幕間 第2王子 ベイルード2−2

女神の託宣たくせんかたる不届き者には、すぐにでも天罰で死ぬだろう、といた嘘が回り回って年中色ボケの恋愛脳ジジイ国王陛下に伝わってしまった。

相手がゲイルバード公爵令嬢と知るや婚約することが決定され、難色を示されてると知るや否や、直接申し込みに行く!!などと言い出し…まさかの父親同伴でプロポーズに乗り込むことになった。


その後、全力で拒絶する父娘に対して我が父親ながら最低な発言をした結果、行き過ぎた友情を感じている相手からの絶交宣言。

魔力暴走するほどの癇癪かんしゃくを起こすとは思わなかった…。

これが実の父親で、一国の王だと思うと頭が痛くなる。


不自然でないようそれなりに苦しそうな顔をしてはいるが、国王と高位貴族の魔力暴走を遮断し隠蔽することなど朝飯前だ。

屋敷の敷地からは一欠片たりとも、この魔力暴走の気配が漏れることはない。


ただし、その果てに国王と公爵は死ぬ。


人体が保有する魔力量…とりわけ、王族や高位貴族のそれは膨大だ。

普段は、無意識に抑えている魔力をたがが外れた状態で使い続ければどうなるか。

身の内で暴れ狂う魔力によって肉体は崩壊し始める。


自分の能力は秘匿ひとくしておきたいので、この状況の打破を令嬢に丸投げをする。

こうなったのも全て、この娘の『婚約しない』発言がきっかけだ。

…さらに元をただせば、ストーカー行為の果ての救出でした、とうそぶいたことに端を発し、令嬢は被害者でしかないが。

俺に疑われるようなことをするやつが悪い。


女神の託宣を受けた巫女なる存在は、女神教の歴史の中でも幾人かいたが眉唾だろう、と。どうせ、何らかの思惑や利益があって演じていただけだと思っていた。

何度も人生を繰り返し、禁則地にて今も残る女神の片鱗に触れた過去がなければ…身をもってその御業みわざを体験しなければ、

『女神』と言う存在が作り話神話の登場人物ではないと、身をもって体験しなければ…『神』はいるのだと実感はしなかっただろう。


だからこそ、女神の託宣たくせんかたる公爵令嬢は、天罰によって早々に滅されると思っていた。

ストーカー紛いの恋情だのなんだの、その場しのぎの言い逃れは、本人が死んでしまえば関係ないと思っていた。


結果として、そうはならなかったので俺は得体の知れない公爵令嬢と婚約する羽目になってしまった。

それも、受け入れた本人が条件として提示したのは『王城に入らぬこと』つまりは俺の婿入りだ。


第2王子であるこの俺を。世界最強の魔術師である俺を。

臣下の位に落とせ、と要求したのだ!!


ゲイルバード公爵家にはすでに後継者の息子がいる。婿に入っても公爵位は継げない。

宰相と言う地位も血統によって受け継ぐ役職ではない。あくまで王に任命されるものだ。


俺になんの利点もない婚約に、娘の父親との繋がり欲しさにあろうことか父は許可を出した。最悪だ…。



夢を通じ何度か苦情を言いに行こうとしたが、なぜか繋がる事ができなかった。


この術式は、情報収集や尋問の手立てとして『夢』と言う無意識に通じる領域に侵入し、嘘偽りない情報を入手する術として編み出したものだ。

大概が1度入れば十分だったため、2度目3度目の使用はした事がなかった。


便利に使っていた術式に意外な落とし穴を発見し、さっさと改良しようと思っていたが、王族としての公務とゲイルバード公爵自らが行う『公爵領の歴史講座婿イビリ』で夏休みの全てが終わってしまった。

公務がありながらも1ヶ月もの長期の休みなど成人してからは滅多には取れない。それを知っているからこそ、学生のうちに下準備や魔力の錬成などをしたかったのに…あの若造が。

たかだか40と少し生きた程度で、たかがいち領地を収めている程度で、合計幾千年を生き、王として国を好きにしてきたこともある…この俺に!!


怒りは全ての起爆剤たり得る。

それに溺れ自分を見失うこともあるが、飼い慣らせばこれ以上にない燃料だ。

公務と『公爵領の歴史講座婿イビリ』の合間、寝る間も惜しんでの術式の改良研究。結果、より深く深層意識に入り込めるようになった。

これで、まだ何か隠しているような令嬢のそれも暴く事ができるはずだ。

公爵領と王都では距離があり使用できないのは、変えられなかった。

距離もそうだが、他にもいくつかある発動条件の完全な排除ができなかったのが心残りだが…まずは対象者への複数回の使用の改良が最優先だ。


数日後、その日の公爵家別邸での『公爵領の歴史講座婿イビリ』の締めに、今後は王城の一室で、と告げられる。

おそらく、明日あたりに令嬢が帰ってくるからだろう。


…そうまでして会わせたくないのか。


一般的に考えれば、双方の学園卒業と成人を待って結婚だ。

令嬢は今年入学したばかりとはいえ、たかが3年の婚約期間。ここで、少しばかりの抵抗で顔を合わせないように画策するのは無駄な努力としか言えない。


しょぼくれ引っ込んだ宰相をやっていた公爵が、意外と辣腕だった事実とそれが損なわれ続けていたことを残念に思っていたが…。

あの親父の友人だけあって公爵も十分に『ガキ』だったとはな。


それにしても、父の友人へ向けたの依存の強さと良い…今回の生は、新しい事実の発見が多いな。知りたくなかったことの方が、今のところは多いが…。

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