呪いのような愛を

アレックス鈴木

第1話 遊園地でのさよなら

「ねぇ、今度はあれに乗ろうよ!」


「そんな急ぐと転んじゃうよ?」


「大丈夫!ほら早く行こ!司」


僕の小言なんかなんのそのって感じに手を引いて走るのは、柊 弥生 (ひいらぎ やよい)僕の初めての彼女。

普段は大人しくてどちらかと言えば静かでお淑やかといった印象を受ける彼女だが、たまに子供のような快活さを見せる。

そんな彼女だが、1年前はこんな明るくはなかった。

初めて会ったときは前髪だってどこぞのテレビからのそのそと出てくる幽霊を彷彿とさせるものだった。


僕と接することで変われたのなら彼氏冥利に尽きるというものだ。


「ねぇ、聞いてた?」


「え、あごめん聞いてなかった。もう一回言ってくれる?」


とりとめもないことを考えている間に何か言われていたのを聞き逃したらしく、彼女はわかりやすくムッとした表情になっていた。


「だから、このあともう少しまわったらお昼にしようって言ったんだけど…。かわいい彼女をほおっておいて随分考え込んでたみたいだね」


「ごめんね、そんなに怒らないでよ」


「別に…怒ってないし」


少しへそを曲げてしまった弥生の機嫌は昼食あーん羞恥心の刑により僕の心の余裕と引き換えに良くなった。


その後もデートは順調に進み、いよいよ今日の大目玉観覧車までやってきたのだが。


皆が選ぶ王道デートと言っても過言ではない二人きりでの観覧車に僕は少し恥ずかしさを覚えてしまっている。

夕陽に当てられてわかりづらいが弥生の頬が赤くなっているのとそわそわと落ち着かない様子を見て弥生も似たような感じなのだろうということがわかった。いや昼食のあーんのときは平気そうにしてたろうに…あっ目が合った。


「今の私たちってものすごくカップルらしいことしてない?」


「驚いた、実は僕も今同じこと考えてたんだよ」


「ええ、本当に!?心まで通じ合ってるなんて完璧なカップルだね」


"完璧なカップル"その言葉に僕はひどく困ってしまった。確かに、今日一日のデートを切り取ったらそう言ってもいいと思う。

でも僕は、僕は…


「どうしたの?もしかして気分悪い?」


どうやら顔に出ていたらしく彼女は心配そうにこちらを見ている。


「え?いや、そんなことないよ。大丈夫」


「ならよかった」


僕は弥生を見ていることが耐えきれず外に目をやり気分を落ち着かせる。あぁ、叶うことならば…。いや、もうやめよう。


「弥生」


「ん?なぁに?」


「目を瞑って」


「わ、わかった」


僕の真剣な顔から何か察したであろう彼女はぎこちなく言われた通り目を瞑る。

弥生…君が思ってるようなことには絶対にならないんだ、ごめん。


バックから長方形の箱を取り出す。箱を開けるとハートのネックレスが綺麗に仕舞われていた。バイト代を貯めて買ったこれに、意味を持たせることになってしまったのを複雑に感じる。始めに買おうと思ったときはこんなつもりじゃなかったと思う。


ネックレスを彼女の首に通す。


「もういいよ」


弥生は首に下げられたネックレスを見ると目を輝かせた。


「ね、ねぇこれ!」


「プレゼントだよ。今日でちょうど一周年だったでしょ?」


「覚えてたの?」


「うん、なかなか印象深い日にちだったからね」


「ありがとう、凄く嬉しい!ずっと大切にするね!」


「そう言ってくれるとプレゼントした方も嬉しくなるよ」


言うなら今しかない。


「弥生、聞いて」


彼女の手を握る。僕は今どんな顔をしてるんだろうか。


「何?司」













「別れよう、僕たち」


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