【 東京 】


『ヒュ~ッ……、ヒュ~ッ……』


 今、私は東京のビルの屋上にいる……。

 もう既に、金網のフェンスを超え、あと一歩踏み出せば、命を終えることができる……。


 私は、曾お祖父ちゃんの祖国、日本へ12年前にやってきた。

 その頃の私は、希望に溢れていた。


 お父さんやお祖父ちゃんから伝え聞いていた、曾お祖父ちゃんの祖国に憧れていたんだ……。


 でも、現実は違っていた……。

 肌の色や言葉の壁、文化の違いなどがあり、私はなかなかこの国に馴染めなかった。


 あんなに憧れていた、曾お祖父ちゃんの祖国だったのに……。


 下では、車のクラクションやパトカーのサイレンの音が、けたたましく鳴り響いている。

 そこから見えた景色は、今の私にとって、決して美しいものじゃない。


 冷たい夜風が、私の長くなった栗色の髪と、曾お祖父ちゃんの祖国で買った、このローズピンクのスカートをフワフワと揺らしている。



 私はこれから、曾お祖父ちゃんのところへ逝く……。


 曾お祖父ちゃんの祖国へ来たことを後悔している……。


 ここから、大きな満月を見ていたら、お父さんやお祖父ちゃんから伝え聞いた、曾お祖父ちゃんのあのお話を思い出したんだ……。


『ヒュ~ッ……、ヒュ~ッ……』



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