第45話
「何年振りかな、遊園地に行くなんて。」
「私もよ、大学3年生の時以来だわ。」
30代後半くらいの夫婦が、歩きながら話している。
「私は行ったことないのよね?」
お母さんと手をつないでいる小学校2年生くらいの女の子が、二人を見上げて言った。
「加奈はもちろん初めてよ。楽しみね、いっぱいいろんな乗物に乗ろうね。」
「でも怖いのは絶対に乗らないからね、絶対乗せないでね。」
「お父さんも怖いのは苦手だなあ。ジェットコースターなんかに乗る人の気がしれないよ。」
「え~、怖いからいいんじゃない!ぐるんぐるん回るジェットコースターに私は乗るわよ。」
「お母さんだけ乗ればいいよ。俺は加奈といっしょにお母さんが乗るとこ見てるから。」
やがて3人は緑丘駅へと着いた。
「さて、切符売場はこっちだったな。」
「待ってあなた、加奈に切符を買ってもらおうと思うの。加奈ちゃん、できる?」
「う~ん、できるかな~?」
「大丈夫よ、ほらあそこの販売機にこの千円札を入れて、350円て書いたボタンを2回押すのよ。そうしたら350円の切符が2枚出てくるからね。そして加奈ちゃんの切符は170円よ、170円のボタンを1回押すの。」
「350円を二つと170円を一つね。」
「そしてその後に、販売機の下の方に『おつり』と書いたボタンがあるから、それを押しておつりも持ってきてね。」
「わかった、行ってくる。」
女の子は千円札を受け取ると、販売機の方へはりきって歩きだした。
「頼んだわよ、お母さんたちこの椅子に座って待ってるからね。」
女の子の背中に向かって母が言った。
「大丈夫かな~。」
「大丈夫よ、切符を買うところは何回も見ているから。」
そういうと母は3人掛けの椅子に座り、夫へも座るように目で促した。
娘は10メートルほど先の切符販売機の方へまっすぐに向かい、到着すると迷わず千円札を吸い込み口に入れた。
そして同じボタンを2度押し、違うボタン1度押す。
そこで女の子は両親の方を見てにこっと笑い、出てきた切符をつかむとスカートのポケットに入れ、両親の方へ歩き出した。
だが、母が首をかしげている。
女の子ははっとして販売機に戻り、「おつり」ボタンを押した。
もう一度両親の方を見ると、どちらも首を縦に振り微笑んでいる。
安心して女の子はおつりを握り、それもポケットへ入れもう一度戻り始めた。
だがすぐに床にある何かが気になったらしく、急に立ち止まった。
そして左に3歩ほど歩き、かがんでその何かを右手でつかむと、ばたばたと走ってきた。
「行ってきたよ。ちゃんとできたからね。」
そう言うと女の子はポケットから切符とおつりを出して、母の手のひらに置いた。
「よくできたわね。うん、間違いないわ。さすがにお母さんの子だわ。」
「俺の子でもある。」
「そうね、おつりを取らずに戻りかけたところはお父さんの子らしいわ。でも・・・。」
母親は目を女の子の右手に移した。
「何を拾ったの?」
「何だかわからない物。」
女の子はその何かを母親の目の前に出した。
時が止まったのは、その瞬間だった。
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