第37話
体育館の前に救急車が到着し、すぐに担架が運び込まれた。
そして3名の救急隊員が手際よく桑田を担架に乗せ、救急車へ運び入れる。
「桑田は・・・、桑田は助かりますか?」
英が絞り出すような声で救急隊員に聞いた。
「さあ、それはわからん、医者じゃないからな。先生は?誰か大人はいないのか?」
「いません。先生は遅れてくると言っていました。」
「そうか、じゃあキャプテンは?」
「松永ですが、今ここにはいません。」
「じゃあ、君が病院まで同行してくれるかい?」
「はい。」
「僕もいいですか?」
和人が聞いた。
「もちろんだ。さあ行こう。」
救急隊員は英と和人を救急車に乗せ後部のドアを閉めた。
「止血をしたのは君たちかい?」
桑田の腕をゴムチューブできつく縛っている救急隊員が英と和人に話しかけた。
「英がしました。」
和人が英を指さす。
「タオルできつく締めるのは難しいんだ。このゴムチューブなら簡単だけどね。でも、よく縛っている。しかも足をあげて頭を低くしていた。応急処置は上等だ。・・・誰かに訓練を受けたのかい?」
「保健体育で習ったことがあります。」
「そうか、でも実践できるなんてすごいぞ。おびただしい血を見ると人はひるんでしまうものだが、君は見事に止血した。救急隊員に向いているかもしれないな。」
「はあ。」
英が少し照れたような表情をしたが、すぐに言葉をつづけた。
「桑田は大丈夫でしょうか?」
救急隊員が英の目を見つめて頷く。
「意識はしっかりしている。病院に着くのがよほど遅くならない限り、大丈夫さ。」
「本当ですか?」
和人と英が同時に聞くと、「それもこれも君たちのおかげだ、感謝状ものだぞ。」
と助手席に座っている隊員が振り向きながら言った。
救急車は滝川病院に到着した。
第2体育館を出発してから5分ちょっとしか経っていない。
法定速度を守りながら走ると10分はかかるのだが、救急車はさすがに速かった。
桑田はすぐに手術室に運ばれた。
英と和人も手術室の前に行こうとしたが、救急隊員に呼び止められた。
「患者さんのこととかいろいろと教えてくれないか。調書に書かなきゃならないからね。」
二人は聞かれるままに質問に答えた。
「いろいろとありがとう。これで大体のことはわかったよ。ただ、患者さんの電話番号と通報者だけが不明なんだよな。誰が119番したのか君たち知らないかい?」
「たぶん松永じゃないですか。真先に民家に走って行ったから。」
和人が答えた。
「木へんの松に永久の永で松永君だね。下の名前は?」
「秀樹。優秀の秀に樹木の樹です。」
「そうか、じゃあ後は患者さんの電話番号だけだな。」
その時こちらに向かって走ってくる楠田が見えた。
「今先生が来ました。先生なら分かるかもしれません。」
「そうか、じゃあ先生に聞くとしよう。」
楠田はバタバタと大きな足音を立てながら和人の前に来て止まった。
「橘、桑田はどこだ!」
楠田の額からは汗が噴き出している。
「今手術室に入っています。」
「で、どうなんだ、容体は?」
「たぶん大丈夫じゃないかって、この人が・・・。」
楠田は救急隊員の方を見た。
「どうもすみませんでした、監督不行き届きで・・・。桑田は・・・、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「確証はありませんが、まだ意識がありましたので、大丈夫だろうと思います。」
「はあ~、よかった!」
楠田はへなへなとその場に座り込んだ。
ぜえぜえと肩で息をしている。
「まだ安心はできませんよ、あくまでも私がそう思っただけですから。ところで先生、この二人の生徒さんにいろいろと話を伺ったんですが、患者さんの電話番号がわからないんですよ。」
「それは、学校へ電話すればすぐにわかると思います。教頭先生がいましたから。」
楠田が携帯電話で学校に電話をし始めるのを見て、和人と英は、手術室へ向った。
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