お化喰やしき

アリエッティ

出し物

 「お化け屋敷ぃ!?」


 「騒ぐなようるせぇな。」

 文化祭というものは余りに滑稽だ、思いつきだけで不出来な作品を平気で量産する。


「教室丸々使って作るんだ、面白ぇだろ?

メイクは美術部にやって貰ってよ。」

意気揚々と楽しげに構想を語る同級生の文人はお調子者だがクラス委員長という教室で担任の次に大いなる肩書きを持つ存在でもある。


「文句は無ぇよな良太?

ていうかもう決まっちまってるがな!」


「..なら逃げ場無いだろうが。」

怖い事が苦手な訳ではない、こういったことを安易にやろうとしてしまう文化祭という場所の雰囲気が嫌で仕方ないのだ。


「そんな顔すんなって

これ企画したの誰だかわかってんのかよ?」


「知るかんな事っ!」


「嫌、だったかな..?」 「ん、えっ..⁉︎」

振り向いた先に立っていたのは同じクラスの黒髪の少女、立花 有里彩。良太の顔色を伺うようにしてこちらをじっと見つめている。


「立花さんが企画したの..?」


「お化け屋敷嫌いだったかな、ごめんね。」

罰の悪そうに軽く頭を下げて謝罪する


「いやいやいやいや!!

そんな事....ない、と思うけど..」

両の掌を大きくふって否定する、どうにか彼女の悲しげな表情を払拭しようと必死な態度を取るが遣り方が上手くわからない。


「決まりだな、立花さん。

コイツもお化け屋敷賛成だってさ!」


「…本当!? やったぁっ..‼︎」

顔の前で小さくガッツポーズをして笑っている。表情を上手く変える事が出来たはいいが、今度は別の感覚が心臓を大きく揺さぶる。


「ありがとう、当日楽しみだね..!」

手を振り去っていく。一瞬彼女の笑顔が、自分だけのものになった気がした。


「……。」


「噛みしめてんなよ、好きなんだろ?」


「ばっ..! 悪いかよ..。」


「素直なのはいい事だな!」「うるせぇ..」

隠すつもりはない、寧ろ本人に伝えたい。

お化けが出なければ屋敷の中で言えるのだが


「決戦は5日後だ、この意味わかるな?」


「……いやわからん。」


「はぁ? お前鈍感だな〜。

安心しろ、オレがついてるからよ」


「…うん。」

肝心なところは理解が及ばず首を傾げる。人の力を借りて行うつもりが元より無いのだろう、アシストの意味が本気でわかっていない。


「準備は今日の午後からだ、いいな?」


「..言われなくても時間割に書いてあるだろ、何かしらの準備はするつもりで朝からいるよ」


「それもそうだな、ついノッててよ!」

何をそれ程楽しみにするのか。いつもならばそう思うのだが、今回は少し勝手が異なる。


「一日もサボれなくなっちまったなぁ..」

五日間、本日の午後から準備を含めた文化祭期間が始まる。毎度のように休む事は許されない、ぜったいに。


「はぁ、つまんね。」

午前中の授業を軽く受けその後は準備が始まる。事前の授業がいつもより長く感じた。


〜午後〜


「よーしみんな外出ろー、看板係は向こうな。衣装とお化け役は美術と一緒に美術室内行って作業してくれ、なんかあったら言ってー」

文人が生徒を各場所へ割り当てていく

通常は文化祭実行委員の仕事だが、我がクラスでは文人がそれを担っている。とにかく仕切り屋で、リーダーを自ら勝手出ては組織をまとめ上げるのが好きらしい。


「‥で、お前は多目的室だ」


「オレ看板係なの?」


「そうだぞ、お前その日休んでたからオレが勝手に決めちった。幾つか作ってもらう事になるだろうが、ペアだから安心しな」


「ペア…。」


「オレは足りないとことか手伝って回るから、お前も何かあったら呼べよ?」


「うん」「へへ、じゃあな!」

誰かと二人で多目的に取り残されるらしい。

正直、友達としっかり呼べるのは文人くらいであとは随分と浅い関係性で接している。人となりの余りわからない連中と組むのは気が引けるが、ここは彼を信じるしかない。


「やっぱしサボった方がいいかなぁ..」


「私と一緒じゃ、嫌..かな?」


「……え⁉︎」

長い黒髪、控えめな声色、彼女がここにいるということは間違いない。


「立花、さん..?」


「一緒に看板作ろ。」

ペアとなるのは確実に憧れの人だ


「……はいっ!」

アシストの意味が少し理解出来た。


「遅くまでかかるかもしれねぇなぁ、部活ある奴途中で抜けていいからなー!」


「まだ始まったばっかりだよ?」


「ていうかこの時期部活あんの」


「三年以外はあるだろ。」

文人の言葉を半ば聞き流しながら作業に励む生徒達、それにめげずに様々な箇所を回りながら声を掛けていく実行委員兼生徒委員長。


「あれ、箱崎は?」


「またどっかでサボってんだろ。」

教室でコース作りを任された箱崎 伶也の姿が無い。余り人とつるまずクラスメイトからも煙たがられている、いわばわかりやすいヤンキーのそれだ。


「..まぁそのうち帰ってくるだろ。

その分オレが手伝うよ、何すればいい?」

箱崎の穴を埋めるように手を貸す。本音をいえば、文人もあまり彼とは関わりたくはない。


「あいつもクラスメイトなんだけどな..」

思う気持ちもあるのだが、相手が望んでいないのだろう。そんな感情から諦めかけている


その後も作業は日暮れ近くまで続行された。


「..ねぇ、素村くん。」


「え! あ...なに、かな?」

初めて名前を呼ばれた。苗字ではあるが、少しだけ距離が近く感じられた。


「今、さ..好きな人とか...いるの?」


「……え⁉︎」

不意打ちに急所を突かれた。

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