そして魔王追放へ……。魔王苦悩す、魔物作りのセンスがない

カズサノスケ

第1話

「魔王様、魔王ベルゼ様!」


「うむ、どうした? ジゼル侍従長」


「人間どものゴルカンデ王国を滅ぼす為に送り込んだ魔物達にございますが……」


「どうした? 続けよ」


「例によって笑われております……」


「そうか……。またしても」


「王国の兵士どもが続々と笑い死にし、王族も悶絶しながら骸となった様にございます。そもそもの侵攻計画とは大夫違う形ではありますがゴルカンデ王国を滅ぼしましてございます」


「そんな事はどうでもいい! どうして我の最強魔物軍団が人間どもから最狂喜劇団などと呼ばれ続けねばならんのだ!!」


 不届きな人間の国では「歓迎! 求む、魔王軍襲来」とのぼりを立てているとも耳にする。そう言えばこの様な事もあった。狡猾な人間どもが無防備な城を装い我が魔物軍団を誘い込んだ。しかし、門を破って踏み込んだ先には舞台が用意されていた。村祭りの出し物として我が魔物が利用されたのである。許せぬ、卑怯なり人間どもめ!


「魔王ベルゼ様、険しい表情をしてどうなされました?」


「いや、人間どもをどの様にいたぶってやろうかと思案していただけだ」


「では、そろそろ魔彩の儀をなされますか?」


「そうだな。その前に、前回の儀で生み出した魔物がどの様な成果を上げたか報告は届いておるか?」


 歴代の魔王が受け継ぐ魔彩の宝具、それは魔筆と魔紙の2つで構成される。使用者の魔力が魔筆を通して魔紙に伝わり、描いたものを魔物として造成する事が出来るのだ。我はそれを並べて儀式を始める準備をしながらジゼルに耳を傾ける。


「はい。まずは乱れカマキリについてご説明致します。手鎌の数を8本に増やして乱れ切りさせる事で大幅な攻撃力上昇を見込んだ魔物にございます。この群れを冒険者パーティにぶつけたところ…」


「切り刻んだか?」


 我の頭の中には血みどろの姿で苦しむ勇者どもの姿が浮かんだ。どうだ?我の生み出す魔物をチマチマと狩って成長を続けようなどと考える勇者どもよ!真の恐怖におののくがよい。


「はい……。乱れカマキリ同士で隣り合う物の手や首をスパスパと。ほぼ自滅で壊滅にございます。勇者パーティは無傷どころか戦闘らしい戦闘もせぬまま数段レベルアップした様にございます」


「ぐっ……」


「やはり、手鎌は2本がベストかと。所詮、土台はカマキリですので数を増やしてもそれを管理して操るだけの知能が足りませぬ。改良するとすれば」


 魔筆を握った手に自然と力が込められ危うく折ってしまいそうだった。自分の手の指を……。歴代の魔王の中にこんな者がいたそうだ。どうしても勇者を仕留める魔物を創る事が出来ず悔しさのあまり魔筆を折ろうとしたところ腕の骨が折れた。そして、その傷から身体の崩壊が始まり、その魔王は先代の魔王に列挙された。


「もうよい! そんなものは捨て置け。そうじゃ、人面ひまわりはどうだ?」


「現在、畑で量産中でございますが……」


「どうしたのだ?」


「その光景を目にした人間どもからは既に違う名で呼ばれ始めております。可哀想な顔のひまわり、と。そして、連日見物人で溢れかえっておりまして、今では可哀想な顔ひまわりのグッズを売る露店も出ております。あれだけ賑わってしまってはもはや祭にございます。人間どもはさぞかし高揚しておるでしょう」


「なんだと!?」


「魔王ベルゼ様、顔の描画が独特過ぎると思うのです……」


「ぐぬぬぬっ……。えぇい、人面ひまわりはやめだ。人面トマトを創るぞ!」


「ベルゼ様ーーーー! どうか、どうか、人面シリーズはもうお辞め下さいませ! もう639シリーズ目にございますがベルゼ様の描く顔のカオスが深まるばかりにございます」


「ジゼル! そこまで我を愚弄するとは首をはねられる覚悟は出来ておるだろうな?」


「実はこれまで狩られた人面の魔物の死骸の展示会が催されている様で大盛況らしいと噂が。何でも笑い声が絶えず、とてもとても人間どもが幸せそうだと。これ以上喜ばせては魔王の威厳が保てませぬ。そっれをお守りする為ならばこの首惜しくはありませぬ!」


「ふぬぬぬっ……」


 思わず魔筆を魔紙に叩きつけるようにして書きなぐるところだった。危うくバラバラに千切れるところだった……、我の身体が。そもそも、魔力を使う事以外にどういく仕組みで魔物が創られるのかわからぬ魔彩の儀。その宝具も謎が多い。我が思った事を実行した魔王は身体がバラバラになり不本意ながら玉座を降りる羽目になった様だ。


「そうだ! ワニ熊はどうじゃ?」


「陸の強者と水辺の強者のチカラを併せ持つ水陸両用の魔物にございますな。熊の両腕からワニの頭を生やし、3つの歯牙が獰猛に食らい付く」


「それならば勇者どもとてひとたまりもあるまい」


「ワニ熊には頭が計3つで、口も計3つございます。つまり、食欲を持つ部分が3つ。それぞれが我先にと獲物を争い右手と左手でケンカすれば、今度は頭と左手でいがみ合う。そんな有様にございまして、1日中食事をしているか、自ら大怪我を負って動けなくなるか」


「どぬぬぬぬっ……」


「更に山で休むと主張する熊の頭部と水辺で休みたいとするワニの両腕がもめて結局休めない。実戦に出る機会のないまま過労死するものが続出しておりまする……。その姿を見た勇者パーティの賢者は」


「まっ、待て。賢者と申したか? あのすこぶる性格と口の悪い賢者か!?」


「はい……。その者、ワニ熊を勝手にこう名付けて呼び始めた様にございます。愚かすぎる腹話術士、そしてそれを生み出した魔王ベルゼ様を天下一の喜劇人形作家とふれまわっております」


「ほぬぅぅぅぅっ……。こうなっては新たな魔物を生み出すしかないのか。いや、我が創れば創るほど人間どもが喜んでしまう」


 6つある人間どもの国の内、結果的に笑い死にで5つ滅ぼした。あとは大国バラントを残すのみだ。しかし……。


「ジゼルよ、我は決めた。もう笑われるのは御免だ、全面降伏致す」


「なるほど……。では、魔王ジゼル様の配下として最後の仕事をせねばなりませぬな」


「ほう、さすがは侍従長よの。魔族の誰もが納得のゆく降伏理由でも捻りだしてくれるのか?」


「それは捻りだせるかわかりあせぬが皆が納得するのは間違いありますまい。者ども参れ! この先代魔王を捕らえ追放致す!」

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そして魔王追放へ……。魔王苦悩す、魔物作りのセンスがない カズサノスケ @oniwaban

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