第288話 何故ここに?

「なるほど、そんな事があったのね…しかし、オリオスが…」


 昨日の、大講堂前で目撃したことをオードリーに伝えた時の話をマルティナとミーシャに説明すると、マルティナは半笑いなりながらそう答える。


 今、昼食が終わり、午後の授業に向けて、教室へと向かっている。


 コロンは朝から座席とステージの設置に立ち会っており、私たちも立ち会うといったのであるが、コロンが立ち合いは一人で良いので、授業に出て、放課後、メガホンスピーカーの設置にディーバ先生を連れて来て欲しいと頼まれた。


 また、テレジアと、オードリーは仕事があるので元々、午後の授業は無いので、ここにはいない。なので、私たちは珍しく、私、マルティナ、ミーシャの三人で行動していた。



「しかし、子供の時なら分かるけど、この歳になって膝の上に座るのは無いわよね…」


 私もマルティナに相槌をうちながらそう答える。


 しかし、オリオスはそういう性癖なのであろうか…甘えるのが好きなのかな?


そんな事を考えていると、前を歩くミーシャを視界の中央に捉えてしまう。


「えっ、レイチェルさん、もしかして私もそんな事をすると思っているのですか?」


 自分もオリオスのような事をしているのではないかと、勘違いしたと思われて、ミーシャが抗議の声を上げる。


「いえいえ、別にそんな事は思ってないわよ、ただ前を向いていたらミーシャがに目がとまっただけだからっ」


 実際、そうであり、別に他意を持ってミーシャを見ていたわけではない。


「あーでも、ミーシャはお人形というかぬいぐるみみたいだから、膝に乗せてだっこしたい時はあるわね」


「いやそれ、お父様もお母様も本当に時々やってくるんですよ…私はもう子供じゃないのに…」


 ミーシャ本人はそう言っているが、見た目では子供にしか見えないから仕方ないだろう。


「あっ!」


 突然、マルティナが声をあげる。


「どうしたのよ、急に声なんか出して?」


「なんとなく、オリオスの気持ち悪さが分かった気がする…」


 マルティナは苦虫でも噛みつぶしたような顔をする。


「分かったってどういう風に?」


「例えば、私たちがミーシャの事をお人形みたいとかぬいぐるみみたいで可愛いと思う事は普通よね?」


 マルティナの言葉にチラリとミーシャを見る。ミーシャは少しはにかんだ顔をする。


「えぇ、確かにそうね。普通に可愛いし」


「でもさ、例えばミーシャが自分の事を可愛いお人形とかぬいぐるみだと思い込んで、ふるまったらどう?」


 マルティナの言葉に頭の中で想像してみて、すぐにピンとくる。


「あぁ… なんか、可愛さよりもあざとさが目につくと思うわ…」


 私の言葉に側で聞いていたミーシャがぎょっとする。


「えっ!? もしかして、私、あざといですかっ!」


 ミーシャはショックを受けて顔を青くしながら聞いてくる。私たちはそのミーシャの表情を見てクスリと笑う。


「ミーシャがあざといなんて思っていないわよ、逆にその容姿で大人振ろうとして滑っている所が可愛いのよ」


「そ、そうなんですか…私、滑っているのですか…」


 マルティナの言葉にミーシャはしゅんと肩を落とす。


「それにね、あざといっていうのは、例えば、さっきのミーシャの反応をあざとく返す時は…」


 マルティナはすっと両腕を胸の前に引き寄せ、瞳を輝かせて、くねくねと身体をよじり始める。


「えぇ~っ、私があざといなんてぇっ、そんなの私は普通に振舞っているだけですぅ~♪ って感じにするのよ」


 見事なマルティナのイラっとくるあざとさ振りに関心するが、ミーシャは何か悟ったような顔をする。


「あー、二人が言っていたあざとさが目につくという意味が分かりました…さっきのは私でもイラっとしました…」


「でしょ? だから、このイラっとくるのかオリオスのあざとさで、ミーシャの天然とは全く違うわよ、安心して」


 マルティナは爽やかな笑顔で説明する。


「なるほど、オリオスがあざとくて、私が天然なんですねっ、って、天然?」


 ミーシャが天然という言葉に、引っかかって眉を顰める。


「あっ」


 マルティナがマズっという顔をする。


「えっと、オリオスの可愛さが作り物の可愛さで、ミーシャの可愛さは自然体の可愛さって事よ」


 私がマルティナに代わって必死に取り繕う。


「そうそう、作り物と言うか演技だと分かると白けるでしょ? でも、ミーシャは自然体の可愛さだからいいのよっ」


 マルティナも私の言葉に合わせて、必死に弁明し始める。


「私の事を可愛いと言って下さるのはいいですが、本当は私自身は可愛いより、コロン様のようなゴージャスで大人っぽい人間になりたいんですよね…」


 ミーシャがポツリと言う。私たちはその言葉に息を飲んで押し黙る。確かに自分の望まない評価を言い続けられても嬉しくは感じないであろう。


「私、コロン様に憧れていて、コロン様と同じようになりたいと思って、前に、コロン様と同じドレスを来た事があるんですよ、それでコロン様と並んだ時、コロン様の知り合いの型から、妹さんですか?って言われたんですよ…同い年なのに…あの時のコロン様の顔が忘れられません…」


 ミーシャ本人はつらい過去をいっているつもりであるが、やはりマルティナのいう通り、そんな所が正しく天然だと思う…


 そんな状態で私が口輪筋の限界に挑戦していると、視界の端に気になるものが映る。


 私はあわててマルティナとミーシャの手を取り、二人を物陰に引き寄せる。


「なに!? レイ…」


 マルティナが声を上げかけた時に、口の前に人差し指を立て、二人に押し黙る様にジェスチャーする。


 私のポーズを見たマルティナは言いかけていた声を呑み込み、押し殺した小声で話し直す。


「ない? どうしたのよ、レイチェル…」


 私は人差し指を口の前に立てたまま、物陰からにゅるっと顔を出して、先程、視界の端に見えた、大講堂前を確認する。


 やはり、間違いない!


 私は、見つからないようにすぐに顔を戻して、二人に向き直る。


「大講堂前にオリオスがいたのよ」


 私は小声で二人に伝える。


「えっ? オリオスがいただけ?」


 マルティナはキョトンとする。


「別に大講堂でイベントをするそうですから、オリオスがいてもこんな警戒するほどの事では…」


 ミーシャも、私の急な対応に困惑しながら話す。


「いや、それだけなら、こんなに警戒しないわよ… オリオスと一緒に、あの…エリックがいたのよっ」


 私はひそひそ声で、二人に事の重大さを伝える。


「エリック?」


 ミーシャはピンのと来ないのか首を傾げる。


「エリック…エリック…エリック…… あっ! もしかして、オードリーの所の!?」


 マルティナはすぐに誰の事だか頭の中に浮かんでこなかったが、漸く分かったようだ。


「そうよっ、 オードリーの母親、レベッカ夫人の愛人だった、エリックがオリオスと二人で話をしていたのよっ」


 二人は漸く事の重大さに気が付いた。


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