フローレンスルート

変わったこと

「--お兄様、ほら行きますよ」


「は~い……じゃあ母さん、行ってくるね」


「お母様、行ってきます」


「はい、いってらっしゃい2人とも」


「「行ってらっしゃいませ!!」


 アクセル・フォンとの対決から数日……僕の身の回りではいくつか変化が起きた。


「おはようございますレイ君、ラウラさん」


 僕の家の屋敷に前に会長が彼女の使用人と一緒に立っていた。ここ最近恒例となってきているこの光景。その中で一番の変化というのがこの光景なのである。


「おはようございます会長」


「おはようございますフローレンスさん」


 一番変わったこと、それは何故か毎朝会長が僕の屋敷に来るようになったことだ。あの事件から数日後、会長は毎朝僕の屋敷に来るようになって、僕とラウラが来ると一緒に学園まで登校するようにしていた。


「お嬢様、では私はこれにて」


「今日もありがとう、行ってきますね」


「行ってらっしゃいませお嬢様」


 というと僕達が来たのを見た会長の使用人は頭を下げ、会長の屋敷の方に向かって歩き出した。


「会長、毎朝大変ですよね? 僕なら大丈夫ですから」


「何を言っているんですかレイ君、またアクセルのような人に襲われたらどうするんですか」


「い、いやその時は僕の数少ない魔法を使って……」


「その魔法は連発出来ませんよね? もしその道中で襲われたらどうすんですか?

私は防御系得意ですからレイ君を守ってあげれます」


 会長が毎朝、僕と一緒に登校する理由……それは僕がまた襲われるかもしれないかららしい。彼女曰く“無効化出来るのは強力だが何度も連発出来ない。なら防御魔法が得意な私が守る”とのこと。


 その申し出を最初は何度も断ったのだが会長の押しに僕が負けて今に至る訳である。彼女は可憐な見た目の割に結構頑固なところがあり、一度彼女が決めたら中々止めない。



「今日も眠たそうですねレイ君」


「昨日最近買った小説を夜遅くまで読んでて……ふぁ……」


「もうお兄様、しっかりしてください……学園の模範である副会長なのですから」


「だって結末が気になって最後まで読みたかったんだよ……」


なんていう会話をしながら僕達は学園に向かうのであった。




「にしても何か慣れないなぁ……みんなからの視線」


 今までと同じように僕に話しかけてくる学生はいないが、僕に向けられたことがない視線をここ最近向けられるようになった。


「フフ、“学園一の問題児”として扱われていたレイ君が今では“学園のヒーロー”ですからね」


「ヒーローって大げさな……」


 大きく変わったことの1つとしては僕の学園における評判だ。


 アクセルの件以降、僕の評判はかなり上がっている。彼とその仲間達がこの学園を危機的な状況にしようとしたのは学生達は知っている。それをアクセル達から救ったのは僕ということになっているのだ。


(僕何もしてないんだよなぁ……ただ相手から逃げて、最後にアクセルの魔法をくらって気絶しただけだしなぁ……)


 まぁ僕が魔法を無効化出来る能力を学生達は知らないので“魔法が使えない僕がプロの刺客数人相手に互角とは言わないまでも1人でかなり追い込んだ”と噂になっている。


 僕がみんなから認められるようになったのが嬉しいのか自分の事の様に喜んでいる。

だがそんな会長とは真逆な態度な人物が1人いるのだが……


「はぁ……お兄様は前から何も行っている事は変わらないのに皆様都合良すぎます。

ーー何なんですか、あれは……呆れて物が言えないです」


その態度を取っているのは僕の妹のラウラ。


「ラウラ、そう言ってくれるのは嬉しいけどそこまで感情を露わにしなくてもいいって」


「お兄様はいいのですか? あそこまで露骨に態度を変えられて怒りませんか?」


「人間ってそんなものでしょ? 今更それに目くじらを立ててもしょうがないし、僕は気にしてないよ」


 それに僕は前世でもおなじような境遇だったので比較的こういうのは見慣れている。露骨に態度を変えるのは流石に苦笑いを浮かべるが彼らも学園での立場を守るために必死なのだろう。


「でも……」


 だがラウラは僕の答えに納得していない様である。真面目な性格なためか僕がそういう状況に置かれているのが嫌みたいだ。


「ラウラさん、レイ君が気にしてないって言っているのですから本人ではない私達があれこれ言うことではありませんよ」


「それはそうなんですけど……納得いきません」


「ありがとうラウラ、怒ってくれて」


「ふ、ふん私は妹として当たり前の事を言っているだけです」







「レイ・ハーストン、入ります」


「アルト・トリスケール入るっす~」


 放課後、僕とアルはいつものように生徒会の活動に参加するため生徒会室に入った。


「おっ、来たね学園のヒーロー」


中にはチャスが先に入っており、僕達の姿を見るとニヤニヤしながらこっちを見てきた。


「チャス……そのあだ名? は止めて欲しいなぁ……」


「俺もそのあだ名で呼んだ方がいいか、坊ちゃん?」


「アルまで止めて欲しいなぁ……何よりも僕大した事してないし」


「相変わらずレイは自己評価低いねぇ~

ーー“旧校舎で大立ち回りをして学校を救ったヒーロー”や“次期生徒会長”なんて呼ばれているのに」


「まぁ順当に言って坊ちゃんが次期生徒会の会長だしな!!」


コンコン


「ミラ・ルネフ入りまーー

ーーレイ達はもういたのか」


次にやってきたのはミラだった。


「やぁミラ~今ね次期生徒会長のレイの話をしていたんだ~」


「そうか、もうほぼ確定だと皆が話していたのを私も聞いたのでな。親友が生徒会長だと私も嬉しい」


「ミラまで……というか噂の出どころどこだよ……」


「あっ、それ私」


と特に詫びれる様子もなくあっけらかんというチャス。


「チャス、やっぱり君か……」


 まさかの噂の出どころが間近であった。

……まぁ噂の内容的に今回の出来事を実際に見ていないと流せない内容だったの、生徒会の面々の中でこんな噂を流すのはチャスぐらいしかいなかったので何となくそんな気がしていた。


「別に噂が無くてもレイが次期会長に相応しいのは私は知っているぞ。

親友としていつもレイの仕事ぶりを見てきていたからな!!」


「おやおや~ミラ?」


ニヤニヤ顔のチャス。

彼女がそんな顔をするときは大体自分のおもちゃを見つけた時だ。


「な、なんだアルマンダ殿?」


「“親友として”だって~? 本当かなぁ~?」


どうやら今回チャスはミラをおもちゃにしようとしているらしい。


「う、嘘は言ってないぞ!! アルマンダ殿だってレイの仕事ぶりを知っているだろ?」


「そりゃね~1年生の時はレイの補佐していたし誰よりも真面目にやっていたのは知っているさ

ーーで、ミラさんや“親友として”だって~?」


「まだ続くのかこれは!?

ーーレイ、アルマンダ殿が怖いから助けてくれ!!」


親友である僕に助けを求めるミラ。


「えぇ……ここで僕なの? 何となくだけど今の状況僕に助けを求めてはいけないと思うんだよ」


「そ、そこを何とか!! 親友としてレイにお願いだ!!」


「おっ、“親友”またまたいただきました~!!」


 チャスはこのように人の上げ足を取ったり、言葉の間違いを見逃さない。

なので下手に彼女の前で弁明や言い訳をしようものなら余計に傷をえぐられたりする。

……今回ミラはそんなチャスの作戦にまんまとはまってしまったわけだ。


「し、しまった!? レイ頼む!! 助けて欲しい!!」


「さぁさぁ吐いてさっさと楽になっちまえよ~ミラ~」


お前はどこの刑事だとツッコミを入れようとしたところに……


「--お兄様方は何をしているんですか……特にアルマンダ様」


「フフ、本当レイ君達って仲良いわよね。私も同じ学年になりたいです」


「私は後輩クンの先輩でも同学年でも、後輩どれでもいいわ~

ーーだって狙うのは変わりませんから、フフ……」


僕達がしょうもない会話をしていると会長、アリーヌ先輩、ラウラが生徒会室に来た。

ラウラに至っては入ってきて早々、僕達の様子を見ると大きくため息をついた。

……ごめんね先輩がこんな面子ばかりで。

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