第二話


 このノートは記憶を取り戻してから書いている自作のノートで、これに曖昧な部分やゲームとの違いを書き出している。


「……」


 本当であればこんな形に残る様な物ではない方が絶対に良いはずだ。しかし、残念ながらアリアはそこまで記憶力が良い方とは言えないし、そもそもこれ以外に方法がない。


 ただ、ここで間違えて欲しくないのは「アリアは決しておバカというワケではない」という事だ。


 そもそも、ここは学校であってアリアや攻略キャラクター、一部の登場人物たちはここの生徒だ。


 ゲームでは簡単なミニゲーム程度の扱いだった試験も、ここでは普通に前世と同じ様に筆記のテストや実技の試験がある。


 つまり「勉強しなければならない」というワケだ。


 しかも、アリアがこのゲームをしたのは前世でも結構前になり、いくらやり込んだとは言え、曖昧な部分や抜けがあるのは当然ではないだろうか。


「はぁ。私に超天才的頭脳があればな……」


 そう思う事があるが、間違っても王子以外の前でこんな事は言えない。


 なぜなら、アリアの成績は一位こそキュリオス王子に譲っているが、二位である。こんな事を他の貴族が聞いたらただの嫌味にしか聞こえないはずだからだ。


「……」


 しかし、言ってしまえば学校では「それくらい」しかアリアに取り柄がない。


 膨大な魔力を持っているものの、学校では披露しない様に王子だけでなく、王宮から口酸っぱく言われている。


 見た目に関しても、前世と比べてみると「さすがはゲームの世界」とも言えるほどいくら『モブ』とは言え、顔など整っている様に思う。


 まぁ、ゲームの中ではここまで描かれていなく、のっぺらぼうやシルエットだけだった可能性もあったのだけど……。


「あれ、どうだったっけ?」


 実はこの辺りの記憶も曖昧なのだが。


 しかし、言い換えるとアリアはこの世界での『平均的』な見た目のしているというワケだ。


 ちなみに主人公はかわいい系のアイドルをそのまま反映した様な感じの見た目をしている……と思う。


 だだコレはあくまでアリアの主観ではあるのだが。


 対してクローズはクールなモデルタイプ。


 手足は長く、切れ長の目は「クール」と呼ぶにふさわしいだろう。


 ただ、それ故に相手を萎縮させたり「冷たい」という印象を与えたりしがちで、それでいて本人は我慢強く弱音も吐かない。


 だから、実は「本当の意味で友人」と呼べる人は誰もいなかった。


「……」


 アリアもゲームをしている時は「実は可哀そうだな」と思った人間の一人だった。


 なぜなら、ずっと王妃教育に耐えて「結婚出来る」と思った矢先の婚約破棄だったからだ。


 確かに主人公をプレイしている身としてはイジメも嫌がらせもイラっときたが、それを止めてくれる人がいなかった彼女に、最終的には哀れみすら感じていた。


 そもそも、婚約者がいるのに近づく主人公に自分もゲームをしている途中で違和感を感じていたのだが……。


「……」


 しかし、キュリオス王子から聞いた話では既に婚約者のリチャード王子の心は離れているだろう。


「――本当なら」


 悪役令嬢である彼女に近づくべきではない。でも……。


「今の立場を利用すれば……ひょっとしたら未来は変わるかもね」


 そう小さく呟いてアリアはノートをパタンと閉じた。

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