『大長編ラヂオな時間 -TWO WORLDS- 黒き瞳の乙女』
@spaceblue
プロローグ「休暇の始まり」
季節は春真っ盛り。世界の中心都市であるこの街は相変わらず、明るい混沌に満ちていた。道行く人の身なりはよく、ビジネスマン、着飾った女性、アイスクリームの売り子、コーラを売る自動販売車…。時折子供たちの歓声が学校から聞こえてくる。平和な一日だ。
そしてニコとトムのラジオ局も平和な一日を過ごして……いない。
局員は、ここ数週間泊まり込みの状態にある。
南の島国で起きた革命戦争についに終止符が打たれたのだ。
ニコとトムのラジオ局だけではない。新聞各社、他のラジオ局も二十四時間、現地との連絡を通して革命の様子を報道し続けている。休んでいる暇などないのだ。
「頼むからみんなラジオの電源切ってくれ。」
ニコでさえこんな愚痴をこぼす多忙な一週間だった。
「しょうがないよ。報道はラジオの義務。政変ともなれば尚更だよ。」
なだめるトムも疲労の色が濃い。
「とはいってもな…。うちみたいな二流のラジオ局でも報道しなきゃいけない大義なんてあるのか。」
「立場に不満があれば、人の三倍働け。」
ニコとトムが振り返ると、直属の上司がじろりと睨みながら言葉をぶつける。
ダニエル・ブッシュマン。
ニコたちの就職面接を担当し、採用したこのラジオ局の課長だ。
「課長はそれだけ仕事をこなしておいでですか。」
皮肉には皮肉をと言わんばかりに、ニコがつぶやく。普通なら許されないこんな台詞も障がい者のニコなら、多少は許される。ラジオ局ではルーキーでありながらニコとトムは特別な立ち位置を占めていた。
「聞け。」
ダニエルが言う。
「この報道については今日をもって終了とする。お堅い政治の話に聴取者もついていけないらしくてな。毎日毎日、ラジオをつければ革命だの人民だのという話を聞かされて、みんなくたびれきっている。明日からは娯楽番組を充実させる予定だ。」
「あー。それはカワグチのサックス番組なんかをやるようなわけですか。」
「いや、それ以前にお前たちには休暇が必要だ。」
「はい?」「はい?」
訳が分からないという表情をした二人に対し、ダニエルは構わず続ける。
「休暇だ。両足のない人間をこれ以上働かせると、何が起きるかわからん。お前たちには休みを命じる。」
「ありがたい話ですがね。この街でゆっくり休める場所なんてありませんよ。」
ダニエルは渋い顔をして、
「わかっている。だから場所は外国だ。」
「外国って…。海外旅行の斡旋をしてくれるということですか。」
驚くトムにダニエルは、
「その通り。海外旅行だ。お前たちは働きすぎている。しばらく海外でのんびりしてこい。」
「軍隊にいたころは外国は山ほど行ったけど、ちっとも休めなかった。どんな国で休んでこいと?」
「ちょうどいい国を知っている。異国情緒あふれる南国だ。航空機のチケットも用意するから、旅の準備をしろ。」
こうして私たちは東の南国に旅立つことになってしまった。のちに言われる「ザヒル藩王国反乱事件」の幕は実質的にここから始まった。行く手に待ち受ける巨大な運命に気づくこともなく、私たちはのんきにスーツケースのサイズはどうしようか、パスポートの受け取りはどうする、という他愛のない話をしながら、出発の準備を整えることになった。
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