第3話 繋がる心

「大変ダスー! えらい強か魔獣が現れたダスー!」


 田舎っぺ魔法少女として日々戦っている花子ちゃん。だけど今日の相手は強敵にゃ。豚の姿をした全長百メートルはある、超巨大魔獣ニャ。

 普段現れる魔獣はせいぜい二十メートルくらいなのに、デカすぎ。そして大きければ強いと言うことで、花子ちゃんは大ピンチに陥ってるニャ。


「花子ちゃん、ここは一旦逃げるにゃ。幸い魔獣の進行方向には山があるだけだから、まだ被害は少なくてすむニャ」


 体勢を立て直して、改めて挑もう。そう思ったんだけど。花子ちゃんは首を横に振ったニャ。


「それはできねえ。実はあの山の奥には、オラの生まれ育った村があるだよ」

「ニャ、ニャんだって⁉」

「村にはおっ父もおっ母も、山本のじっちゃんも田中のばあちゃんも暮らしてる。見捨ててはおけねえ。つーわけで、行ってくるだ!」


 言うや否や、花子ちゃんは鍬―—もとい魔法の杖を振り回して巨大魔獣に挑んだけど、やっぱり歯が立たないニャ。


「ちくしょう、勝てねえだ。ニャンコの先生、何か良い手はねえだか?」

「あ、有るには有るニャ。ほら、いつか言ってた、皆の応援を力に変える力。アレを使えば強くなれるニャ。でもダメニャ、花子ちゃんの人気は未だ全然ニャんだもん」


 試しにツイッターで『田舎っぺ魔法少女』でエゴサしてみても、出てくるのは『ダサすぎ』とか『草』とかばかり。頑張れなんて応援の言葉は、見つからないニャ。

 これじゃあ応援を力に変えるなんて無理ニャ!


 ああ、そんな事を言ってる間に、魔獣はどんどん歩いて行っちゃうニャ。どうしよう、このままだと花子ちゃんの故郷が————


「……ニャンコの先生、お願いがあるだ。オラの声を、世界中の皆の届けることはできないだか?」

「世界中の皆に声? まあユーチューブにライブ投稿すればできるけど」

「魔法でテレパシーみたいに語りかけるんじゃないんダスな。まあよか。先生、それをやってけれ」


 何をするつもりか分からないけど、了解ニャ。

 カメラをセットして、準備完了。花子ちゃん、いつでもいいニャよ。


「あー、あー、地球の皆、オラは田舎っぺ魔法少女ダス。聞こえているダスかー?」


 大丈夫、ちゃんと聞こえているニャ。

 魔獣が暴れていて、それと戦っている魔法少女の配信ニャんだもの。人気は無くても関心自体はあるのか、ライブ中継を始めた途端に『なんだこりゃ』、『魔獣をほったらかしにして、何やってんだ?』等のコメントが来たニャ。


「みんなお願げーだ、オラに力を貸してくれ! オラ、故郷の村を守りたいだよ!」


 カメラに向かって、頭を下げる花子ちゃん。いや、頭を下げるなんてもんじゃない。土下座までしはじめたニャ。


「結局大事なのは自分の村かって、思う人もいるかも知んねー。勝手なことを言ってるってのは分かってるだ。けどそれでも、オラは村を守りてーんだ。何もねー村だなんて言われてっけど、あっこにはお世話になって人がたくさんいるだ。オラが都会さ出る時、しっかりやってこいって言ってくれた人達が。皆で一緒に耕した畑や、釣りをしてた川もある。そんな思いでの場所を、壊されたくねーだよ!」


 カメラに向かって、花子ちゃんは語る。すると、どんどん視聴数は増えていくニャ。


「いや、オラの村だけじゃねえ。このまま魔獣を放っておいたら、被害は増す一方だ。皆にはねえだか? 守りたい人が、場所が、想い出が? オラはそれを、守りたいんダス。 オラの力だけで何とかできたら良かったんだけんど、不甲斐ねえ魔法少女ですまねえ。けど皆が応援してくれたら、オラは元気になれる。また戦える。あのでっけえ魔獣をやっつけるって約束する。だから頼む!」


 花子ちゃん、自分や皆の大切なものを守るためにこんなに必死になって。ボク、なんだか泣けてきたニャ。

 

 すると動画を見ている人達にも気持ちが伝わったのか、見ればコメント欄には、『頭を上げて』、『頑張って田舎っぺ魔法少女!』と、応援する声が届きはじめたニャ。

 さらにはいつの間にか、動画はツイッターにも拡散されていて、田舎っぺ魔法少女がトレンド入りしてるニャ。

 これは、これはもしかすると。


 ボクが期待に胸を膨らませていると、花子ちゃんは立ち上がって、天に向かって両手を大きく広げたニャ。


「地球のみんなー! オラに元気さ分けてけろー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る