第四話


「そうなると……やはりキュリオスと『友人』という方がまだ周囲は納得するか……」

「……」


 確かに、突然家の位が上がるよりも「キュリオス王子が興味を持った相手が男爵令嬢だった」という事の方がまだ話は通るだろう。


 現に使用人が連れて行かれた後に王子はアリアに声をかけて少し話している。


 その姿を他の貴族たちも見ているから「その時に興味を持った」と言えば筋は通っているはずだ。


「それがいいかも知れません。確かに位は『男爵』ではありますが、それ以上に『先祖返り』ですから」

「……」


 きっと『先祖返り』というのはこの国とってはかなり希少な存在で、貴族の位すら凌駕してしまう存在なのだろう。


「お父様、お母様」

「む?」

「どうしたの?」


 ここでしばらく無言だったキュリオス王子が口を開いた。


「僕としては彼女と『友人』になれるのはとても嬉しいです。ですが、もし『保護』という意味で彼女を『友人』と言うのであれば……僕は彼女を『婚約者』にしたいのですが」

「!」

「!」


 この発言には陛下も王妃様も驚いていた……が、一番驚いていたのは……アリアだった。


「……え」


 人と言うのは驚きすぎると大声ではなく、小さく声を漏らすのだと……アリアはこの時身を持って知った。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「――キュリオス。お主、自分で何を言っているのか分かっておるか?」

「……はい。確かに今の彼女は『男爵』ですが、将来的に彼女はこの国に大きく貢献してくれるのではないかと思っています。それに、ただの『友人』というよりも『婚約者』とすれば彼女の身を守りやすくなるかと」


 キュリオス王子の言葉に、陛下も「確かにそうではあるが」と言って唸る。


「あ、あなた。もしかして最初から……」


 陛下が唸っている横で王妃様はキュリオス王子の狙いに気が付いた様だが、王子は笑顔でそれに答え、王妃様はその笑顔を見ると。


「全く。とんでもない曲者ね」


 半ば呆れた様子で「はぁ」とため息をついた。


「おっ、お待ちください。わっ、私が王子の『婚約者』だなんて……そもそも『友人』ですらおこがましいと……」


 ここで慌てたのはアリアだ。


 もちろん『悪役令嬢』とは全然違う状況ではあるにしろ『友人』と『婚約者』では話が全く違う。


 そして、仮に『婚約者』になんてモノになってしまっては将来的に『悪役令嬢』の彼女と同じ道をたどりかねない


「将来的な話だよ。今の君が『男爵』である事には変わりないからね」

「え、じゃあ」

「魔法学校を卒業」

「?」


「君が魔法学校を卒業したら僕の婚約者として世間に公表する」

「え! いや」


 キュリオス王子がそう言うと、陛下も「それならば……」となぜか乗り気だ。


「君も知っての通り魔法学校は魔法の才能があれば貴族や庶民など関係なく入学が出来る。でも、卒業をする事が出来るのはほんの一握り。そもそも『魔法学校を途中でやめたけど、いました』というだけで就職に有利なくらい入学するのが難しい」

「それは……知っていますが」


 現にお兄様が通っているし、ゲームの舞台でもあったからよく知っている。


「うむ。つまり『卒業した』というだけで魔法の才能を世間や国にも認められる。もし卒業が出来れば……王族に嫁いだとしても大きな反感を買う事もない……か」

「ええ。それに、表向きは『陛下も私も認めた友人』としておけば王宮に出入りしていても怪しまれる可能性は低く、王妃教育も出来ます」


「……」


 どんどん外堀が埋められている様な気がしてアリアは内心ものすごく焦っていたのだが、現状を打破出来そうな案が出てこず、ただ見ている事しか出来なかった。

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