旅の途中

シヨゥ

第1話

「このまま川沿いに歩いて行けば渡しをやっている奴が居る。1人10か15で向こう岸に渡してくれるはずだ」

「そうなんですね。分かりました。ありがとうございます」

「良い旅を」

 村人に会釈をしてまた歩き出す。こうして川に行く手を阻まれたのは何度目か。

「母さんもよくこんな旅をして父さんの下に嫁いできたな」

 目指すは母さんの故郷だ。

「船が出るぞ!」

 そんな声が聞こえた。

「待ってくれ!」

 叫ぶと遠くで腕を振る姿が見える。どうやら聞こえたようだ。のんびりと歩ているわけにもいかず走りだす。

「よう頑張った、よう頑張った」

 駆け寄ると若い男が出迎えてくれた。

「料金先払いだ。お前なら……15だな」

「その基準は?」

「荷物の多さ」

「それなら仕方がない」

 支払いを終えて船に乗り込む。同船するのは自分を入れても4人、いや5人か。

「船が出るぞ!」

 もう一度若い男が叫ぶ。それに応えるものはいない。

「もっと詰めな」

 若い男が船に乗り込み櫂を握る。船が桟橋を離れゆっくりと進み始めた。

「どこまで行くんだい?」

 一番近く、そして年のころも似ていたからか船頭の男が話しかけてきた。

「山向こうの村まで」

「何をしに?」

「親の家族に会いに」

「旅行かい?」

「家族の訃報を伝えにね」

「それは……お悔やみを申し上げる」

「どうも」

「父さんかい? 母さんかい?」

「全員。村の裏手の里山が崩れてね」

 そう言うと船上が静まり返った。

「村が壊滅しました」

「それは、なんというか」

「御愁傷様でいいんですよ。それ以外に言う言葉はないでしょう」

「そうだな。ご愁傷様」

「まあそんなで山向こうの村まで行くわけです」

「そのあとはどうするんだい?」

「村の生き残りは散り散りになったから……その村で住めれば御の字。住めなければ当てなく旅するだけかなと」

「なるほどな」

 それっきり会話は起こらなくなった。

 ただただ川面を見ていると岸が近づいてくる。静かで平穏な船旅の終わりは、当てのない旅の始まりである。

「よい人生を!」

 船を降りるとそう若い男に声をかけられた。

「ありがとう!」

 そう返してまた自分の足で歩きだす。あと山一つ越えるだけで旅が終わればいいのだが。そう思わずにはいられないのだった。

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旅の途中 シヨゥ @Shiyoxu

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