堕ちる勇者に、酷な魔物

御厨カイト

堕ちる勇者に、酷な魔物


「……ふぅ、一体この状況どうしましょうかね、勇者様?」


「いや、どうするも何も俺はお前の事を倒すだけだが?魔王の配下なのだからな。」


「いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいよ!貴方今の状況を分かっていないんですか!?」


「勿論分かっているとも。お前と戦っている時、いきなり発動した転移魔法によってよく分からん場所に何故かパーティーの中で俺だけが移動させられた、だよな?」


俺は目の前にいるサキュバスと、周りの状況を見ながらそう言う。


「うーん、ちゃんと分かってらっしゃる……。……しかも冷静に。」


「まぁ、そういう訳だからお前には死んでもらおうか。」


「いやだからちょっと待ってよ!聞いてよ私の話を!」


「憎き魔王の部下の言葉など聞いてられるか。問答無用!」


そう言いながら俺は手に持っていたつるぎを、彼女の頭に振り下ろす。


「あーーー!いいのかな!私を殺しちゃって?」


だが、彼女はそんな俺の一撃を慌てながらもするりと避けながら、そう言い放つ。


「……何だと?」


「だってこのダンジョンの脱出の方法を知っているのはこの中じゃ私だけだよ?」


「それがどうした。」


「だからこそ私を殺しちゃったら、勇者様は一人寂しく、この罠だらけのダンジョンを彷徨い続けないといけなくなるんだよ?」


「……う、うぅむ……、それは……、困ったな。」


「でしょ!だからさ、一先ずこのダンジョンを出るまでは敵じゃなくて、同じ目的を持つ仲間として頑張ろうよ!ダンジョンを出たら、また敵同士に戻ればよいんだから!」


「……はぁ、まさか、敵と手を組むことになるとは……。……仕方がない事ではあるが……」


「まぁ、勇者様が私を手を組みたくない気持ちも分かるけど今回ばかりはしょうがなくない?だって、私と手を組まないとそもそもここから生きて出れないし、因縁の魔王様とも戦えないよ?」


「………………分かったよ。」


「大分悩んだね。」


「お前と手を組んでやる。ここを出るまでは仲間、一切攻撃をしない。これで良いか?」


「うん!それでオッケーだよ!じゃあ、これから宜しくね、ゆ・う・しゃ・さ・ま?」


「……そう言いながら魅力チャームを掛けてくるんじゃないよ。攻撃しない、じゃなかったのか?」


「でも、勇者様こそ私の首にぴったりとつるぎを付けているのもどうかと思いますけどね?」


「………はぁ、分かったよ。……お互い、信用しようじゃないか。」


「それはこっちのセリフなんですけど。」


彼女はジトーッとした目でこちらを見てくる。


「それを言ったら、こっちのセリフでもあるのだが……ってこんな押し問答をするためにお前と仲間に仲間になったのはないのだが……。まぁいいか、そろそろいい加減進むぞ。」


「あ、そっちに行っちゃいけないって、ちょっと待ってよ~!私を置いていかないで~……」



そうして後ろから聞こえる、何だか情けない声を聞き流しながら、俺はズンズンとダンジョンの中を進んでいくのだった。











数分後











「はぁ……、だから待ってって言ったじゃん!」


「………う、面目ない。」


「もー、まったく勇者様はー。ホントにもー。」


そうブツブツと言いながら、彼女は俺と共に目の前の敵たちを倒していく。

……はぁ、まさか進んだ先がモンスターの巣窟だったとは。

先に言ってくれたら良かったのに。


「言おうとしたけど、勇者様が私の話を無視して行っちゃったんじゃない!」


「……どうして考えてたことが分かったんだ。」


「その不満ありありの顔に分かりやすく書いてあったからね。……ってそんなことはいいから、さっさとこの大軍を片付けるよ!私だってこんなところで死にたくないんだから!」


彼女はそう言いながら、魔法を使ってどんどん敵を蹴散らしていく。


「お、おう、分かった。」




俺もそれに自慢のつるぎを振るいながら、応えるのだった。



















「……ふぅ、何とか落ち着いたね。」


「そうだな、良かった。」


「……良かった、じゃないよ!もー、ホントにいい加減にしてよね!」


「………はい、すいません。」



……魔物たちの死体を前にして、魔王の配下のサキュバスに怒られる勇者ってこれ如何に。



「ちゃんと私の事を信頼してくれる?と言うか、してもらわないと死んじゃうんだってことが今分かったでしょ?」


「……うむ、そうだな。分かったよ、今度こそちゃんとお前の事を信頼しよう。今回は俺が悪かった。」


「うんうん、それで良いんだよ。私たちは今の所、仲間なんだからね。」


「………そうだな。」


「なんでまだ不満そうなのよ!」


「いや、まだ心の中で葛藤しているからさ。でも、安心しろ。ちゃんと信頼してやる。」


「はぁ、心配だな~。……まぁいいか、それじゃあ先を急ぎましょう。あっ、今度はちゃんと私の指示通り動いてよ?」


「分かってるって。」


「それなら良いんだけど。じゃ、行こうか。」



そうして、俺は彼女の案内の元、このダンジョンを脱出することにしたのだった。










********










「なぁ、まだか?」


「まだに決まってるでしょ!魔王様が侵入者を完全に殺すように作った物なのだから、思ってる以上に長いのよ……って何回同じ説明をすれば良いのよ!いいから黙って私の後ろをついてきなさい!」


「……分かった。」


「ふんっ、もー」



……いやー、あまりの長さにびっくりしている。

もうだいぶ長い間、こいつの後ろをついて行っているのだが、周りの風景は全く変わらない。

まるでおんなじ場所でずっと足踏みをしているかのようだ。



……一応このアイテムで現在場所を仲間に知らせておくか。

多分彼らの事だ、ちゃんと分かってくれることだろう。




そんなことを考えながら、俺は彼女の後ろを黙ってついて行く。





そんな時、「キャッ!」と言う悲鳴が聞こえる。

多分先に行っていた彼女のものだろう。



「お、おい!いったいどうした!」


「痛てて……、まだ解除出来てない罠があったみたいで……」


そう言いながら、足を押さえる彼女。


「あ、出血している……、……ちょっと待ってろ。」


俺は自分の腰ポケットをゴソゴソと漁り、目的のものを取り出す。


「ほら、これを使え。」


「これは……回復薬?」


「あぁ、そうだ。ケガをしているのだろう?だからこれを使え。」


「………フフッ、可笑しいね。勇者が魔物を助けるなんて。」


「……今、俺とお前は”仲間”なんだろ?だったら仲間を助ける行動をして何が悪い。」


そう言いながら、俺は彼女に回復薬を手渡す。



「………ふぅん、”仲間”、か。……勇者様にちゃんとそう言ってもらえて、何だか嬉しいな!」



受け取った彼女がそう頬を染めながら、そう言うもんだから、俺の頬も徐々に朱に染まっていく。

俺はそんな顔を彼女に見せないように、顔を逸らすがそれがいけなかったようだ。



「……あれー?勇者様、どうしたのー?……あ、もしかして照れちゃった???もー、勇者様って初心だな~。」


「チッ……、うるせえな……、そう言う事を言うなら回復薬返せ。」


「残念!もう使っちゃったよ~。」


「……くっそ、ホントなんでお前なんかと仲間になっちまったんだか。」


「え、魔王様と戦うためでしょ?」


「……正解。ってもうホント調子狂うな。いいからさっさと行こうぜ。」


「あっ、だから私の先を行かないでって言ってるでしょ!」


「いや、だって、お前が先に行っても全然埒が明かないんだもん。それに当の本人は罠に引っかかったりするし。」


「埒が明かない、ってだ・か・ら言ってるじゃん!このダンジョンはめっちゃ長いんだって!そんな1日で脱出できるものじゃないんだよ!……まぁ、罠に引っかかっちゃったのは……、うぅう、とにかく黙ってあんたはついて来れば良いの!」


「そんな理不尽な。まるで魔物みたいだな……ってお前魔物だったわ。」


「何を今更。だから、ちゃんとついてきてよ。文句を言わずに、ちゃんと、ね?私たちは”仲間”でしょ?」


「……そう言いながら魅力チャームを掛けてくるもんだから、いまいち信用出来ないんだよな……。……まぁ、分かったよ、黙ってついて行ってやるよ。」


「うん、それで良し。じゃあ、ついてきてね。」



そう言いながら彼女は、俺の前をまるで当てつけかのようにズンズンと進んでいく。

そんな彼女に俺は苦笑しながら、後を追っていくのだった。












********












「ハァー、やっと出れた~……、うぉっ、眩しい……」


何日かぶりに浴びる太陽の光に目をやられながらも、俺はそう言う。


「うにゃー、やっとだよー……、まったく魔王様もとんでもないものを作られるものだ。」


そんな愚痴を言いながら、彼女も俺の後ろからひょっこりと姿を現す。




結局あの後、俺たちはこのダンジョンで数日を潰すこととなった。

何度もモンスターの巣窟とぶち当たったり、罠に引っかかったり、そしてそれによって何度も喧嘩をした。

協力して魔物も倒した。

回復薬も渡したし、逆に罠を解いてもらった。



……そして、いつの間にかそんな関係が正に”仲間”と言う言葉でしっくりくる関係になってきていたのだった。






「ふぅ、やっとここからおさらばすることが出来るな。長かった。」


「そうだね~、まさかこんなにも脱出するのに掛かるとは思ってもいなかったよ。」


「ホントだな。それに最初の頃は脱出の方法を知っていることを餌に俺に協力させようとしていたのに、途中から全く役に立たなくなったのも面白かった。」


俺がそう笑いながら言うと、彼女はムスッとした顔をする。


「むぅ……、もー、うるさいなー!別に良いでしょ、だってこんな所まで来たの初めてなんだから!そもそも、魔王様の説明が悪かったのよ!」


「アハハ、そうかそうか。まぁ、そうは言ってもなんだかんだ脱出できたのはお前のおかげだからな。ホントありがとう。」


「いーえ、こちらこそ魔物なのに私をちゃんと信頼して、仲間として接してくれたのはありがたかったわ。」



彼女は微笑みながらそう言う。

俺もそんな彼女の表情を見て、笑みを零す。



するとその時、










グサッ


















『……えっ?』











いきなり目の前の彼女の腹部がじわじわと赤く染まっていく。

そして、本人もそれを視認した直後、「ゴフッ」と血を吐きながら、仰向けに倒れてしまう。



「お、おい、いったいどうした!」



慌てながら、彼女に近づくとあることに気づく。

このお腹に刺さっているのは……氷の矢アイスアロー


……こんな魔法攻撃いったいどこから、……ま、まさか!?





顔を上げ、周りを見渡すと……



「勇者君ー!助けに来たよー!魔法撃ったから、さっさとその魔族倒しちゃって!」


「おーい、勇者ー!無事かー!」



……仲間アイツら

そうか……、位置を知らせるアイテムを使ったんだったな……。



「ガハッ……、な、仲間が来ちゃったようね。油断しちゃった、わ。まさかこんな魔法で私がやられるなんて。……大分深い所まで刺さっちゃった……。」


見るからに致命傷になっている傷を押さえながら、彼女は言う。


「あっ、ま、待ってろ、今回復薬を出すから!」


「……勇者様は一体何を言ってるの?」


「何って仲間を助けることをするんだよ!」


「……アハッ、勇者様……。」


「何だ!」


「……今私たちは”敵”同士ですよ。」


「……あっ…」


「ダンジョンを出たら敵同士に戻るって言ったじゃないですか。ダンジョンをいる間だけ”仲間”ですよ?」


「そ、そうだったな……。」


「……もー、勇者様はおっちょこちょいなんですから……って……うふふ、敵のために涙を流すなんて、おかしな人……、……ホントお優しいですね。」


そう言われて俺は自分の頬に手を当てる。

……確かに濡れている。


…俺は……悲しいのか……




「……それで、勇者様はいかがなさるんですか?」


「…えっ?」


「『えっ?』じゃありませんよ。今目の前には憎き魔王の配下である私が瀕死の状態で横たわっているんです。そんな時、勇者である貴方がすべきことは1つでしょうに。」


「……まさか。」


「はい、私を殺してください。」


「……」


「多分もう少しで勇者様のお仲間がここに来られるでしょう。そして私は殺される。……なら、短い間でしたが仲間だった貴方様に息の根を止めていただきたい。」


「…………いや、そんな事、出来るわけ……」


「……こんなお優しい方が今まで勇者としてやってきたなんて俄かには信じ難いですね。少しの間一緒に冒険しただけで情が移ってしまうなんて……、ホントお優しい。」


「……」


「……そんなお優しい勇者様と最期に一緒に冒険出来て良かった……。」


そう言いながら、彼女は苦しそうに血を吐く。


「グッ…、ハァハァハァ、ハァー、……さぁ、勇者様どうか一思いにやってください。」


「……ッ、だ、だが……」


「まだ渋ってられるんですか……?まったく勇者様ともあろう方が……。早く覚悟を決めてください。」


「…………分かった。」


俺は静かに鞘からつるぎを抜き、それを強く握る。


「……ホントありがとな。お前のおかげであそこから出ることが出来た。本当に、ありがとう……」


「いえいえ、……こちらこそ、最期に勇者様と”仲間”として冒険出来てとても楽しかったですよ。」


そう彼女は最期も優しく微笑む。




俺はそんな表情を見るのが辛く、目を瞑る。

そして、色々な短くも濃い想いを閉じ込めながら、……叫ぶ。



「……ウ、ウワァァァァァァァァァァ!!!!!」


















グサッ
















********










「いやー、勇者よ。無事?」


近づいてきた仲間の魔法使いがそう言う。


「………あぁ、何とかな。」


「そうかそれは良かったわ!いきなり罠の転移魔法に巻き込まれたから、凄く心配してたのよ。それもあの魔族と一緒だったから尚更ね。ねっ?」


「あぁ、そうだぜ。ホントお前があのアイテムを使ってくれなきゃ、ここの位置すらも分かんなかったからな。ホント良かったよ。」


同じく仲間の重戦士もそう言う。


「それにしても……、まさかあの魔王の配下、それも四天王のコイツをやっちまうなんて、流石勇者だな!」


「……」


「それにコイツは幻覚魔法をしてきたり、魅惑してきたりと凄く卑怯な手を使ってくる糞な奴って聞いてたから、心配してからホント心配してたのよ。でも倒すことが出来て良かったわ。」


「……」


「……ずっと無言だけど大丈夫?」


「止めとけ、勇者はコイツとの戦いで疲れてんだよ。」


「あぁ、そうか。……ごめんね。」


「…………いや。」


「よっし、それじゃあ早速本来戦っていた、あのダンジョンの方へ戻ろうぜ。多分コイツを倒したから、魔王の部屋への扉は開いてるはずだ。」


「そうね、そうしましょう。勇者もそれで良い?」


「………あぁ、そうしよう。」


「じゃあ、日が落ちる前に早速行くか。ここからはそんなに遠くないはずだからな。」


「うん、じゃあ勇者行こう。因縁の相手を倒しに!」



俺はユラリと立ち上がりながら、一言。




「……あぁ、魔王を倒しに行こう。」
































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