田舎っぺ魔法少女と、愉快な仲間達。

無月弟(無月蒼)

第1話 爆誕! 田舎っぺ魔法少女

「キャー!」

「た、助けてくれー!」


 町は悲鳴をあげながら逃げる人で溢れている。


 いったい何から逃げているのかって? 

 あれニャ。20メートルくらいある巨大な怪物が、町を破壊しているニャ。

 あれは地球侵略を目論む宇宙人の軍団、シンリャークの兵器、『魔獣』ニャ。


 え、さっきからニャーニャー言ってるボクは誰かって?

 よく聞いてくれましたニャ。ボクはシンリャークの魔の手から地球を守るため、遠く離れたニャンダフル星から来た宇宙人だニャ。

 宇宙人と言っても、姿は猫ニャんだけどね。ラブリーな喋る猫ニャ。


 地球を守るために来たのなら、さっさと魔獣をやっつけろって? それがそうもいかないニャ。

 実はボク自身が戦うわけじゃなくて、ここ地球でスカウトした女の子に戦う力を与え、魔法少女になってもらうんだニャ。魔法少女が杖を振りながら戦う姿は、きっととっても可愛いニャ。

 だと言うのに。


「そこのお姉さん、魔法少女になってくださいニャ」

「何よあんた。今それどころじゃないの。逃げなきゃ!」

「それじゃあそっちのお姉さん、魔法少女に……」

「魔法少女ってアレでしょ。契約したら代償に、命だの大切な物だのを失うってやつ。マジ無理だから!」


 ああ、行っちゃったニャ。

 最近は殺伐としたアニメの影響で、魔法少女と言うと鬱展開をイメージする人が多くて困るニャ。

 別に大切な物なんて失くさないし、普通に力を与えて戦ってもらうだけニャのに。


 うーん、このまま誰も契約してくれなかったら魔獣を止められない。どうしたらいいニャ……はっ!


 今唐突に、強い魔力の波動を感じたニャ。この魔力を持つ人こそ、魔法少女に相応しいはず。問題の魔力の持ち主は……あ、いたニャ!


 どこかの学校の制服と思しきブレザーを着た女の子の、後ろ姿をとらえたニャ。

 絶対にあの子に魔法少女になってもらうニャ!


「すみませーん、そこのお姉さーん! ボクと契約して、魔法少女になってほしいニャー!」


 力一杯声を出してお願いしてみる。すると制服姿の女の子が、クルリと振り返ったニャ。

 だけど。


「ええー! オラが魔法少女ダスかー!?」


 振り返ったのはサザエさんみたいな髪型をした……何と言うか、芋っぽい女の子だったニャ。


「本当ダスか? 本当にオラが、魔法少女になれるんダスか?」

「え、ええ、まあ。君はかなり強い魔力を持っているから、きっといい魔法少女になれると思うんだけど。けど良いのかニャ? みんな魔法少女になるって聞くと、騙されて怖い契約を結ばされるって、警戒してるんだニャ」

「なんでえ、んなことか。大丈夫だ、アンタは悪い奴じゃねえって、目を見りゃ分かるだよ。何より困ってる人を放っておいたらダメだって、おっかあやおっとおも言っとった」


 お、おお。これは中々の好感触。

 言葉の訛りが強いのと、顔が少々芋っぽいのが気になるけど、まあ良いニャ。


「君、名前は何ニャ?」

「オラは花子って言うだ」

「それじゃあ花子ちゃんこれ、魔法の石ニャ。これに強く願えば、変身できるニャ」

「よーし、やってみるだ。魔法少女……変身!」


 花子ちゃんはビュンと斜めに伸ばした手を回転させながら「変身」と言う、どちらかと言えばバイクに乗った仮面のヒーローがやりそうな変身ポーズを取る。


 魔法少女に変身すると、着ている服がその人の深層心理が反映されたコスチュームに変わるニャ。

 そして花子ちゃんの、変身後の姿はというと。


「ニャ、ニャんだこれは!?」


 変身した花子ちゃんは、もんぺを着て頭にほっかむりを巻いた、農作業をしている田舎のおっ母さんと言った格好だったニャ。

 さっきは制服を着ていたから、たぶん花子ちゃんは十代なんだろうけど、なんだか30歳くらい老けたようにも見える。魔法少女というよりは、オバサンといった印象を受けるであろうダサダサの姿。だと言うのに本人は。


「うわー、スゲーだ。この格好してると、不思議と落ち着いてくるだ」


 何故かご満悦の様子。確かにある意味似合ってはいるけど、魔法少女感はゼロ。

 これで良いのかニャ?


「と、とりあえず魔獣と戦うニャ。大丈夫、ボクの言う通りにすれば、きっと勝てるニャ」

「お願いしますだ、ニャンコの先生」

「それじゃあまずは杖を出すニャ。念じれば出てくるニャ」

「わかっただ……ふんっ!」


 花子ちゃんが気合いを入れた瞬間、彼女の手には鋭くて立派なくわが握られていた。


「って、なんで鍬ニャ!? いや、きっとコスチュームと同じで、花子ちゃんの深層心理が影響したんだろうけど、鍬って」

「へー、これがオラの魔法の杖ダスか。そんじゃあこれで、魔獣をやっつければ良いんダスな!」


 言うや否や、花子ちゃんは魔法少女特有の高い身体能力で、十数メートルはある魔獣の頭にジャンプ。

 そして自慢の鍬―—もとい魔法の杖で、まるで畑を耕すように魔獣の頭をザックザックと攻撃していったニャ。

 あ、更には種を植えて肥料を巻いて水をかけてと、本当に畑仕事をしているよう。魔獣の頭の上で、いったい何をやっているんだニャ。


 しかし行動は意味不明でも、頭を畑のように耕されたもんだから、魔獣も痛いに決まってるニャ。

 頭に何度も鍬をぶっ刺されて、耐えられずに「ギャー」っと悲鳴を上げてバタンキュー。

 一応、やっつけたって事で良いのかニャ?


 そして一仕事終えた花子ちゃんは手拭いで汗を拭いながら、満足そうに戻ってきたニャ。


「ふう、やっつけたダス」

「無茶苦茶ニャ! 魔獣をやっつけられたのは良かったけど、こんなんで大丈夫なのかニャー!?」


 そんなボクの心配なんてお構い無しに、この日の夕方には超ダサい魔法少女が誕生したというニュースが報じられたニャ。


 そして変身した花子ちゃんに、『田舎っぺ魔法少女』という名称が付けられたのは、それから少し経ってからの事だったニャ。

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