第53話

受験の日と同じく、和人と英と徹也の3人は待ち合わせをして西城高校へ向った。

いよいよ今日は合格発表の日だ。

「なんだか目が怖いな。」

電車の中で和人は英を見て言った。

「昨夜は全く寝付けなくて、朝までマンガを読んでいたんだよ。」

英の両目の下にはくまができていた。

「実は俺も、ふわ~、なかなか眠れなかったんだ。」

徹也の大きなあくびが飛び出した。

「いつもは8時間くらい眠るのに昨日は6時間しか・・・。」

「お前はお子ちゃまか!普段いったい何時に寝てるんだよ。」

英がすかさずつっこみを入れる。

英と徹也の会話は絶妙で、和人はそのやり取りを見ながらいつも笑っていた。

(この3人で会話するのももうちょっとで終わるのかな。それとも高校でも続くだろうか?)

和人は合格発表の掲示板を見るのが楽しみなような怖いような、複雑な気持ちになった。


「なあ、お前たち二人で見に行ってくれないか。」

電車から降り、駅から出た所でつぶやくように英が言った。

和人と徹也が顔を見合わせる。

「いいけど、英は?」

「ここで待ってる。頼む。掲示板を見る勇気がないんだ・・・。」

英の声は力ない。

「いいじゃないか。英は置いてさっさと行こうぜ和人。もうそろそろ貼り出される頃だ。」

徹也は早く見に行きたくてうずうずしている。

英はバス停の椅子に座りこみ、腕を組み下を向いた。

「仕方ないな、じゃあ行こうか。英の番号は1023番だったよな。」

英が下を向いたまま頷き、和人と徹也は英を置いて歩きだした。


「和人、実は俺決めてることがあるんだ。」

「何を?」

「もし俺たち3人が皆合格していたら、俺お前たちと一緒に西城に行くよ。」

和人が驚いて徹也の顔を見る。

「海陽はいいのか?どっちかっていえば海陽の方が第1志望だっただろ?」

「そうなんだけど、和人や英と同じ高校に行けるなら、そっちの方が面白そうだ。」

「ふうん、そうか。じゃあ3人とも合格していればいいな。」

言いながら和人は少し納得がいかなかった。

自分だったらそんなふうには考えない。

高校進学は自分の未来を決める大きな岐路だ。

だから同じ高校に仲のいい友達がいるかどうかなんて大した問題じゃない。


二人が校門の前に着くと、校舎の前に白い大きな紙が貼ってある掲示板が見えた。

そしてその周りにはたくさんの人だかり。

「さあ、運命の一瞬だな。」

徹也の声に和人が頷き、二人はそこに向かって歩き出した。

と、その掲示板の方からこちらに向かって走ってくる中学生がいた。

近づいてくるにつれてはっきりしてくるその顔を確認した和人は、あっけにとられてつぶやいた。

「・・・英?」

徹也も一瞬固まったが、すぐに、「あいつやりやがった!先回りしたんだよ。俺たちを出し抜きやがった。」と一気にまくし立てた。

「でも見てみろよ徹也、英笑ってるぜ。もしかしたら・・・」

「もしかしたのか・・・?」

二人は顔を見合わせた。

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