毎日通ってるパン屋のオドオドしてる地味な店員が実は学校一の美少女だった件

友宮 雲架

1 行きつけのパン屋

 行きつけの店がある。そこは俺がここへ引っ越してくるより前からオープンしている店である。

 店の名前はヤマシタ・ベーカリー。普通のパン屋だ。

 俺はパンが大好きだ。子供の頃から好きでフランスパンが一番好き。サンドイッチやメロンパンも好んで食べる。昼食は毎日パンで、学校でも朝一で買って学校で食べている。


 今日は日曜日。自転車でヤマシタ・ベーカリーまで行って、店の前で今立っている。店に自転車で向かう時のあの爽快感は半端じゃない。前方から風が吹いてとても気持ちいいのだ。夏なんて特に涼しくて良い。


 ヤマシタ・ベーカリーは人通りの少ない道の奥にあり、木に囲まれている。ひっそりと佇む店だ。隠れた名店といった所だろう。

 木製の屋根と柱。こういう雰囲気は落ち着いていて、とても好きだ。この店の殆どが木で出来ている。


 店の前の看板にはCLOSEの文字。


 しばらく待っていると……。


 俺に気づいたのかオーナーらしき女性が近づいてきた。


「今、開けますね」


「あ、ありがとうございます」


 軽く会釈をした。


 店内には既にオーナー以外にも店員さんがいた。


「いらっしゃいませー」


 元気で明るい店員さんや、


「……い、いらっしゃ、いませ」


 オドオドした引っ込み思案な店員さん。


 店員の個性は様々だ。

 このパン屋に通う理由の一つに店員の個性を眺める事も含まれている。人間模様は見ていて楽しいのだ。


 俺は早速、トングとトレイを持ち、パンを取った。全部で5点。ちょっと多すぎたかな、と自分でも思う。当然、フランスパンも取った。一人で食べきれないと思うだろう。だが、俺は食べきれる。自信がある。


「お飲み物は何に致しますか?」


 ここの店は飲み物はセルフサービスではなく、注文する式だ。


 この今、接客してくれている店員さんは明るくてキャピキャピしている方だ。いつもこの店で見かける子。俺より年下かもしれない。


 茶髪の髪をツインテールにしてピンクのリボンで髪をとめている。瞳もピンクで光っていて、肌も白い。体格は体貌痩躯で背も低い。

 声もよく通っていて、店内全体に響く声質だ。

 制服は白いブラウスに黒いブレザー、そしてパン屋の被り物をしている。制服もシンプルで可愛らしい。


 俺はそんな彼女の存在は元気にしてくれて、好感が持てた。


「ブラックのアイスコーヒーでお願いします」


「今日も気取ってるねー。気障な感じ」


 気取ってるわけじゃないんだが。ただ、ブラックが好きというだけで。いつもブラックを頼むから店員さんも飽きてきているのだろう。


 俺は席に着き、パンを口にした。まずはあんパンからだ。あんこの、この噛みごたえと甘さが絶妙だった。その後もパンを食べ、最後に残ったのはフランスパンだけとなった。パンとコーヒーを交互に口にすると、それまた良い。朝だから眠気も吹っ飛ぶ。

 フランスパンは好きだから最後に残した。

 それではいただきますか。


 はむっ。


 良い。この噛みちぎるのに苦労する食感も良い。塩のしょっぱさが絶妙に利いている。


 今までで一番良いのでは? と毎回思うが毎回の事である。それが純粋な感想なのだ。


 しょっぱいフランスパンを食べた後にブラックコーヒーを頂くというのも、美味しかった。


 一言で言えば解ける。


 そんな美味さだった。


 この時間がずっと続けばいいのに。と思うがそうは言ってられない。


 窓から見える景色を堪能した。新緑の木々が青々としているのが目に入った。その次に黄色い鳥が鳴き声を上げながら飛んでいく。綺麗だなぁ、と思った。空も快晴で心地よい。


 ゆっくりしてから席を立った。

 トレイを使用済みトレイ置き場に置き、今日のヤマシタ・ベーカリー活動は終わった。


 後は会計だけだ。


 会計を担当している方はまた別の方だ。この方もいつもの子だ。


 ストレートな黒髪を三つ編みにして、丸い眼鏡を掛けた少し地味な子。体格は少し痩せていて背は高め。瞳は黒色で透き通った目をしている。肌も白く透き通っていて、清楚な感じだ。

 ただ、ちょっと暗いのが難点だった。


 引っ込み思案でオドオドした性格。頑張って! と思わず応援したくなる。


「お会計はっ2100円で、すっ」


 噛み噛みだが良しとしよう。そんな様子が見ていて可愛い。


 彼女は頬を赤らめて俯いていた。

 下を向いていて相手が緊張するもんだからこっちまでそわそわしてしまう。


「はい、お金」

「今日も美味しかったですよ」


「あ、ありがとっ。ございますっ」


 彼女に礼を言われてつい嬉しくなった。緊張しながらも頑張っている。そんな姿が健気だなぁ、と思うのだった。


 ふと、名札が見えた。


 そこには倉科くらしなの文字。

 倉科さんか……。どこかで聞いた事あるような。年は同じくらいだろうな。その時は深く考えなかった。


「ま、またっ、いらしてっ、下さいっ」


「分かりました」


 俺がそういうと小さく手を振ってくれた。


 今日も彼女たち頑張ってたなー。俺も頑張らないと。また来たら彼女たちに会えるかな。


 そんな楽しみを胸に自転車で家へと帰った。美味しい物を食べた後の下り坂を自転車で下る爽快感は最高だ。


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