第2話「綺麗な薔薇には」前編

 第二話「綺麗な薔薇には」前編


 「少々手違いがございまして、阿久津あくつ様、参加の女性はこれからお着きになります」


 元はアメリカの人気番組であるリアル恋愛サバイバルドキュメントの日本版、”MASTER JAPANマスター・ジャパン”のMASTERマスターに選ばれた俺は女性がひとりもいない豪華な夜宴パーティー会場で絶叫したが、直ぐに控えていたタキシード姿のナイスミドルに声を掛けられる。


 「お、おぉ!貴方は確か阪堂ばんどうさんっ!!」


 ――阪堂ばんどう 琢己たくみ、四十四歳


 その人物はきちんとした正装に身を包んだ司会進行役、浅黒く日に焼けた肌にダンディな口髭がトレードマークの健康的なイケオジ、俺もテレビの”MASTER JAPANマスター・ジャパン”シリーズで何度も観ているお馴染みの顔だ!


 「そ、そうなんですか、今回は高校生バージョンってことで先に女性が会場入りしていると秘書から聞いていたものですから……では通常回通りに女性がリムジンで順に来るのですね」


 俺はほっと胸をなで下ろし、そしてガーデンテラス側にあるガラス越しにずっと向こうの道路を眺める。


 「いえ、それは……」


 「どんな女性達が来るんでしょうね?ね?どうですか?阪堂ばんどうさんの経験キャリア的に今回はどんなレベルなんですかっ!?ははは、楽しみだなぁ」


 「いえ、ですからそれは……」


 「あっ!?もしかして俺、門の方のガーデン中央付近で待っていた方が良さげですか!?毎回いつもそうですもんね、ええと、じゃあ移動しましょうか!?」


 ダンディな司会進行役である阪堂ばんどうさんは何か俺に言いたげだったが、すっかり舞い上がってしまっていた俺はそんな彼の様子には微塵も気がつかずに勝手に部屋を出ようとした……


 ――コンコンッ


 その時だった!


 不意に軽いノック音が響き、夜宴パーティー会場のドアが開いた。


 ――お!?


 白い、清楚なリボンに装われた艶のある美しい黒髪ロングヘアー、


 美術品の域まで完成された西洋人形プペ・アン・ビスキュイ連想おもわせる、白く白く輝く肌。


 もぎたての石榴ざくろの様に瑞々しい赤い唇……


 ――と


 何故か豪華な夜宴パーティー会場には似つかわしくない清楚なセーラー服姿の美少女がひとり。


 普通なら違和感しか無いその取り合わせにも俺の思考と視線は……


 ――まるで冬の清らかな夜空に輝く天の川銀河


 ――”銀光の流路ラ・ヴォワ・ラクテェ”の双瞳ひとみ


 一目で生粋のお嬢様だと理解させられる気品溢れるとびきりの美少女に一瞬で魅了され、そして今の今まで抱いていた多少よこしまな感情さえもすっかりどっかに置いてきて惚けてしまっていた。


 コツ、コツ、コツ……


 大理石張りの床を、黒く光るエナメルの革靴が小さめの歩幅で歩みを刻む。


 「え……えと……はじめ……はじめまし……」


 「エントリーNO.1、S.Kです」


 「…………………………は、はぁ……………は?」


 未だ遭遇した事が無かった”超美少女”という圧倒的威圧感オーラに、完全にしどろもどろになる俺に、その美少女は全く感情の無い表情かおでそう名乗り……


 名乗り……


 ――いや!名乗ってねぇぇぇぇっ!!


 「S.Kってなんだよっ!?なんでイニシャル!!自己紹介になってないんじゃ……」


 慌てる俺にも彼女は全く変わらずこう零したのだ。


 「………………別に他意は……少し汚れそうで」


 ――おおぉぉーーいっ!


 ――俺に名乗ると名前が汚れるのか!?


 「てか俺ってバイ菌マン!?固有名称を汚染するバイ菌ってどこの独裁国家の最新兵器だよっ!はぁひぃふぅへぇほぉーー!」


 彼女の言葉は”他意”が無くても、”悪意”に満ちていたのだった。


 「阿久津あくつ 正道まさみちさんですね、よろしくお願いいたします」


 「なにがどうなってそういう会話にっ!?」


 頭を少し前傾に、美しい黒髪をサラサラと流れさせた美少女はそう言って俺から離れた場所に移動する。


 「会話も弾んでいるようですがMASTERマスター、そろそろ”薔薇の儀式ローズ・アクセプト”です」


 「弾んでねぇぇっ!!?……阪堂ばんどうさん!アンタどんな目を…………は?」


 ――”薔薇の儀式ローズ・アクセプト”!?


 ――って、まだ”ひとり”しか……


 第二話「綺麗な薔薇には」前編 END

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