18

しかし,問題と言うのはてして突然に爆発するものである


…とか,格言ぽく言ってみる。




ヒロインサラがヒロインから転落しかけたのを間一髪で回避したばかり。

それも,様子見しようと後回しにした結果だと分かっているのに,

気をつけなきゃ,と思った直後なのに…同じことを無意識でしてしまっていた。


それに気がついたのは,午後の授業中。フラグの高速回収だ。

これからは,一級フラグ建築士の称号を自主的に名乗らせて貰おう…。


ゲームでは特に言及もされなかったし,

プレイヤーとしては違和感のない『そう言う設定』と受け入れていたから

ヒロインがナビキャラと会話してるとは不思議じゃなかった。


それが,キャラと会話中だろうと戦闘中だろうと気にもしていなかった。


創作というか,見せ物としてのいわゆる『お約束』である

ヒーローやヒロインの変身シーンや名乗り中は攻撃しない,とか

たった一瞬のアイコンタクトに長文モノローグのせるけど

ちゃんと伝わってるとか。


そのキャラにしか聞こえない存在との会話とか,やたらと長いモノローグとか。


『そういうもの』として,他のキャラも特に何も言わないし

変な事とも思われていないんだろう。

…そう軽く考えてしまっていた。


この世界は『悠久の詩ゲーム』の世界ではあるけれど,現実でもあるのだ。


ましてや,ヒロインには前科がある。


たとえ生活に困窮して明日のご飯もままならない生活だったとはいえ,

学生である以上,学びにきている以上,許されざる授業態度をしていたのは事実だ。


今は生活も改善され,授業態度もよくなり,見直され始めていた。


でも『上の空は治らなかった』と,着実に不愉快ポイントは蓄積されていた。


ナビキャラもその辺り考えて発言のタイミング考えるとか,

ヒロインサラも誰かと一緒の時はナビキャラは無視するとか対処すれば良いものを…


確かに,ゲームでは普通に受け答えしてるのわたしも見てるし知ってるけれどさ。

攻略対象の前だろうと,構わず反応したり会話してたの知ってるけどさ!!


残念ながら,ここは現実なのだ。

変身シーンなどはないけれど,戦闘中にモタモタしてれば攻撃されるし,

ターン制のバトルでは無いから,どうしようか悩んでいれば攻撃される。


一瞬のアイコンタクトも,伝えられるのはせいぜい『はい,いいえ』程度。


つくづく,ゲームや物語はエンタメ的に都合よく設定されていて

現実になった時に,矛盾や不都合が浮き彫りになってくると思う。


まぁ,そもそも現実になるなんて想定外だと思うけど!!



今回は,教授からの至極真っ当な叱責,


『最近ようやく勉強に身が入っていると思ったのに』

『やっと真面目になったと思ったのに』

『もっと授業に集中しなさい』


この程度で済んでよかった。


これが貴族の生徒相手だともっと面倒くさくなったし,わたしも下手に庇えない。


『この子,見えないお友達が見えてて会話してるだけなのよ』

なんて言える分けない。色々な意味で。


クラス中に『またアイツかよ』って空気が漂っているけど,これは仕方ない。


仕方ないけれど!!

これ以上,周りの評判と攻略キャラたちからの評価を落とさないよう

放課後のお話し合いは綿密に,しっかりとやる必要がある。


ただ…まぁ,お前のナビキャラ黙らせろとは

火の玉ストレート過ぎて言えないのが悩ましいところ…。


ナビキャラの性格までは思い出せていないので,

叱られて,ひたすら頭を下げるヒロインの横でどんな反応をしているのかは謎だ。


生意気に見えないのを良いことに文句を言っているのか,

申し訳なさそうにしているのか…

ピンク色の毛玉…以上の情報が思い出せない。


ナビだけするキャラではなく,シナリオ的にも重要ってのは思い出せている。

それが,全キャラルート共通なのか特定のルートでなのかも不明。


各授業のチュートリアルはそれぞれの教授がしていたから,

ダンジョンでの戦闘チュートリアル以外は,本当に茶々入れの『ナビ()』だった。



教授からの一通りの叱責が終わり,授業が再開される。

ヒロインへの注意で授業がたびたび中断されるので

勉強熱心な生徒からは嫌厭されるし,マナーに厳しい貴族からも嫌がられる。


システムによるけれど,この『悠久の詩ゲーム』は一度得た好感度が減少しない。


ゲームなら,ね。でも今,現実だから。


視界の端にいる王子とその側近を,ソッと盗み見る。

王子は流石に表情には出ていないけれど,小さくタメ息をついているし

側近の方は眉を顰め,騎士は興味なさそう…。


好感度が!!世界が!!平穏が!!


お願いだから,隠しキャラを攻略中であってくれと願わずにはいられない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る