転生魔法師の改造魔法がぶっ飛びすぎな件!〜女神様から貰った《大賢者なりきりセット》と、僕だけが使える能力【魔法改造】が規格外すぎて"魔法神"と呼ばれてます〜

月夜美かぐや

第1話 目覚めまして異世界

 僕の前世は幸せに満ち溢れているものだった。


 一般的な家庭だったが両親にはかなり愛されて育ったし、勉強もスポーツも平均以上。

 艶のある長い黒髪が絹のように美しい、端正な顔立ちの恋人だっていた。


 ではなぜ僕は死んでしまったのか。

 その日、僕は友人と放課後に遊ぶ約束を交わし、荷物を置くため一度自宅へ戻ろうと急いでいた。そしてわざわざ普段通ることのない近道を使っていると、交差点で小さな女の子がトラックに轢かれそうになっている現場に遭遇してしまったのだ。

 当然守るために身を乗り出し少女を押しのけた僕は、代わりに突き飛ばされてしまった。


 真っ赤な血の海がジワっと広がり、手脚の感覚は次第に無くなっていく。視界がボヤけ意識が薄れていく最中、聞いたことのない女性の声だけがハッキリと聞こえてきた。


 ——あなたの行動はとても勇敢で素晴らしいものだったわ。本来私が勝手に手出しをしてはいけない問題なのだけれど、あなたには特別に恩恵ギフトとして【魔法改造】の能力ちからをプレゼントします。あと、《大賢者なりきりセット》をも貸し与えましょう。もし使う必要があると判断した時は《大賢者なりきりセット》と口に出して叫びなさい。新しい世界でも、困ってる人を助ける優しい性格で清く正しく生きなさいね……愛斗まなと


 ……どうしてこの女性ひとは僕の名前を知ってるんだろう? それに恩恵ギフトって何だ? 透き通るような綺麗な声だけど、いきなり魔法だなんて何のこと言ってるのか分からないな。


 くっ……もう体のどの部分も動かせないな。

 咄嗟のことで強く押してしまったけど、女の子は怪我なく無事だったかな?

 父さん、母さん……多分僕はここまでみたいです。ごめんなさい。


 周囲で騒がしかったはずの声も次第に弱くなり、歪んで見えていた世界は真っ暗闇に包まれる。




 ——ここで僕の意識は完全に事切れてしまった。



 ◇



 死んだはずの僕は、ただ眠っていただけかのように目が覚めた。


 何が起こっているのか頭が追いつかないが、これだけはハッキリと分かる。日本では有り得ないレベルで空気が澄んでいる。空気が甘く美味しいと感じる程に。


 ここは森……だろうか?

 水音がすることから、近くに湖もあるのかもしれない。


 状況を確認するため見下ろしてみる。

 服装は黒い長袖のシャツに、黒のズボン、そして黒革のシューズ。自分の服でないのに、僕に合わせて作られたかと錯覚してしまうほど体型にフィットしている。


 まさか……と思ったが、これってやっぱり異世界転生ってやつだよな?

 前世で大人気だったラノベやアニメの中では、数多くの異世界転生が行われていた。

 だからあまり驚きはない。


 どういう因果か分からないけど、せっかくいただけた第二の人生だ。どうせなら思い切り楽しんでやろう!


 そう思った矢先、何やら近くで話し声が聞こえて来た。

 声の荒げ方から予測するに、ただ話しているのとは違うように感じる。


「ちょっと、どういうつもりなの?! あなたは私の護衛でここに来ているのでしょう?」

「イッヒッヒ。最初はそのつもりだったんですけどねぇ。護衛以上にあなたを抹殺した方が、金が入って来るんですよぉ」

「裏切るなんて最低ね。パパとママがあなたを信頼して付けてくれたのよ?」

「そのが間抜けなせいで、お前は死ぬんだよ!」


 どうやら可愛らしい声の少女と野蛮に声を荒げる男が揉めているらしい。

 会話内容からすると状況はかなりまずいっ!


 異世界に転生したばかりで状況も掴めない中、本来であれば身を守る事こそ最優先すべき事項だと頭では分かっている。

 それでも僕には放っておく事が出来なかった。


 ——"助けないと!"


 それだけが脳内で繰り返し再生され、気付けば声のする方へ走り出していた。



「私はこれでも王立魔法学園の試験免除特待生なのよ? 魔法が使えるからあなたになんて負けるはずないわ!」

「ヘヘッ。なら、魔法を使ってみるがいいさ」


 魔法だって?! そう言えば、死ぬ間際に魔法がどうのって聞いたような?


 必死に記憶の糸を手繰り寄せながら走っていると、ようやく声が交わされている現場に辿り着いた。状況把握のため、僕は近くの茂みから様子を伺うことにした。


「大気に宿る精霊よ。私の魔力を糧としてその大いなる風の力を……って、えぇ?!」

「馬鹿め。詠唱なんかしている間に、俺様のナイフが先に突き刺さるぜぇ? アイナさまぁ」


 アイナ様と呼ばれ魔法を発動させようとしているのは、いかにも高貴そうな衣服に身を包んだ美少女。いや美少女という言葉ですら足りなさすぎる。まるで西洋の人形のように完成された顔立ちで、サラリとした金髪と宝石のような輝きを秘めた青い目をしていた。

 その美少女が魔法の詠唱をしている間に、対峙するゲスな男が懐に忍ばせていたナイフを手にして接近したのだった。


「危ないっ!」


 僕の咄嗟の叫び声に、ゲスな男はビクッと一瞬動きを怯ませる。そのお陰でアイナ様を庇うよう、間に割って入ることが出来た。

 ただ、僕は武器どころか何も持っていない。


 ——ナイフの鋭い切先がギラリと光り、眼前に迫り来るッ!


 せっかく転生出来たのに、僕はまた死ぬのか。

 いや、前世では小さな女の子の尊い命を守る事ができた。ここでも高貴で綺麗な美少女を守れるなら本望じゃないだろうか?


 ……いや、もし仮に僕がここで死んでも奴は再びアイナ様のことを狙うに違いない。トラックの時とは違う。ここで立ち向かわないと、守れないんだ!

 守るためにはどうすれば!?


 死の危機に瀕した事で、前世の死に際に聞いた謎の人物の声が頭の中でこだます。


 そう言えば恩恵ギフトを与えるとか。

 名前叫べって……。えっと、確か……。


「——《大賢者なりきりセット》!」


 僕がその言葉を口にすると、黒いローブが出現し、自動的に装着される。


『識別個体名マナトによる声帯反応での正式な認証手続きが受理されました。これより《大賢者なりきりセット》の効果を永続的に付与します。魔力値・魔法威力・消費魔力の全てが神級に設定されます。……特殊スキル【魔法改造】の存在を確認しました。これにより基本魔法100種類全てに加え、基本魔法をベースに改造されたオリジナル魔法の使用が可能です。以上で手続きを終了します。グッドラック、マナト!』


 何だ?! 頭の中で声が聞こえて?!


 同時に体から溢れ出る際限のない何かを感じる。

 状況的にそれがであると理解するのに、1秒もかからなかった。


 粗野な男の握りしめたナイフは刻一刻と迫って来ているが、脳内はクリアで次に何をすべきなのか呼吸をするように判断できる。

 

 僕は視界に投影された【魔法一覧】という題目の元、大量に掲載された各種魔法の名前を確認していく。

 そしてその中から基本防御魔法【魔力障壁】を選択した。


=======================

 ★【魔力障壁】

 ごく一般的な防御魔法の1つで、相手からの物理・魔法による攻撃を遮断する効果を持つらしい。

=======================


 基本的な防御魔法か。

 これだけでは危機回避に足りないかもしれないな。どう考えても攻撃だけでなく、ナイフ自体を無力化してしまった方がいいだろう。


【魔法改造】の力で、《武器破壊》と《反射》の効果を【魔力障壁】へ付与する。


「よし。『魔力障壁・改』発動!」


 右手に込められた魔力をベースに目の前に魔法陣が……そして魔法で造られた壁が出現する。


「はぁ!? むえいしょ……ぐへぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ナイフが壁に触れた瞬間、硬質な金属が一瞬で粉々に破壊される。ゲスな男もダサい悲鳴を上げながら《反射》の効果により後方へ吹っ飛んだ。

 目を回して気絶してしまったようだが、命に別状はなさそうだ。


 ふぅ。上手く魔法が使えて良かった。

 初めてだったけど、【魔法改造】のコツも少しは掴めた気がする。


 安心して息をついていると、アイナ様が後方で何やら話し始めたので僕は振り返ることにした。


「嘘……でしょ? 杖も持たずに無詠唱なんて、あり得ないわ。それに防御魔法なのにあれだけの威力! ねぇ、あなた……まさか伝説の大賢者様なの?!」


 大賢者様!?

 いやいや、僕はただの一般人なんですけど!!


 そんな僕の心の声とは裏腹に、アイナ様は頬を少し紅く染めながら目を爛々と輝かせ、僕の方をジッと見つめるのだった。



 ———————————————————————


【登場人物紹介】


■マナト(15歳)

 白銀髪のショートヘアに綺麗な白銀眼を持つ、転生者。本作の主人公。

 身長175センチで、体格は細身だが引き締まった身体付き。

 女神様から貸し与えられた《大賢者なりきりセット》と恩恵【魔法改造】を武器に、トンデモ魔法をブッパする。

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