17 ゲーム


 俺は数あるソフトの中から一つを選んだ。対戦型アクションゲームだ。一対一で戦い、殴る、体当たりする等で相手を気絶させたら勝ちだ。いわば格ゲーみたいなもん。


「瑞季、これでいいか?」


 瑞季にも確認を取り、ゲームを起動させる。


「白と黒どっちがいい?」


 このゲームはアバターの色を好きな色に選べる。といっても2色だけなのだが。

 瑞季は黒を選びそうと思ったのだが。


「白」


 予想は外れたようだ。


「意外だな、お前が白選ぶなんて」


「べ、別にいいでしょっ」


 顔を逸らされた。


 そして、ゲームを開始した。

「GAME START」という機械の声を筆頭に瑞季のアバターの心臓に体当たりを決めた。


 ***


 何分くらい経っただろうか。

 勝敗数が知りたいかい? 俺は一度も勝ててない。得意ゲームで挑もうと瑞季には敵わない。瑞季はオールジャンル得意なのだ。小さい頃から一度も勝負ごとで勝てた試しがなかった。


「うー負けたー悔しい」


 惜しい所で負けてしまった。瑞季のHPを34に減らせたのに瑞季のスキルで俺の1000あったHPを一気に999減らし、残りのHPは殴られて無くなってしまった。油断させて勝つという計算高い勝ち方だった。完全に油断して殺られた。最初から自分から殴られにいってHPを微妙に減らした所で有効なスキルを使うという見事な圧勝。負けました。どうりで瑞季避けないな、と思ってたんだよな。


「もう一回やる?」


「はい、お願いします」


 何故敬語になっているのかは俺にも分からない。

 まずは瑞季のアバターのみぞおちにタックル! からの~頭にキック!

 それから反射で俺のアバターは飛び上がった。あれ? これからどう着地すればいいんだっけ?

 下を見ると剣を持った傭兵たちが纏まりになって構えている。これは瑞季のアバターではない。瑞季がスキルを使って呼び寄せたのだ。この剣に当たるとHPは削られてしまう。だが、どこかに着地しなければどうしようもない。

 諦めて地面に降り、剣で斬られてしまった。しかし、HPが無くなったわけではない。スキルの有効時間が切れ、傭兵はいなくなった。ここからまた瑞季と俺の殴り合いの攻防が始まる。


「あ! チャンス」


 俺の声に瑞季が反応。だが、怯みはしない。


 瑞季はハンマーを手にした。このハンマーに当たったら間違いなく気絶するだろう。

 瑞季はハンマーを振り回している。俺は隠れみのに入った。さすがの瑞季も入ってこれない。

 ここで休憩してお菓子をつまむ。少しお菓子がカセットについてしまった。それをも気にしないほど、瑞季と俺は集中していた。

 俺は一か八か隠れ蓑から出た。そして、危険はあるが殴られに行き、すんでの所で回避する事にした。


 瑞季は容赦なく、ハンマーで殴りかかろうとする。そんな攻撃をかわし、飛びはねる俺。そうしているうちにもHPは徐々に消耗される。

 だが、チャンスは訪れた。瑞季がハンマーで殴りそうになり、俺がかわした瞬間、瑞季のアバターの体は前屈みになった。


(しょうがないわね)

 瑞季は自分から前屈みになるよう仕向けた。


 そこを俺は瑞季の首を狙い、殴った。そして瑞季は気絶した。


「よっしゃ。勝った、勝った。初めて瑞季に勝った!」


「良かったわね」


 瑞季はあまり悔しそうじゃない。それもそのはず。


(まっ。手加減してあげただけあるわね。でも嬉しそうだからいっか)


 そんな事を瑞季は思っていた。


 俺は勝利を信じていて、呑気に浮かれていた。鼻歌まで歌ってしまう始末。瑞季に勝ちを譲られた事を一瞬裏があるのかと疑ったが、そんな疑いは鈍感な俺には疑い続ける事は出来なかった。細かい事は気にしないように生きてきたから。


「もう一ゲームやる?」


「勝てたからいい」


 俺は一回でも勝てた事に満足でそれ以上の勝利はいらなかった。


「私も疲れた」


「それなら今日はここでやめよっか」


 カセットとソフトを片付け、TVも消した。久しぶりに瑞季と戦ったが、楽しかった。良い息抜きになった。

 瑞季もこの辺で帰るのかな、と思っていたが。


 振り返るといつの間にかラノベを手にして真剣な表情をしていた。まだ描くのか!?


 いきなり瑞季はこんな質問をした。


「イラストレーターに必要なものって何だと思う?」


「えっ――」


 予想してない不意討ちにしばし口をつぐみ、考えた。

 今の瑞季は真剣だ。真剣な質問には真剣に答えなければいけない。


「それは……絵の才能じゃないのか?」


 迷った末に出てきた答えが単純明快なもので申し訳なかった。


「違う。技術、感性、努力よ」


「そうか」


 俺は納得した。


「でもまだ、私にはイラストレーターに必要なものが足りてない。だから上を目指さなきゃいけない。その為に努力する」


「けど、俺から見れば瑞季は充分プロのイラストレーターになれると思――」


「ダメなの! 私はもっと頑張らなきゃいけない」

「――だからっ、理玖にはそばでずっと私を応援してほしい」


「分かった。瑞季の頼みは引き受けるよ」


 俺は大きく頷いた。

 瑞季はようやく荷物を持ち、部屋から出た。それに俺も続く。


 ***


 部屋を出ると良い匂いがした。リビングからだ。


 リビングに入るとそこには兄貴と妹がつっ立って待っていた。


「瑞季お姉ちゃんも食べていっていいよ。瑞季お姉ちゃんの分も作ったから!」


 夕食は妹が作ってくれたようだ。両親は帰りが遅い。


「私はいいよ。お菓子食べたから」


「お菓子だけじゃ栄養足りないよ! 折角作ったんだから食べて? 昔みたいに食べ合いっこしようよ」


 そういえば昔そんな事してたなー。過去の記憶を呼び覚ます。


「わ、分かったよ」


 美桜の強引な誘いに押され、瑞季も一緒に夕食を食べる事になった。


 メニューは白米とオニオンスープと肉とサラダだった。一人でよく作れるなーと妹に感心してしまう。まだ妹は中学生だ。


「オニオンスープ美味しいね」


 瑞季も料理を褒め称える。こんな風に夕食を皆で食べた。


「じゃあ、久しぶりだから自己紹介するね! 理玖お兄ちゃんの妹の美桜みおです。これからもよろしくね」


「僕は理玖の兄の蒼空そらです。理玖のことよろしくな、瑞季」


 美桜はおてんばで明るい。蒼空はクールで物静かで読書好き。そんな二人だ。この二人が家族を明るくしてくれる。頼もしい兄妹だ。時々、この二人の間に挟まれてていいのだろうか、と思う。


「自己紹介しなくても覚えてるよ。一応だけど私は佐渡瑞季。こいつと今年も一緒のクラス」


「えぇーっ。今年もお兄ちゃんと一緒のクラスだったの!? もう付き合ってんじゃん」


 そういえば言ってなかったな。時々、妹の発言が意味分かんない時があるのは気のせいだろうか。


「相変わらずこの家族は美男美女よねー」


 もう瑞季はスルーを決めている。


「うふふ。お兄ちゃんカッコいいし、妹ちゃん可愛い。それに比べて理玖は……」


 昔、蒼空と瑞季が付き合ってたとかなんとか。そういう噂を耳にした事がある。ただ俺は、兄が人たらしなだけだろうな、と気にしていなかった。その後美桜に告白したという噂も聞いた事がある。その真意は定かではない。瑞季は一条家を心から愛してるんだと思う。今後、瑞季の恋愛模様に関わってくるかもしれない。


「ふうーお腹いっぱい。帰る」


 それだけ言って瑞季は席を立った。瑞季と美桜は食べ合いっこも出来た事だし、充分だろう。


 玄関に向かった。

 瑞季が制靴を履く。


「猫カフェ、来週末で倉科さんも誘わない?」


「え――別にいいけど」


 瑞季はどこか寂しげで儚い顔をした。それが何を意味するのか、その時の俺はまだ分からなかった。


「じゃあ、倉科さんにも声掛けてみるよ」


 鈍感な俺は気づかない。


「じゃあまたな」


「ええ。さようなら」


 瑞季が玄関の扉を開けた瞬間、母が扉の前に現れた。


「あっ、お母様」


「あら、瑞季ちゃん。理玖のこと、よろしくね」


 瑞季は笑顔で頷いた。


 その後。


「瑞季ちゃん来てるなら言ってよーご馳走用意したのに。それで、瑞季ちゃんとはどこまで行ったの?」


「瑞季とはそんなんじゃねーよ」


 俺は母の言葉をバッサリと切り捨てた。母や妹たちは完全に瑞季とは良い感じで脈ありだと思っている。



(私は理玖と二人で行きたいのに。何で気づいてくれないの)


 蚊の鳴くような呟きが空気に混ざって消えた。



*あとがき*

4月からは忙しくなるので二日に一回更新すら出来なくなるかもしれません。最悪の場合、週一の不定期更新となります。ご了承下さい。

そして調子良ければ21日(月)の祝日にも更新します。お楽しみに!



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