第46話
和人の乗った自転車は、思ったとおり30分ほどで緑丘駅へ着いた。
といっても、時間が止まっているのだから和人の感覚でしかない。
和人は自転車を止めると、すぐに駅の中へと向かった。
駅の中は多くの人で密集していた。
ちらほらと受験生らしき中学生の姿も見える。
改札口には同級生の女子が二人歩いていた。
「おっ、川口と大野じゃないか、それほど寒くないのに二人ともマフラーなんかしちゃって、おしゃれのつもりか?それに髪型もいつもと違うみたいだし、大変だな女って。」
和人は人に触れないように、かなり遠回りをしながら缶コーヒーが落ちたあたりへ慎重に移動した。
「さて、だいたいこの辺りのはずなんだが、受験票は・・・落ちていないな。」
和人は視線の範囲を徐々に広げていった。
しかし、それらしきものは見当たらない。
「まさかとは思うが・・・。」
和人の目にとまったものは壁際のゴミ箱だった。
近づくとそのゴミ箱は三つに仕切られているのがわかった。
「燃えるゴミ」、「カン」、「ペットボトル」と右から順に蓋に張り紙がしている。
和人が「燃えるゴミ」の蓋を開けてみると、紙くずが箱の3分の1ほど入っていた。
和人は手を箱の中へ入れ、紙くずを少しずつ箱の外に置いていった。
だが残念ながら受験票は見つからなかった。
和人は紙くずをゴミ箱に戻した。
次にカンとペットボトルの蓋も開けてみると、どちらも半分くらい埋まっている。
迷わずそれらをゴミ箱から取り出し空の状態にした。
「無い、か。」
受験票が入っていないのを確認すると、和人はカンとペットボトルを戻した。
「ゴミ箱に入っていないとすると、考えられるのは・・・、誰かが拾って駅員さんに届けたというパターンだな。」
和人は駅員が出入りする事務室の方へ行き、窓から中を覗いた。
だが、デスクの上にはそれらしきものは見えない。
「ここからじゃよく見えない。」
空いている窓から和人はそっと中に入った。
部屋の中には名札をつけた3人の事務員がいる。
だが、3人とも淡々と仕事をしている風で、受験票を預かったような特別な表情はしていない。
机の周りにも部屋のどこにも受験票は見当たらなかった。
「まずい、本当にない・・・。」
後で英がこの駅にきて、途方に暮れる表情をするのが目に見えるようだった。
和人は部屋の外に出て周りを見渡した。
「あきらめるな。どこかに、どこかにきっとあるはずだ。」
両手でほっぺをパンパンと叩き、もう一度床をすべて見直した。
ゴミ箱の下、会社員が切符を買うために床に置いたバッグの下、歩いている人の靴の下に受験票の端がないかというところまで、しっかりと確認した。
だが、やはりどこにも見当たらなかった。
和人は次に改札を抜けて、ホームに行ってみた。
そして、ホームの端から端までくまなく探した。
もしかして、風に吹き飛ばされたかもしれないと思い線路の上にも下りてみた。
だが、しばらく探しても見つからない。
「この駅には本当にないかもしれない・・・。とすると、英の家からここに来るあいだの道か、それともさっき乗った電車の中か。」
和人は天を仰いだ。
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