったらどこ置いたか忘れてて大変だったわ」

 赤い――ユニフォーム? なのかTシャツっぽいものを着て来た中山君。

 ようやくゴールに向かうことが出来たけれど、目立つなぁ、って思っていたら急に手を引かれた。

「ほらほら、一緒にゴールしなきゃ失格になっちゃうだろ!」

 ゴールに向かって、多分私に合わせてくれてゆっくり走ってると思うのだけれど、それが逆に目立つシャツを着て、ただでさえ目立つ男の子が笑顔で手を振っていればそれはもう相当なもの。

 そのままいつの間にかゴールも最後になってしまって、アナウンスも大袈裟にゴールのコールをしていて、顔から火が出るくらい恥ずかしい。

 やっぱり運動会なんてだいっきらい!

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