学窮都市のボーダーライン「物理学系ターム集」

十夜永ソフィア零

アトラの人々のタームたち

第1話 ベッケンシュタイン球の有限情報定理

 ブラックホールの熱力学特性を表現する、抽象度の高いエントロピー理論を構築した物理学者ヤコブ・ベッケンシュタイン。宇宙規模の事象に適用されることの多いものの、彼のベッケンシュタイン不等式は「有限の領域」が持ちうる情報量について一般式である。

 ベッケンシュタイン境界内の「有限の領域」に格納できる情報値の最大値を示す本不等式は、教科書的には、人の脳とベッケンシュタイン球とを用いて解説されることが多い。

 例えば、(アルバート・アインシュタインの脳のように)1.23キログラム程度の重さを持つ人の脳についてのベッケンシュタイン境界の持つ最大情報量は、(密度を加味して)半径6.6cm程度の球体の持つ最大情報量と同等とされる。同様に、ある体積を持つ有限領域の最大情報量は同等の体積を持つ球(すなわち、ベッケンシュタイン球)の最大情報量に等しいとして計算される。


 (表現は難解ながらも)当然の内容を示しているように思われる、ベッケンシュタイン不等式。だが、異能を究めることを目指す学窮都市アトラの人々は、この不等式を、世界の「理」ことわりを超えるにあたっての大きな壁と捉えている。

 


 

 

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