モブ令嬢にそんな『魔力』はいりません!

黒い猫

第一章 馬車にて

第一話


 アリア・ウォーレンにはずっと疑問に思っている事がある。


 それは魔法があり、剣術があるこの世界で自分はどういった存在なのか……という事についてだ。


「……」


 決して難しい話をしているつもりはない。


 ただ、ずっと自分の中でもの凄くそれが疑問だったというだけの話、それだけ。本当にそれだけなのだけれど……。


「きゃー!」

「キュリオス様よ!」

「きゃあ!」


 答えのヒントとなる一つがこの女子たちの声援。そして、もう一つが……。


「さっきこの間のテストの結果を見たのですけど、キュリオス様が一番でしたわ!」

「やっぱり!」


 この成績である。


「はぁ」


 アリアがどれだけ努力を重ねても彼『キュリオス・エリオット』には勝てない。しかも、魔法だけでなく剣術や体術……その全てにおいてである。完璧超人過ぎやしないだろうか。


「……」


 ただここで一つ勘違いして欲しくないのは、アリアは決してキュリオスに嫉妬をしているというワケではない。


 いや、そもそも嫉妬をしたところでどうしようもない。下手に嫉妬なんかしようモノなら、アリアは……いや、アリアの両親も含めた一族全員が首をくくらないといけなくなる可能性が出て来てしまう。


「……」


 なぜなら「キュリオス」つまり『キュリオス・エリオット』はこの国の国王の息子。つまり王子だからだ。


「おはよう。アリア」

「お、おはようございます。殿下」


 そんな当の本人は身分など気にせず誰にでも笑顔を向ける。


 まぁ、その笑顔によって女子が毎回何人か気を失いそうになっているのだけれど……多分。当の本人は全く気にしていないだろう。


 何と罪深き人なのだろう……とは思うが、決してそれは口にはしない。


 ちなみに、アリアはいつの間にかそんな王子の『友人』というポジションで落ち着いている……というより、気が付いたらそうなっていたのだ。


◆  ◆   ◆   ◆   ◆


 そう、彼女『アリア・ウォーレン』は、昔のある一件から王子と友人関係になった。 


「ちょっと、またあの女よ」

「キュリオス様の『友人』だなんて、おこがましい」


 そもそもキュリオス王子とアリアは身分的に友人になる事は……いや、そもそもそキュリオス王子がアリアを「自分の友人」と言うのもおこがましいくらいなのはアリア自身がよく分かっている。


 ただ、身分は違っても「一応私も貴族ではあるけどね!」とは言ってやりたい。


 でも、一言に『貴族』と言ってもそこには「階級」というモノが存在し、アリアの家はその中でも『男爵』という階級になる。


 しかも、その男爵の中でも低い地位に当たる。しかしそれを考えると悲しくなるので、ここは考えないでおく。


「どうした? アリア」

「いえ。なっ、何でもありません……殿下」


 アリアがそう言うと、王子は「そっか」と言って笑う。


 もしコレが先程の令嬢たちであれば、この時点で気絶していたかも知れない。


 まぁ、アリアは昔からそんな事になった事はないが……。


 しかし「どうしてこんな私が王子と『友人』となったのは……多分こうした『適度な距離感を取れる』という部分も関係しているのではないか」とアリアは思っている。


「……ふぅ」

「今日はやけにため息が多いな。テストが終わって気が抜けたか?」

「え、あ。すみません」

「いや、気にしなくていい。入学して初めてのテストだったし、疲れが出ても仕方がない」


 王子は昔から誰に対しても優しい。


「ありがとうございます」


 この場ではそうお礼を言って、人の気配がなくなったところで……。


「はぁ」


 今度は盛大に王子がため息をついた。


「……息止めお疲れ様です」

「全くだよ、毎日毎日香水のブレンドを嗅がされる身にもなってくれ! ってね」


 そう、周囲からは「誰にでも優しい王子」と評されているが、実は結構思った事を口にする。


 可愛らしくウインクをしながらではあるものの、言っている内容はなかなか鋭い。


 ただ、王子のこうした一面を知っているのは『友人』のアリアなどを除けば古くから王宮に務めている使用人などごく一部。


 だからまぁ「周りには笑顔を振りまいているのはただ単純にそうしておけば色々と楽だ」という事に気がついたからだろうとは……アリアは思っている。


 ただ、このキュリオス王子の本性がいつか表で出てしまわないかと実はたまにヒヤヒヤする事があるのだけど……。


「……」


 それにしても、どうしてこんなに身分の違う王子とアリアが『友人』なのか……それは幼少期にまで話が遡る──。

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