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ヒロインの恋路がハッピーエンドで終わることが,世界平和の鍵だけれど

現状,ヒロインが誰かに恋はしていない。

これは照れて誤魔化しているのではなく,本当のことで

ようやく生活の安定した彼女にとっては,そんな余裕はなかったのだと思う。


なので,ここから!!肝心なのは,ここからなのだ。


今から好感度を稼ぎ続ければ,第3王子のノーマルエンドなら狙えるステータスにはなっていると考えている。


これは内容こそ『俺たちの戦いはこれからだ』になるが

ちゃんと王子とは恋仲ではあるし,仕切り直しで猶予が生まれるから

むしろ,今なら最善のエンディングだ。


ただ,もし…もう1人の隠しキャラの攻略が進んでいた場合,

恋路応援!とか言って第3王子をオススメするのは邪魔にしかならない。


その判断を難しくする理由は,この隠しキャラの攻略に関わるのが『ヒロイン以外には見えないナビキャラ』だと言うこと。


ヒロインを観察したとしても,見えない相手と会話してシナリオが進んでいるのか,なんて,確認のしようもない!!


もし隠しキャラとのシナリオが進行中でも,

必ずどこかのタイミングで恋と自覚し悩み,友人ポジションを確実に獲得しているわたしに相談があるはずだ…多分。


ゲーム中にそんなことを相談したりなんて演出なかったけれど,

恋に悩む少女のそばに,何かと助けになってくれる友人がいれば相談するよね??


『友達の話なんだけれどね!?』て言いながら,自身の相談をされた

前世の輝かしき女子高生時代の経験則ではそうなんだけれど…。



その後も続いた追及や,死に戻りループの長年の推察を聞かされ

ようやく王家の紋章入り馬車で帰宅できたのは,日付も変わろうか,という時間になってからだ。


とにかく色々聞かれたが,3歳のときの1回きりの託宣で内容もあれだけ。

彼女である理由までは知らないし,実は違うかも知れないがわたしは感じたままに彼女を助ける。


そう言い続け,納得はしないが『なぜ,わたしが生きているのか』は理解してもらえた。

流石,剣と魔法の異世界ファンタジーな世界だけあって『神さまの言う通り』は,

信憑性は低いが疑い続けるには不遜,と判断されるらしい。


死に戻りループとリリーシアの生存が繋がっている根拠もいが

同じく不可思議な現象である以上お前に対し油断はしない,と

黒っぽい白。白っぽい黒。グレーと結論づけられ解放された。


公爵邸の玄関前にて馬車を降りたわたしを迎えたのは,滂沱の涙を流しながら無事を喜び抱きつく公爵。


『お前の乗った馬車が再び襲撃され,救出されたが意識が戻らず安静にしていると聞いて,生きた心地がしなかった…』


ぎゅうぎゅうに抱きしめられながら,嗚咽まじりに言われて心苦しい。

…息も苦しい。

嘘もあるが,あながち間違いでもなく,かつ!!全てを言っているわけでもない。絶妙な塩梅の言い訳。


「リリーシア嬢が無事であり,傷一つ無くお送りするとお伝えしたはずですよ」


信じてなかったんですか??と胡散臭いニヤケ面でわたしの後に馬車を降りたベイルードは,さも心外です。と態度で語るが,もう全てが胡散臭い。


第2王子の登場に,鼻水垂らす勢いでベショベショに泣いていた公爵は

一瞬で『宰相公爵』の顔をして立ち上がり,

臣下の礼を取りつつも,油断なくベイルードを睨みつける。


『2度に渡り娘をお助けいただき,感謝しております。しかし,なぜいつも第2王子殿下なのでしょうね??』


…あ〜ストレートに聞くな〜。


仮にも公爵なので,腹の探り合いはお得意芸だが,前回の件からベイルードを怪しんでいた公爵は,今回のことでますますその疑いを深くしているのだろう。

よく王城やベイルードの離宮に怒鳴り込んでこなかったな。


バチバチとわかりやすい敵意を乗せて睨む父を,フッと笑いながら


『私がリリーシア嬢をお慕いしているからですよ』と,爆弾を投下し,さっさと馬車に戻ると

『では,リリーシア嬢また学園で』と窓越しに挨拶をし去っていった。


あらかじめ聞かされていた言い訳ではあるが,いざ爆心地の中心に残されるだけに

やっぱり反対しておけば良かった,と完璧に凍りついた公爵を見ながら後悔している。


背後に直絵ていた執事もメイドも硬直したまま,意識も飛びそうに震えている。


やっぱり,この言い訳にすると言われたときに,もっと反対すれば良かった。

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