リトライ

第11話

サッカー部の練習は、日に日に厳しくなっていった。

土・日曜日は練習試合が組まれ、対戦相手が見つからないときは高校生とも試合をした。

監督の楠田は、和人の予想通り英をトップ下に決め、他のメンバーとのコンビネーションを色々と試しだした。

そして試せば試すほど、英のポテンシャルが抜きんでていることを、誰もが認めざるを得なかった。

特に実践での動きは、高校生でさえ目を見張るほどだった。

英のポジションは、これまでは右のウイングだった。

足が速くトリッキーな動きで相手ディフェンダーを抜き去り試合中何度もゴールに迫る。

だが、ミスが多かった。

自分の力を過信していたのかもしれない。

それと、疲れやすいということも、ミスを犯す大きな要因だったに違いない。

今の英は、自分の体力のなさを最小限の動きでカバーしているように見えた。

そして周りの選手をうまく使う。

コンビネーションがうまくいかないときは、その選手が納得するまで詳しく説明した。

まさしく”司令塔”。

英の自信あふれる態度と、目を見張るプレーにチームメートは英を一目置くようになった。

それとともに、チームの実力は急上昇した。

これまでは格上と思っていたチームも、互角以上に渡り合えるようになった。

サッカー部が進化したという噂を聞きつけ、練習試合を見にくる緑丘中の生徒もしだいに増えてきた。

誰もが県西部地区対抗戦の日が来るのを、待ち望んでいた。

「英、そろそろあがろうぜ。」

「ん？ああ、和人、先に帰っててくれ。俺はもうちょっと桑田と練習するから。」

桑田は２年生で控えのディフェンダーだ。

その桑田に英は左サイドバックの練習をさせていた。

「ディフェンスの練習だったら、俺もつきあうよ。」

和人が言うと、英は少し考えて顔をしかめた。

「いや、俺一人で十分だ。和人は早く帰って母さんの…。」

「母さんの、何だよ。」

「あ、ほら、おっぱいでもしゃぶってろよ。」

「意味わかんねえ・・・」

和人が少しムッとして部室の方へ向かうと、英がすぐに走ってきた。

「すまん和人、冗談だよ。実はさ、昨日俺の母さんに聞いたんだよ。お前の母さんが具合悪そうにしてたって。」

「えっ？」

「心当たりはないか？俺の母さん急いでたから話しかけれなかったらしいんだけど、とっても具合悪そうにしてたから、病院に行った方がいいんじゃないかって、昨日言ってたぞ。」

「そう。あんまり気付かなかったけど、帰ったらお母さんに聞いてみるよ。」

「そうそう、そういうことで早く帰れよ。じゃあな。」

「あ、ああ、じゃあ。」

和人は英に向かって軽く右手を上げその場を去った。

そして英は、少しの間、和人の後ろ姿をじっと見ていた。