11 様子のおかしい幼馴染み
お菓子作りの日の2日後。最近、幼馴染みの瑞季の様子がおかしいと感じる。自分から話しかけてこないし、俺が話しかけても「ええ」、「そう」、「うん」くらいの反応しか示さない。何かあると思い、俺は彼女を尾行する事に決めた。
今朝の朝のやりとりがこれだ。
「おはよう」
「おはよう。というかあまり話しかけないでくれるかしら。私、暇じゃないの」
いつもより冷たくないか?
「ええ……」
目すら合わせてやくれない。
昼休み。
瑞季はどこかへ行ってしまった。瑞季は休み時間などの空き時間にどこかへ行く事が多くなった。いつも一人がいいからと休み時間にどこかへ行く事はあったのだが、いつもの倍は行っている状況だ。
これまた尾行をしたら、辿り着いた先はトイレだった。
トイレで食べてるのか!?
誰もお前のこといじめてなんかいないよ。そんな狭くて汚い場所で食べないで、広い所で食べようよ。
と思いきや、弁当箱を抱えてトイレから出てきた。少し暗い顔をして。
俺はすかさず壁に隠れた。どうやらバレていないようだ。
それからまた尾行を続けた。
次に辿り着いたのは中庭だった。
ここでようやく瑞季の足が止まり、ベンチに腰掛けた。弁当箱を開けて、食べ始めた。どうして教室で食べないのだろう。誰かに指示されているとか? それとも俺と同じ空間で食べるのが嫌とか? ひょっとして、俺嫌われてる!?
「ん~美味しい!」
瑞季ってこんな表情もするんだ。一人だと素の自分でいる人、多いもんな。やっぱり俺の心配は杞憂なのか……少し心配が薄れたが、それでも心のしこりは取れなかった。
瑞季に避けられてるのは分かるが、嫌われる言動をした自覚はない。
部活が終わり、瑞季を図書室で待った。いつも来る場所に瑞季が来ない。これはおかしいと感じ、下駄箱へ急いで向かう。すると昇降口を抜けたすぐ左にしゃがみこんだ瑞季がいた。
「瑞季、一緒に帰ろう」
瑞季は少し戸惑った後、
「え、いや、部活あるから」と言った。
「え? 部活はもう終わっただろ」
本当に瑞季大丈夫か? 頭打っておかしくなったんじゃねえか?
「そ、そうね」
「でも今日は帰りたくないの」
「何でだよ」
「帰りたくないの」
答えになってねえ!!
「じゃあ俺、帰るわ。またな」
「うん」
その日は倉科さんとも出会わず、一人寂しく帰った。友達いらないとか言ってたけど、友達が恋しい帰り道だった。
次の日。今日は土曜日だったので、午前で授業は終わる。
朝も全く喋らなかった。
休み時間にまた瑞季が教室から出るので俺は尾行する。
すたすたすた。
一定の距離感を保ち、後をつける。
くるっ。
瑞季がふいに振り向いた。
ただの通行人のふりをする。
(ストーカーされてるのは気づいているのよ。でも、理玖と関わっちゃダメだから。我慢)
これが瑞季の心情だ。
そして、職員室に着いた。気づけば見ると手に大量の書類を抱えていた。何だ、職員室に書類届けに来たのか。行動の一つ一つが怪しいからどうしても疑ってしまう。
これはまさかのパシり? と思ったが気にしない事にした。
「失礼しまーす」
「頼まれてた書類でーす」
相変わらず無気力な声だなぁ。感情がこもっていない。
職員室から出てきた瑞季にとうとう見つかってしまった。
「何してるの? 一条くん」
「一条くん!? お前が苗字呼びするとかキモいし、鳥肌立つからやめろ」
「何よ、失礼ね。名前で呼んじゃダメって言われてるからしょうがないでしょ!」
「誰に言われてるんだよ」
「何でもない。忘れて」
そう言って、瑞季はすたすたと去っていった。これで少なくとも誰かに指示されている事が分かった。
帰るところも尾行する事にした。
校門を抜け、道路沿いを数分歩き、人通りの少ない道に出た。瑞季の家、こっち方面じゃないよな、と思いつつもそれをかき消した。瑞季は生垣の中に入っていった。何で生垣に入るんだよ! 通りづらいじゃんか! 何とか生垣をくぐり抜け、今度は住宅街が現れた。しかも高級住宅街。
そこである異変に気づく。
にゃあん。にゃうーん。
猫の声だ。しかも瑞季の手には猫じゃらしが握られていた。
瑞季はおいでおいでと手招きして猫じゃらしを振る。すると猫は瑞季の方へと近づいてきた。
なんだ。猫探してたのか。飼い猫が見つからなくて元気がなく、猫に「俺の方がカッコいいから幼馴染みのことは名前で呼ぶな。俺のことを名前で呼べ」と言われてたんだな。全てが繋がった気がした。鈍感な俺は身勝手な解釈をしていた。
「よしよし。可愛いー」
瑞季は抱っこしながら、JKらしい高い声で可愛がっていた。こんな瑞季を見るのも初めてだ。普通の女の子に見える。いつもの冷たい感じはない。猫とじゃれあう瑞季をしばらく観察していた。
尾行してバラさないのもどうかと思い、瑞季の側まで駆け寄った。
「あら、一条く……理玖」
ここは学校じゃないから名前で呼べるのだ。
「猫探してたのか。飼い猫が見つかってよかったな。瑞季の異変の原因が分かってよかったよ」
「飼い猫? 私、猫飼ってないわよ」
「え?」
じゃあ必死に猫追わなくてよかったじゃないか。てっきり飼い猫かと思った。
「それなら瑞季の異変は別に原因がある……」
「何の話?」
「お前、俺を数日前から避けてるだろ。それに名前で呼んじゃダメとか。誰かに指示されてるんじゃないか? 隠してる事あるだろ」
「それでもストーカーするのは良くないよ。ストーカーやめて? 警察に通報するわよ」
「教えてくれたらストーカーをやめる。俺が嫌いなら避けていいから、もう話さない。ラノベも貸せない。それでもいいなら避け続けてくれ」
「違うの。理玖が嫌いなわけじゃないの。寧ろ好きな方だし、これからもずっと話してたい」
お? 瑞季がデレたか? と心を踊らせていた。
「でもね、それは叶わないの。
華と凛は瑞季に話しかけてた女子二人組だ。
「……脅迫」
俺は固唾を飲んだ。
「前から思ってたけど、幼馴染みだからって私たち馴れ馴れし過ぎてるし、男女なのに意識せず、普通に話してるし、距離取りたかったから丁度よかったんじゃない? それに理玖は倉科さんの隣の方がお似合いだし。だから、私に構わないで、大丈夫だから」
「距離取りたいなら取ればいい。でも本当は寂しいんだろ? 俺と話したいならその二人のことは無視すればいい。倉科さんは高嶺の花だからお似合いでもないよ。瑞季が強がってるのはバレバレなんだよ!」
長い付き合いなんだから瑞季の気持ちは大抵お見通しだ。強がってるのも大いに伝わる。
「どうしたらいいの……? 私は理玖に嫌われたくなくて。もっと理玖と話したいよ! でも名前で呼んじゃダメって命令されるし。私が冷たすぎるから普通の女の子になれって。もう何がなんだか分からない! 助けてよ、お願い、理玖」
二人で騒いだせいで猫が瑞季の腕の中から離れていった。そのまま、家に入っていった。
「俺も瑞季ともっと話したい。何とかするから、任せて」
瑞季に笑顔が戻った。安心感に包まれたようなそんな笑顔。
俺は小学校の頃の瑞季を思い出した。誰もいない屋上や河川敷で泣いてたりして。屋上から飛び降りようとしたのを引き留めた記憶もある。悩んでる瑞季を助けるのは俺の使命なのだと感じていた。
「帰ろっか、理玖」
「ああ」
瑞季と手を繋いだ。
ふと猫が入った家の表札を見た。
倉科と書かれていた。
「倉科、さん……」
倉科さんの家は豪邸だった。
*あとがき*
・次回更新日は3/6(日)1:00です
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