第3話 アルマジロの心
この信也くんへの想い、叶うのかな……。そんな事を考えていると。
「俺が後ろから押すから、この屋上を一周しないか?」
それは、この車椅子生活で特別なイベントだ。わたしは照れながら車椅子を押される。
「あのさ、頼み事があるのだけれど……」
王子様がわたしに頼み事?小首を傾げるわたしに対して王子様は続けて話す。
「ショッピングモールにある雑貨屋で自分用のマグカップを選んで欲しいだ」
なんだ、簡単なことしゃない。
「今度の日曜日に一緒に来てくれないかな?」
うん、うん。
「はい、良いですよ」
小さな事でも頼られるのは気分が悪くない。あれ?気楽に返事を返したけど、これってデートの誘いでない?イッキに血流が高鳴り。ドキドキが止まらない。
熱い、心が抑えきれないくらいの想いだ。
「あ、あの、その……」
タジタジしているわたしをよそ眼に信也くんは嬉しそうにガッツポーズをしている。
あーこれはもう断れない。
「ヨシ、このまま、屋上をもう、一周だ」
信也くんは車椅子に座るわたしの後ろで、爽やかな笑顔である。わたしの乗る車椅子は再び動き始める。
はわわわわ。
焦るわたしは止めてと頼むが無駄であった。大切な人が近くにいるわたしは小さな幸せを感じていた。そして、携帯の番号まで交換してしまった。
午後の授業を受ける頃には隣に居る王子様のことが、さらに特別になっていた。
それから、午後の授業は体育の時間であった。無論、車椅子なので見学である。女子の体育を見ていても微妙な気分だ。わたしは男子の班に向かう。サッカーゴールの付近でPKをやっている。ゴールキーパーはサッカー部の人であり。クラスの男子が交代でシュートをしている。
おや、信也くんの出番だ。
華麗に蹴られるボールはキーパーの横を通りゴールに突き刺さる。
「きゃー」
黄色い声援が飛ぶ。王子様には固定ファンもいるようだ。そうそう、確か信也くんはサッカー部のキャプテンであった。そして信也くんがこちらに近づいてくる。
「恥ずかしいところをみられちゃったな」
ゴールを決めたのにポリポリと頭をかいている。
「俺がキャプテンなので決めて当たり前は恥ずかしいのさ」
わたしは自分に厳しい信也くんを見て改めて車椅子に乗っている事を考える。しかし、答えは出なかった。
折れた羽根、飛べない空、車椅子の生活……。
「おーい、天野、女子の班に戻れ」
わたしが色々、考えていると、体育の先生から指示を受ける。車椅子を動かして移動を始める。
「手伝うよ」
信也くんはわたしの車椅子を押してくれる。
目立つなー。
わたしに対して優しい顔の信也くんは幸せそうであり。固定ファンもわたしの存在を認めてくれたようだ。女子の班に合流すると信也くんは笑顔で去っていく。
その夜の事である。わたしは時美さんの作ったアサリの味噌汁を飲んでいた。それと、白いご飯とお魚の刺身である。居候にはありがたいかぎりである。
「天野さん、学校に送ったメールだけど。あなたは心の病で車椅子に乗っている事にしてあるわ」
辻美さんが淡々と話始める。やはり、足が不自由でないのに車椅子に乗っているのは問題らしい。それでも、姉の辻美さんは心の病と認めてくれた。心の病か……折れた羽根の天使失格である、わたしは心の病に見えるのであろうか?
「ありかとう。でも、本当に心の病に見えるの?」
「バカね、普通は車椅子に乗って生活などしないわ。どうせ、羽根の折れた小鳥みたいなモノでしょ」
時美さんは確信をついてくる。肝心な所で勘がいい。どうやら、わたしの見せる時々の寂しげな表情は羽根の折れた天使に見えるらしい。
そんな重い空気の中で、わたしは羽根が折れた日の事を思い出す。確か強風で突然羽根が動かなくなり、墜落してボキリだ。さいわい、怪我はなかったが羽根は折れてしまった。
それからは折れた羽根の悪夢を見ることが多い。起きていても微睡の中での悪夢のような感覚に襲われる。
わたしは天使失格だ……。
ふさぎ込むわたしに辻美さんがチーズケーキを取り出す。
「天野さん、コーヒーを入れてくれるかしら、整ったらチーズケーキを一緒に食べましょう」
「はい……」
わたしはキッチンに行き、お湯とインスタントコーヒーをカップに入れて運ぶ。辻美さんと時美さんはブラックである。
わたしは角砂糖を一つ入れる。まだ、短い同居生活なのにコーヒーの好みを覚えてしまった。わたしが席に戻ると辻美さんはチーズケーキを配る。この生活は修行のはず。でも、天上界にいた時より心がくすぐられる。わたしの羽根が戻ればと本気で思うのであった。
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