155話 閑話 王なんて嫌だ
バンパ・ブナイツケ side
バンパ王国の王はハズレくじだろう。何故なら血統としての正当性は崩され、近衛騎士団は壊滅(殲滅されて生き残りはいない)し、ほぼ全ての貴族が当主か、当主の直系家族を失った。王城も大ダメージを受け、貴族街は更地である。
人的、経済的損失は計り知れず、復讐しようという気概が、何とか立て直そうする原動力となっている。
しかしシバル王国もダンジョンマスターも、バンパ王国を吸収する余力はない。傀儡化して支配するにも人員も足りない。バンパ王国が崩壊して戦乱になるより現状維持し力を蓄える方が彼らの利益になるために、バンパ王国は見逃され、放置されたにすぎない。
いつでもバンパ王国を崩壊させられるのだから、楯突くか吸収出来る余力が生まれたときに対処すればいい。
吸血種の利益を考えればシバル王国の属国となり、国家だけでも維持すべきだが、特に支配層の貴族が復讐戦争一択なのだ。
家族と家臣を失った心情は理解するが、それでは国が滅びる。
貴族を抑えるのが仕事の国王。しかも人材難の状況、やりたくない。それでも執務室で書類に目をとおす。
「なぁ今すぐ息子に王位譲れないかな?」
メイドに聞いてみる。宰相に成れそうな人材は・・・死んでる。手加減をして欲しかった。
「私に聞かれてましても困りますが、赤ちゃんに王は難しい気がしますけど、もしかして天才なのでしょうか?」
「普通の赤ちゃんだし無理だろなぁ、はぁ、この後の予定してると、息子と孫を殺されて隠居してたのに公爵家当主に戻った老人と話したく無かっただけだ」
つまりは、会談を赤ちゃんに押し付けたいほど嫌なのだ。誰が息子と孫を殺された祖父と好き好んで話したいのか?復讐すって言い出したら止めないといけないのだぞ?最悪だ。
「心中お察しします」
コンコン、「陛下公爵閣下をご案内しました」ノックと共に嫌な来客買った知らせられる。
「通せ」
ガチャリと扉がメイドによりドアが開けられ、白髪の老けた男が入室する。年齢と衰えを感じさせるが目だけは老けていない。おそらく貴族として、政治家の頭脳は健在だろう。
「陛下は忙しそうですな。もう少し部下に任せなければ潰れますぞ」
積まれた書類を見てありがたいアドバイスをいただく。
「任せられるヤツは任せた残りだ。全く決済権限のある法位貴族は念入りに殺されてたんだ」
厳密にはそういう貴族は、ダンジョンマスターに国力を見せつけるために晩餐会に参加していた。そして参加者は抹殺対象だったのだ。
「ご愁傷様ですな。それなら仕方ないとして、これからどうするおつもりで?まさか報復などをやる気ですかな?」
「おいおい、もう王家にそんな力は残ってない。下手に手出しは出来んな」
「ふむ、なるほど陛下も青いですな。今回の事はセルファナスの血統は別として、ダンジョンに手を出せば危険なことくらい隠居していた我でもわかる事、現役の者達の判断ミス以外にすぎない。ならば軌道修正するのが当たり前でしょう」
「おいおい、なぜそこまで分かる?」
「ダンジョンマスターとの婚約交渉でシバル王国は自分たちの子飼いの貴族と結婚させれば良かったのだ。なぜしない?少なくともバンパ王国に対して時間稼ぎはできたはずだ。結論はあの強権的なシバル王家でもダンジョンマスターには手が出せない。最低でもシバル王国に反撃手段があり、高ランクの冒険者さえ跳ね返せる武力なのだろうことくらい予想が付く」
「なるほどな。そりゃそうだ。あの戦力で地の利があるダンジョンでも待ち構えられて、Aランクの冒険者に攻略は不可能だろうしSランクは魔王との前線、シバル王国としては下手に出るしかないか」
「おおかた、バンパ王国の圧力に屈したシバル王国がダンジョンマスターに泣きついた結果だろうよ。その程度の理由で大国の王都を破壊するダンジョンマスターと、事実上ダンジョンマスターの配下にあるシバル王国に報復などありえん」
「その通りだが、いたく孫を大切にしていた人とは思えな」
「ふん、孫を殺したのは愚息よ。一線を超えた強さを持つ者を配下にするなど不可能だ。手懐けられたら御の字だろうよ。それすら分からん阿呆だったのだ。ここまで腹を割ったのだ。陛下の本音を聞かせて貰えますな?」
「ありがたい。ダンジョンマスターと会談した。そこから分かる人物像は、身内を非常に大切にするがその他は路傍の石程も価値がない。こんなやつに関わっても碌な事にならん。ダンジョンマスターのお気に入りのシバル王国にご機嫌とりをするのがベストだ」
「ふむ、そんなところでしょうな。では国内のアホな貴族共の根回しくらいはやろう。これ以上、ダンジョンマスターに殺されては公爵家、バンパ王国の存続が出来なくなる」
それどころじゃないんだよ。王家の視点だとさ。属国化されるのは確定、正直国内統制が出来るかどうかの瀬戸際だぞ?正統なる血統が存在してる以上王家が君臨出来るかも怪しいしな。
「これ以上の争いは吸血種が国家を持たない民に戻る可能性が出てくる。それだけは阻止せねばならん」
「ほぉ、そこまで理解があるのか。本格的に老体に鞭打たねばならないようだな」
「全くここで試してくるとは恐れ入りましたよ。宰相でもくれてやりますよ」
「そんな激務いらん。損しかないではないか」
「はぁ、やっぱり息子に王位を早く譲りたい」
「復興中に生まれたばかりの赤子に何を押し付けるつもりだ?お前にはまだ残された孫のためにこの国を立て直して貰わねばならんのだぞ?」
「ここで睨むとは恐ろしい。やる事はやりますよ。何せシバル王国に留学して帰ってくるまでは、息子に王位を譲る事も許されないしな」
「ならば良い。次はせいぜい愚痴を言える時間くらい作るのだな」
そう言って公爵は退室した。叔父に当たる人物で孫バカだがどうやら俺の数少ない味方に成ってくれるらしい。俺のグチを聞くメンタルケアまでやる気とは、孫バカも極めると役に立つものだ。
ところでその残された唯一の孫は女の子だよな?生後2ヶ月で・・・次期公爵家当主はその女の子にする気か?まぁ気にしないでおこう。長生きしてくれよ5歳の公爵家当主とか嫌なんだ、もしそうなったら頑張れその時のバンパ王!!たぶん俺だけどさ。
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