第二話


「──お嬢様。もうすぐ着きます」


 馬車に揺られながらアリアはメイドと一緒に『ある場所』へと向かっていた。


「……うん」


 この頃のアリアは引っ込み思案な上に人見知りという性格で、それに加えて男爵家の中でも位が低かった事もあり、この時までお茶会や夜会などに参加した事もなかった。


 ただ、アリアの四つ上のお兄様は何度かお茶会や夜会に参加しているのをみると……どうやら両親は相当お兄様に期待しているという事は子供ながらに感じていた。


 その代わり両親はアリアに冷たかった。でも、お兄様は誰に対しても優し過ぎるくらい優しかった様に思う。


 それはアリアだけでなく、使用人や領民に対してもだった。


 しかも優しいだけでなく勉強や体術も出来た。


 そもそもお兄様は物腰の柔らかい言動で、人を気遣う事の出来る懐の深さがある人物でもあった。


 だからこそ、みんなから慕われていた。


 アリアはそんなお兄様を尊敬していたし、お兄様もアリアをとても可愛がっていた。


 そんな最中。アリアにお茶会の誘いがあった。しかも『王族主催』で……である。


 コレにはお兄様も驚いていたが、アリアの母親も基本的に家族に無関心な父親ですら驚いたほどだ。


「お嬢様、今回のお茶会は国中の貴族が集まります。決して失礼のないように――と奥様からの言伝です」


 招待状が届いてからアリアは必死にマナーを覚え、何とか今日の日を迎える事が出来た。必死になって何とか形にして……それくらいアリアは貴族としてはありえない程、貴族のマナーや常識などを何も知らなかったのだ。


「……うん」


 目の前にいるメイドはいつも厳しい事を言うものの、優しいということをアリアはよく知っている。何せアリアを赤子の頃から知っているくらいだ。


 それに、今の言葉だって本当であればもっときつい言い方をしていたはずだ。


 それくらいアリアの母親はアリアに対して厳しく……そして冷たかった。


「……今回のお茶会に殿下がいらっしゃるのよね」

「――おそらくは。今回の主催者でもありますから」


 何でも第二王子に当たる人物がアリアと同い年らしく、今回のお茶会には国中のアリアと同い年の貴族の子供たちが集められているらしい。


 両親曰く、どうやらその第二王子の婚約者候補を見定める為に今回のお茶会が計画されたのではないだろうか……という事の様だ。


 まぁ、あくまで両親の『予想』ではあるが。


「……」


 しかし、アリアの家の爵位は『男爵』という事もあり、そんな婚約者候補になる可能性は「無」に等しく、それでいて引っ込み思案な性格だ。


 余程の物好き……もしくは「誰でもいい」という理由でもない限りあり得ないだろう。


 だからこそのこの言葉。要するに「あんたには何も期待していないから、とにかく失礼がないように……」という『貴族のメンツ』の方が両親には重要らしい。


 子供ながらに両親の事はよく見てきたつもりだったし、お兄様には悪いけど両親の期待を一心に背負ってもらおうと思っていた。


 そもそも最初から『婚約者』なんて期待されてもアリアとしても困る。


 だからこそアリアはお茶会が決まった時から「とにかく目立たない」という事をずっと心に決めていた。


「よしっ」


 そうしてどんどん近づいてくる王宮を前に、アリアは一人小さく意気込む。


 でもまさか、そのお茶会で「あんな事」が起きて結果的に王子と『友人』になる事になろうとは……この時のアリアは思いもしていなかった。

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