第7話「凍てつく銀星の叛徒」前編
第七話「凍てつく銀星の叛徒」前編
――
それに心当たりが在るとすれば、それは一昨年から進めていた我が社の新規開発事業、”
優に千を超える多様な連結子会社を保有する我が”A・K・Mフューチャーズ”ではあるが、欧米を席巻する我が社でも、ことアジア全域ではまだまだ影響力は限定的である。
だからこそアジア市場に確固たる拠点を築くべく……
とまぁ、そんな感じで進めてきた計画で昨今は特に日本市場に注力していた。
数々の特許技術や企業資産を保有する日本企業をなんとか傘下に収めようと動いていたが、そこは閉鎖的で有名な日本企業、外資による参入を同業種の企業同士がガッチリ手を組んで阻み、そこに政府までもが介入するという護送船団ぶりだった。
自国産業の技術流出とその既得権益を守るために、本来なら
未だに暗に経済鎖国政策を是とする日本、
自由競争が日常である欧米ではちょっと考えられない。
とはいえ、
”はい、そうですか”と黙って諦めるはずもない。
結果、中々に苦労を強いられた我が”A・K・Mフューチャーズ”ではあったが、やっとの事で日本の中枢とも言える”十大財閥”の一つであり、グループ全体の業績不振が長引く
その手始めが”
「この段階になって率先して我が社に協力して頂けると?……つまりそれは」
立派な応接室に通された俺は、目前に座る老人に問う。
細面にギョロリと奥まった両眼、枯れた皮膚感……
総白髭の長髪を後頭部で結わえた老人は、咽まで伸びる髭を蓄えていた。
「左様、”
――まるで”研ぎ澄まされた
老齢に似合わぬ眼光の鋭さや実際の肉体年齢からは考えられないほどの覇気を纏った人物の堂々たる風格は、時代後れの”侍”とも言える圧倒的存在感だった。
――
日本経済界を牛耳る”十大財閥”の一角を統べし、この国の重鎮中の重鎮である。
その
「…………」
俺はこの時点で真逆に方向転換を提案してきた老将の思惑を無言で推し量っていた。
「うむ、そこでじゃ……その為にも、貴君には”他の雑音”の対応を任せたい」
――”他の雑音”
つまりは昨日までの同士である日本の企業連合……
”十大財閥”を裏切ることによる数々の報復処置を全て俺の”
「それは穏やかでないですね」
「大層なことではあるまい、貴君が得られる釣果に比肩せぬ雑事であろう」
――ちっ、俺はアンタの防波堤かよ!?
と、
なるほど、確かに都合の良い話では在るがビジネスの世界ではよくある話でもある。
――しかし
「その件に関しては
――勿論、俺も解っている
これは政略結婚に類するモノ……
もっと”あけすけ”に言うならば、俺が彼女に憧れていたという過去を利用した
俺はチラリと意識を俺の横に座る美少女に移動させて見るが、
「…………」
輝く”
――自分が”貢ぎ物”の如くに扱われていると言うのに……
この少女はまったく平常心で、その様子は本当に人形の様だ。
ここまで来れば逆に感嘆に値すると、俺は半ば呆れながらに話を続けた。
「先程、会長が提案されたビジネスの話は兎も角、彼女の、つまり、こう言う時代錯誤的な手法はあまり感心できないというか……」
「心得ておるなっ!」
――!?
俺の言葉を遮り一喝する老人の鋭い視線の先は当然……
雷鳴の如き老将の一喝にも全く動じる事の無い所作で、美少女はすっとその場で立ち上がる。
「勿論です、会長」
白い清楚なリボンに装われた艶のある美しい黒髪ロングヘアーが静かに揺れ、美術品の域まで完成された
「うむ……」
そして、そんな従順な少女を視界に収め、満足げに頷いた老人が
「
「っ!?」
そのまま、従順であった姿勢のままで、
蕩々と言葉を発する美少女に老将……
「あの様な”若輩”がそれほどの成功を収めた影には、世界市場の数パーセントもの資産を握るという中東小国の元王族であった故人、アイハム・クトゥブ・マフディの影があるという
「なっ!?
祖父で会長たる者の一喝にも
「
我が孫娘、
そう確信して
「……」
――まあ、こうなるだろうなぁ
そして”
「
そして――
狼狽を隠せない
「……」
儚い立場で在るはずの美少女は、美しい
第七話「凍てつく銀星の叛徒」前編 END
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