第54話

「やったぞ!やった!この俺が西城に合格したんだ!」

英が飛び跳ねながら二人に駆け寄ってきた。

「マジか!」

徹也が目を丸くして和人の方を見る。

和人は微笑みながら右の手のひらを挙げ、英を待つ。

英の右手が重なりぱちんと音が鳴った。

「やったな、英。きっと受かると思ってたよ。」

「俺は五分五分だと思っていたんだ。本当に良かった。はあっ・・・。」

英は全身の力が抜けたようにだらんと立ち尽くした。


「それにしても・・・何が『掲示板を見る勇気がない』だよ。」

「俺も何かおかしいとは思っていたんだけど・・・、まんまと一杯食わされたな。」

和人と徹也が英をにらむ。

英がペロッと舌を出した。

「俺の運命のわかれ道だ。自分で確認するに決まってるだろ。」

「で?俺たちの番号は見たのか?」

和人が最も気になっていたことを尋ねた。

「いや、見てない。」

英の返事はそっけない。

「おいおい、それを先に言えよな!」

徹也が血相を変えて駈け出した。

和人も後を追う。

「大丈夫だって。俺が受かったくらいだから。」

二人の後ろから英ののんきな声が聞こえた。


「英、和人にはさっき言ったんだけどさ、俺、西城に行こうと思う。」

和人と徹也の合格を確認し、3人は駅へ向って歩いていた。

「本当か?徹也。」

「ああ、3人とも合格すればそうしようと考えていたんだ。」

「ひゅ~、いいじゃんいいじゃん。今日はなんて素晴らしい日なんだ!」

「でも徹也、部活はどうする?俺たちはサッカー部に決まってるけど。」

和人が尋ねた。

「そうね~きついのはあんまり好きじゃないから文化部志望ってとこかな。」

予想通りの反応に、和人はがっかりした。

徹也の運動神経の良さがもったいないと常々思っていたからだ。

「ん!?」

すると英が急にかん高い声を張り上げた。

二人が英の顔を見る。

「そうだサッカー部だ。徹也が入るのはサッカー部に決まった!」

「まてよ、何を言ってるんだよ。耳が悪くなったのか英。」

「ゴールキーパーだよ。お前の身長と運動神経ならもってこいだ。何でこんなことに今まで気づかなかったんだろう。これで打倒藤学に一歩近づいたぞ!」

英は有頂天になったが、和人は理解に苦しんだ。

「徹也の身長って、俺たちとそう変わらないじゃないか。別にキーパー向きってわけじゃないと思うけど。」

「確かに、今は普通だけど、これからどんどん伸びてくるぞ、高3になったら190センチくらいになるはずだ。」

「そんなばかな。俺の親を見てみろよ、日本人のごく平均的な身長だぜ。」

「でも、間違いなくお前はでかくなる。夢で見たんだ。」

「夢?」

和人が英の言葉ではっとした。

「夢か。夢の中で徹也はサッカー部だったのか?」

「いや、それはわからない。ただ高3のときの徹也はびっくりするほどでかいんだ。」

「夢ってなんだよ、あほらしい。俺はサッカー部には入らないからな。」

あきれ顔の徹也とは対照的に、和人と英の眼は輝いていた。

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