第4話「刃の下に心……」前編
第四話「刃の下に心……」前編
俺は帰国にあたり、人手に渡っていた元々の生家を買い戻した。
ちょっとした天然芝の日本庭園に木造の母屋と渡り廊下を通じての離れが三棟、それと別棟の小さい道場
昔は家族四人と奉公人五名で暮らしていた屋敷だが、今回俺はひとりで住む予定なのと手放してから暫く人が住んでいなかったため少しばかり傷んでいたのとで、結構大がかりな改修になってしまった。
「結局、引っ越しできたのは一週間ほど前だったなぁ……」
カララ……
俺は居間から庭に向けた縁側の掃き出し窓を空け、部屋の空気を入れ換えながら独り呟いた。
「
俺が通う
「……」
――帰国後の忙しさに
「あ、大丈夫です、エプロンは持参致しましたので」
日本屈指の旧家である
「それから
「……うんうん」
――腰まである輝く黒髪を清楚な白いリボンで装った純潔の美少女とはなんて良いものなんだ!一家に一つは装備すべき逸品であるなぁ……
――いやいやいやいやっ!?そうじゃ無いっ!
――そう!”独り暮らしっ”!!
「
俺の記憶が確かならば、今朝の登校時まで俺は”独り暮らし”だったはずだ。
それが何故か?帰宅後には全国男子高校生の憧れ!黒髪超美少女となし崩し的同棲とかっ!
”
「わ、悪いが
俺は気持ちを強く持ち、自らの”
「……………………そうですね、わかりました」
――おおっ!!解ってくれたか!?
正直、彼女とは色々誤解も含めて行き違いのままだったから交渉は難航すると思っていたが……言ってみるもんだなぁ!
「では、私は門の外で野宿致しますので……」
「
彼女の決意はコンクリートよりも固いようだった。
――うう……
――
―
擦った揉んだの”お嬢様襲来”という散々な一日がやっと終わりを告げ行く放課後。
帰宅の途につく
「……」
前の方は英国社製で”Rが二つ”の
そしてその後ろにベタ付けした国産の方は……
確か”日本帝室”も御用達のT社製”セン○ュリー”だったろうか?
いや、車種なんてこの際どうでも良い!
重要なのは、この学校で俺以外に車通学なんて身分の生徒は……
「……」
――凄く嫌な予感しかしない
「これで全てでしょうか?」
バタン!
そこでは――
二台の車の中央付近で佇むだけでも絵になる美少女に、俺のよく知る運転士の男がペコペコしながらキャリーバッグ二つ分くらいの荷物をせっせとトランクに載せていた。
「あ、
そしてその運転士は、
「いや……
「ささ、お嬢様もどうぞ!!」
俺の問いをさらりと笑顔で受け流した男は、そのまま佇んでいた美少女も我が英国製車の後部座席へと案内していた。
「だ・か・らぁ、
――この運転士の男は、
俺が海外で過ごしていた頃からの専属運転士で、秘書の
真面目で忠誠心が厚く、細かいことに気が利く、上司である俺を盲目的と言えるほど尊敬しているという、どこかの毒舌秘書とは大違いの実に部下らしい部下である。
「大丈夫ですよ、
――ちょぉーーうぅ気が利くねぇぇ!!くそっ!!
俺は悪意の全く無い善人に何を言ってもしょうが無いと、俺が車に乗り込むのをドアの傍で待つ美少女に歩み寄った。
「ええと、
「はい、本日よりお世話をお掛けします」
――うん、実に良い笑顔だ!ついさっきではあるが、屋上以来の笑顔が変わらず美々しいっ!
「じゃなくてっ!!どこをどうしたら俺とキミが……」
「車で運びきれない私物は後日配送で届くと、
――確かに、真っ直ぐ俺に殴りかかってきたけどねっ!
俺はもうこれ以上振り回されるのはごめんだと、意を決しグイと彼女に近づいた!
「
勢いのままの行動は、期せずして超至近でっ!
お互いの胸を数センチ程の距離で
「…………随分と」
吐息さえ感じられる距離にも動じること無く、赤い唇がそっと動く。
――っ!?
なんだ?
絶えず柔和な微笑みを浮かべていた少女の表情はそのままに――
”
「……」
そしていつの間にか、詰め寄っていたはずの俺が固唾を呑む側だった。
「随分と
――うっ!
俺はその彫像よりも遙かに整った美しさの笑顔にゾクリと背筋が突っ張った!
――本当に希なほど美しい
「……」
「……」
時に”究極の美”という代物は、鑑賞する者の不安を孕んだ危うさを投影させ、”
――それは、最も古きに連なる高貴なる
――それは、種の起源と終焉で在る深淵から奏でられる
どちらにしても”人智の外側”、俺には専門外の脅威である。
「………………とりあえず、乗ってくれ」
「はい」
結局……その時、俺にはその受け応えしか用意できなかった。
バタン!
ブロロロローーーー
今日、断トツで一番!噂の二人は下校中の生徒達による好機の視線を一手に受けながら、英国製高級車へと乗車し一路我が家へと走り出したのだった。
「……」
「……」
――”随分と
変わらぬ穏やかな表情で、窓の外へと視線を向ける少女を盗み見ていた。
――”
あの時、優しげな瑞々しく赤い唇からはとても似つかわしくない、そういう恐ろしい
第四話「刃の下に心……」前編 END
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