第四話


 このゲームには基本的に『ゲームオーバー』というモノが存在していない。


 その理由は「コレが乙女ゲームである」という事と「このゲームが乙女ゲームの中でも『恋愛』に極振りしている」という二点が挙げられる。


 アリアがプレイして来た数々の乙女ゲームの中には『恋愛』だけじゃなく、RPGの要素が入っていたモノもあった。


 そういう場合は戦闘などもあったため『ゲームオーバー』が存在していたが、このゲームでの『ゲームオーバー』とはすなわち「バッドエンド」を指している。


 しかし、アリアが生きているこの世界はゲームの世界観ではあるモノの、どうにもゲームの世界そのものではない様だ。


 つまり、ゲーム本来ではありない。存在していないはずの想定外の出来事なども当然の様に起き、アリアはその状況に戸惑いつつも必死に食らいついている最中である。


「ああ。確か『星空会』は……そうだな。アリアの言う通り退学者が出る学校行事の一つだな」


 そう、それはつまり「アリアにも退学の危険性がある」というゲーム本来ではありえないはずの状況がありえるという事を意味する。


 そもそもアリアはゲームに名前すら登場しない『モブ令嬢』である。正直、主人公や悪役令嬢などのキャラクターたちよりもそうなる危険性は非常に高い。


 しかし、今の状況ではもはや「シナリオ」なんて存在しているのかすら怪しい。それくらい今の状況はゲームから逸している。


「あの、それは……どうしてでしょう。どうして退学者が……」


 普通にその言葉だけを聞けば『星空会』は非常に穏やかな催し物の様に聞こえる。


「この『星空会』には制限時間があってな。それに間に合わなければ退学という事になる」


 そういえば、こうした学校行事ではミニゲームが用意されていた。


 しかし、ゲーム上で重要だったのは「何をする」ではなく「誰とする」という事の選択肢だったため、実は学校行事の内容までは詳しく覚えていなかった。


「制限時間……ですか」


 この『星空会』という言葉を聞くと真っ先に「星空を見る催し」の様に聞こえてしまうが、どうにも違う様だ。


「単純に言うと『星空会』は、星空が見える山頂まで『オリエンテーリング』をする催しの事を言う」

「オリエンテーリングですか」

「ああ。要所要所でポイントをもらってゴールを目指すあれだな」

「……」


 それならばアリアも前世で学生の頃に経験した事がある。


「そもそも、こうした学校行事が行われる様になったのも学生の能力低下を少しでも抑えるためらしいけどな」

「そうなのですか?」


 コレは初耳だ。


「ああ。そもそも『オリエンテーリング』自体もチェックポイントで課題をクリアすればいいだけの比較的シンプルなモノだしな」

「じゃあ退学者が出るのは……」

「さっきも言った通り制限時間内にクリアが出来なければ退学になるというワケだ」


 どうやらただの『オリエンテーリング』ではないらしい。


「形式としては一応『個人戦』となってはいたはずだったけどな。でも、結局仲の良いクラスメイトと一緒に回っていたな。その方が何かと効率も良かった」

「……」


 そう、だからこそこのイベントでは「誰」の後をついていくか……という事が重要だったのだ。

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