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 私は、二つのレストランの総料理長の松永さんに会いに来ていた。お昼が落ち着いた頃をみて、裏から訪ねて行ったんだけど、客席に案内され待っているように言われた。


「待たせてすみませんね ちょっと、片づけてきたもんで・・ 珍しいね、今日はどうかされましたか」と、もう60に近い松永さんが来てくれた。松永さんは、私が小さい頃、よく、遊んでもらっていた。


「お久しぶりです すみませんね、お忙しいのに 私、松永さんにしか聞けなくて・・ 高井さんのこと」」


「やはり そうですか 実は、お嬢さんはどうしているのかなと気にはなっていたんです。高井のことは、色々と複雑でね、ここでは、あまり話が出来ないので、僕は、明後日休みなので、お嬢さんの学校の終わった後にでも、別の場所で会えませんか」


「良いですけど 飲食店は、学校の帰りには、ちょっと 市民会館のロビーで良いですか」


「もちろん 先週、病院にお見舞いに行ったんですけど、社長は、あまり仕事のことはねぇーという感じでしたね」


「えぇ まだ でも、回復すると思いますよ 頑張ってもらわないと・・」


 - - - ☆ ☆ ☆ - - -


 その日、ロビーのベンチに座って、松永さんは待っていてくれた。


「ごめんなさい お休みで、ゆっくりしたいのに 出てきてもらっちゃって」


「いいんだよ 僕も、お嬢さんには、一度、会って話をしなきゃって思っていたから 今から話すことは、お嬢さんには、少し酷なことかも知れないし、僕だけが感じていることだからね」


「わかりました 私、松永さん信じていますから、何でも話してください。お父さんと高井さんのことも」


「君のお父さんは、学生の頃から福井の美浜の民宿によく遊びに行っていたんだ。30歳になって、今の店を開いた後もな。その時、あの子が小学生で、懐いてくれて、可愛がっていたそうだ。だけど、10年ぐらい前かな、突然、主人が亡くなってな、でも、しばらく母と娘で民宿は続けていたそうだ。だけど、続かなくなって、娘を自分の店に来ないかと社長は誘ったんだ。それから、彼女は経理の勉強してな、うちの店でも一生懸命仕事していた。でも、社長は、気にはしていたけど、奥さんが言うような男と女の関係では決してなかったよ。彼女も社長のことは信頼していたみたいだけど」


「本当ですか 私、お父さんを信じていて良かった 高井さんと連絡とれます?」


「それがな 知らないんだよ 辞めたのも突然だったしな」


「そーなんですか 私、あの人にも可愛がってもらったから・・」


「うん 仕事も真面目だったしな それと・・僕は、お嬢さんに余計な苦労かけるつもりはないんだけど、今から話すこと、辛いだろうけど、しっかり受け止めて欲しい」


「わかった 覚悟して、乗り越えるつもりで来たから」


「実は、奥さんが会社内にかかわるようになってから、ホールの人間が次々と辞めているんだ。給料を下げられたらしいのだが、総務の上野の提案らしい。それに、あいつは、近くに新しく出来るチェーン店に引き抜きの話があって、うちの調理の連中も連れて行くという話が出来ているらしい。実際、調理の2番手との間では話が出来ている」


「それで、松永さんは?」


「僕は、社長との恩と義理があるのわかっているからね 多分、あいつは、僕には、内緒にしているよ」


「ありがとう 松永さん お父さんを何とか支えてね」


「もちろんだよ 社長は、従業員にいつも感謝していて、儲かると特別手当を出して、自分の分は減らしていた。立派だよ。奥さんは不満に思ってたらしいけど。僕も、社長には、さんざん世話になってきた。僕には、子供も居ないから、お嬢さんのことも自分の子供というか孫というか、可愛いと思っているし、何とか守りたいと思っている」


「それを聞くとお父さん喜ぶと思うわ 色々と思いだすかも」


「お嬢さん まだ 言っておきたいこと、あるんだよ 言いにくいことだけど 上野と奥さんの仲があやしいんだ だから、今じゃぁ、上野の言いなりで・・ふたりで会社の金を貯め込んでいるってウワサだし」


「松永さん そんなことって あるわけないじゃぁ無い お父さん、あんな状態だし、私も妹の 清音きよね も居るのよ」


「お嬢さん 奥さんは、社長が従業員に給料を出し過ぎだって、やり方に前から不満を持っていたんだ。それに、高井のことが重なって・・奥さんはまだ若いし、上野になびいたんだろう」


「お母さんって、そんな風な人だったんだ。だから、お父さんのことも、あんまり面倒見ていないし。最近は、家のこともほったらかしで・・私、会社のことが忙しいんだと思ってた」


「僕の勘違いだったら、良いんだけど お嬢さんには、この際、知らせておいた方が良いと思って 覚悟しておいてください お店も、多分、閉められていくと思います」


「えぇー そんな状態なのー」


「今まで、社長がやりくりして伸びてきたんですけど、今はー すみません 僕には、どうにも出来なくて・・料理のことしかわからないんです」


「松永さんのお気持ちはわかりました。有難うございます。私、そのこと頭に入れて行動します。でも、松永さん、私達のことは、気にしないで置いてくださいね 今からでも、条件の良い所あったら、移ってくださいね 私、これから病院のお父さん看に行かなきゃ またね」


「お嬢さん これ プリンです 社長に食べてもらってください 僕が作りました」


 私は、病院に向かう途中、涙が出てきていた。何の涙かわからない。色んなことを聞いたので、頭ん中も混乱していた。だけど、お父さんと高井さんが変な関係じゃぁなかったことだけは、安心していた。

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