第100話 無謀な行動

 その空き家に向かうと、掃除や庭の手入れなどはされていないが、人が出入りしている生活感はある。普段から根城にしているのであろう。


「リーフ、出て来て」


 私が呼びかけると、リーフはぬるりと髪の中から出てくる。最近、眠い様でなかなか姿を現さないが呼ぶと出てくる。


「なぁに? レイチェル」


「ちょっと、リーフ。お願いを聞いてくれる? 誰か人を呼んできてくれるかしら? 出来れば学園内を巡回している警備員さんがいいわ」


 眠気眼を擦るリーフにお願いする。


「え?人呼んでくるの?いいよ~わかった~」


 リーフはそう答えると、欠伸をしながらパタパタと飛んでいく。


 さて、ここまでつい勢いで来てしまったが、どうしよう? 映画の様な侵入操作なら、静かに警戒しながら進んでいくのがセオリーであるが、相手は誘拐を目的とする人物。自分が掴まる危険性があれば、すぐに逃げ出すかもしれない。


「ここは声を上げてすすみましょうか、そうすればマルティナに危害を加えようとする手を止めると思うの」


 私はシャンティーに私の考えを提案してみる。


「それだと、マルティナ様を人質に開放を要求してこないでしょうか?」


 私はシャンティーの言葉で自分の計画を改める。私なら人を呼ばれた瞬間、人質は荷物になるので放置して、まずは逃げ出すと思っていたが、上級貴族に手を出すお馬鹿さんなら、後先考えずに、人質を盾にするかも知れない。もしそんな事をすれば罪が重くなるだけなのに…


「分かったわ、では警戒して進みましょう、ちょっとその前に…」


 私はシャンティーにそう答えて、ディーバ先生から渡された指輪に力を込めて、先生がすぐに現れるものと思って念じる。


『どうした? レイチェル君、奴の出現しそうな反応は出ていないが』


 直接、頭の中にディーバ先生の声が響く。


「えっ!? ディーバ先生、すぐに現れてくれるんじゃないのですか?」


 私は、ディーバ先生の様な念話の方法が分からないので、口に出して答える。


『緊急用の指輪とは言え、自動的に私が呼び出されていては、私の身も危険になるだろう』


「レイチェル様、ディーバ先生と話しておられるのですか?」


 独り言の様に話し始める私にシャンティーは首を傾げて聞いてくる。


「そうよ、シャンティー。とりあえず、ディーバ先生、すぐに来てもらえますか?」


 私はディーバ先生に呼びかけを続ける。


『一体、どうしたと言うのだ。どうやら上級寄宿舎の近くの様だが…』


「はい、それがマルティナが何者かに誘拐されまして、この家の中に囚われているようなのです!」


『それは本当か!? 学園内でそのような事が!? 分かった、憲兵を引き連れてすぐに行くので待っていなさい!』


 その言葉を最後に、プツリと回線が切れたような気がする。恐らく、ディーバ先生からの強制通信の様なものなのであろう。


「シャンティー、先生が憲兵をつれてくるそうよ」


 私は先生との話を内容をシャンティーに伝える。


「それでは、マルティナ様の身の危険に間に合わないかもしれません!」


 確かに、マルティナやその実家に汚名を着せるだけなら、すぐに行動に出るかも知れない…


「私だけでも先に! うぐっ…」


 シャンティーがそう言いかけた所で、シャンティーが後ろから何者かに口を塞がれる。


「シャンティー! うっ!」


 私がシャンティーに駆け寄ろうとした時に、私も後ろから捕まえられて、何かを染み込ませた布で口を覆われる。私は何かを吸わされたようで、急速に意識が重くなる。


 私は途切れそうになる意識で、目で後ろを見ると、とても学園の学生とは思えない人相の人物が学園の制服を着て、下種な笑みを浮かべている。どうやら、マルティナが囚われている空き家だけではなく、私たちの後ろの空き家も奴らは根城にしていた様である。


「もっと、警戒していれば…」


 その言葉を最後に私の意識は途切れた。



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