第24集
播磨の津に着いた。ここからは1日で佐用郡である。
「うーむ」
「どうされました、主殿」
「どうしたものかとなあ…」
「もしかして、お父上のこと…ですか?」
「あの、前回も京を通った時にお父上を素通りされましたが…」
「それにはこの五郎めがお答えしましょう」
神妙な顔をして五郎が出て来た。隣の六郎も同じく。
「そも、少将様のお父上、堀川大納言様にとり、少将様は御嫡男にあらせられます。しかし、少将様のお母上、中納言の局様は早くに亡くなられ、後室をお迎えに」
「つまり、その…あれか?主殿は悪うないと言うのに…」
「はい。詰まるところ、廃嫡です」
「五郎、さっぱりしっかり言うでない!」
思った以上に包み隠さない五郎の言に、季房が頭を抱えた。子子子法師も憤慨する。
「ひどい!季房様のどこが!」
「幼少の砌より、腕白であらせられました。子供心に仕方ないなと」
「その腕白坊主に仕える貧乏くじだと、最初は思うておりました」
六郎も苦笑いして話に参加してきた。
「従五位の位は言わば捨て扶持。権威にはなるから、どこぞ関東ででも田を耕せ、と御家は追い出されたのです」
「なるほど、それで御家やお父上を良く思われぬと」
良兵衛は合点が行ったとばかりに頷いた。法師は頬を膨らませる。
「勝手です!成功した捨て子に声を…集りの類いではありませんか!」
「これ、お方殿。しかし、主殿。それでは、五郎六郎が気の毒ですぞ。というか、2人は実家に帰ってみたいのか?」
良兵衛は折衷案で、主筋になるであろう妹を敬うには中途半端な呼び方にした。季房や法師と相談の末だった。
「うーん、父は嫌いではないけど…」
「別にどうでも良いなあと…」
「ドライなのだな」
呆れる良兵衛である。
「こやつらの父・判官代はな…まあ、厳格な父親だ。ただ、愛妻家でなあ…その辺りが嫌いになり切れない美点であろう?」
「まあ、夫婦仲はね」
「母が幸せなら、まあ」
そこは良いと季房。
「とにかくな、某はあまり、行きとうない。五郎六郎が里帰りするには構わんが」
「別になあ?」
「然り」
とにかく父親にはドライ。家庭が複雑な主従であった。
ついに佐用郡に到着した。方々に使者を遣わして触れを出し、佐用半郡の支配者が到着したと告げる。
「して、甚助」
「はっ!歓迎する村方、反発する村方、およそ四分六分!」
「半分ほどは大丈夫、か?」
「はい…しかし、20ヶ村の村長は18村までが出向くと!」
「うむ、ようやった」
「しかし、十数村が反発するとは…」
良兵衛は先行き不安に頭を抱える。ここ、赤松村の館に集まるよう伝令して1日。どうなることか?
「まあ、赤松ばかり贔屓されると警戒するだろうな。良兵衛、誤解は解かねばならぬ。説いてやれ、な?」
「は。今一度、貴人をお迎えして、一つの佐用を!」
そして、次の日、日が頂点に来た頃、つまり正午。赤松の館に佐用郡南半分の村長たち18人が集まった。
「皆々様、良くぞ来られた。新しき主君からの祝いである」
良兵衛はお汁粉を振る舞った。小豆は高くついたが、京や播磨灘周辺で買ってきた。餅は赤松村の持ち出しである。
「なんだあ?俺はこっち側だってか、赤松の!」
村長たちの1人、年配の男は佐山村の佐山勘蔵。集まった中では親・平家でもあった。彼がこの場にいるのが、良兵衛には以外ですらある。
「そりゃそうだ。だって、この小豆にゃ俺のへそくり全部吐き出してんだ!それぁもう、俺が振る舞うも同然よ!」
良兵衛は殊更、明るく振る舞う。尊大にはしないが、今の領主の手足は自分たちだと宣言する。
「おいおい」
勘蔵は焦った。領主が五位少将、京の貴族だとは聞いた。さっきの自分が財布を出したとの発言は、そんな男の品格を貶める発言だ。
「大丈夫だって、俺が首根っこ押さえてる。勘さん、あんたも乗るか?」
「へえ?支払いがキツいってのか?」
「そんなとこだ」
わっはっは!と2人して笑い合う。周りの警戒も少し、解けた。
「勘さん、汁粉が冷める」
「おっと、イカン」
箸を握った2人に続いて、他の村長たちも食べ始めた。
「うーむ、仕方ないが…某の甲斐性はどこへ行くのか」
「そ、そのうち!そのうち、追いつきますから!」
上座に簡易的に設けられた簾の向こうで、事の次第を見守った季房と法師。己の不甲斐なさが思い出されて膝を抱え出した主人を、法師が元気づけるのにしばらくの時を要した。
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